突然だけど、僕の恋人を紹介させて欲しい。
『二階堂ヒロ』
曲がったことを嫌い、【正しい】を信条としている彼女の性格は、その容姿にも表れている。
漆のように深く艶やかなな黒髪は、腰まで届くストレート。
理知の光を秘めた瞳は深紅色を宿している。
背筋は当然、真っすぐに伸びており、落ち着き払った彼女の話し方も相まって十五歳とは思えぬ雰囲気を纏っている。
正義への想いが強く、暴走してしまうところもあるが、それも愛嬌だろう。
そんな完璧な容姿を持ち、振る舞いも大人びている彼女の魅力は語りだすと止まらないので自重するが、最大のチャームポイントを挙げるとするなら、笑顔である。普段冷静な彼女が笑うという事自体珍しいのだが、心を許した人の前でのみ見せる、朝日を思わせる柔らかな笑顔。これが二階堂ヒロという少女の魅力を何段階も引き上げているといえる。
特に秀でたモノもない僕だけど、二階堂ヒロを彼女にできた事は、過去現在未来、全ての時間軸において最上の幸福といえるだろう。
「なあ、君」
「ん?」
「私を褒めてくれるのは有難いのだが、このような往来ではやめてくれないか。いくら私といえども、その……恥ずかしい」
「あっゴメン。ヒロちゃんとデートできるのが嬉しくて、つい」
「……っ、素直なのは君の美点だが、時と場所を弁えるように」
「うん、わかったよ」
少し顔を赤らめながら注意をするヒロちゃんに癒されながら、今日のプランを再確認する。
今日のお出かけ先はとある遊園地。
五種類もあるジェットコースター。
夏にはぴったりな北極を舞台にした空調がガンガンに効いている迷路。
ノスタルジーを感じさせる古き良きゲームコーナー等、注目ポイントは色々あるけど、最大の目玉は世界最大の大きさを誇る観覧車だ。
夕焼け。観覧車。ふたりきり。何も起きないはずもなく——
などと頭の中に花を咲かせているとヒロちゃんから声がかかる。
「そろそろ行こう。時間は有限。無駄にするのは正しくない」
「そうだね。じゃあ、ん!」
「なんだその手は?」
「手、つなご?……ダメ、かな」
「……っ、まったく君は!いちいちその目をするのはやめないか」
そういいつつも手をつないでくれるヒロちゃん。
口では色々言うけれど、なんだかんだお願いを聞いてくれる。
ホントに優しいんだから。好き。
そうして無事遊園地についた僕たちはアトラクションで遊び倒した。
いつも頼りになるヒロちゃんだけど以外にもジェットコースターのような絶叫系は苦手だったようで、あんなに足を震わせているヒロちゃんは初めて見た。
かわいかったなぁ。
なんて、ヒロちゃんがあまりにもかわいくてからかっていたら、やり過ぎちゃったみたいで次はお化け屋敷に連れていかれた。
男としての威厳はゼロになり、ヒロちゃんにしがみつきながら完走した。
お化け屋敷を出たヒロちゃんの顔はずいぶん赤らんでいたけど、失望させちゃったかな?
ひとしきり屋外のアトラクションを楽しんだ僕たちは、涼みがてら北極迷路に挑戦した。
北極をイメージしているだけあって室内はかなり寒く、ふたりで密着しながらクリアした。
身体を密着させるアトラクションは本来なら役得であるはずなんだけど、いかんせん寒さが尋常ではなく、幸福を感じる余裕もないまま終わっちゃった。残念。
そんなこんなで遊び倒してあっという間にお昼になり、僕らは園内のレストランで昼食をとっていた。
僕はオムライスで、ヒロちゃんはペペロンチーノ。
だいぶ体力を使っていたのもあって、美味しさもひとしおだった。
しばらく無言で食べ進めていた僕たちだったけど、ふと、ヒロちゃんがワルい顔をして言い放った。
「レジャー施設の食事には正直あまり期待していなかったが、中々どうして良くできている。君も食べてみるといい」
「えぇ!?」
ペペロンチーノを器用に一口分にまとめ、こちらへ突き出してくるヒロちゃん。
突然のことに反応できずにいると、半開きの口にそれが入ってきた。
「いつもやられているお返しだ。君はやはりいい顔をする」
得意げな顔をして自分の食事に戻るヒロちゃん。
いつもとは逆の立場にドキドキしながら食事を再開する。
ずるいなぁ。
そうして食事を終えた僕たちは再びアトラクションを堪能した。
コインゲームでムキになるヒロちゃん。
コーヒーカップで張り切ってハンドルを回すヒロちゃん。
シューティングゲームで集中しすぎて無言になるヒロちゃん。
今日一日で随分と宝物が増えてしまった。
そうして現在。最後のアトラクションとして、僕たちは観覧車に乗っていた。
お互い口数は少ないけど、心地のいい時間が流れていく。
ホントに今日は最高の一日だった。いろんなヒロちゃんが見られたのもそうだけど、遊園地という場所に縁が無かった僕にとって初めての体験でいっぱいで、きっと一生この日を忘れることはないだろう。
そんなことを考えていたらいつの間にか観覧車は頂点に達しており、停止していた。
「ねぇ、ヒロちゃん」
「なんだい?」
「今日ね、すごく楽しかった。多分、ううん、人生で一番!」
「そうか、君が楽しめたのならなによりだ」
優しい笑顔でヒロちゃんは言う。その笑顔は一枚の絵画になるほど綺麗だった。
たまらず僕は口を開く。
「あのね、ヒロちゃん——」
しかし、言うはずだったセリフは最後まで音になることはなく、僕の意識ごと、闇へと落としていった。
僕が最後に見たのは、いつもの表情豊かなヒロちゃんではなく、人形のような真顔を張り付けた二階堂ヒロだった。
「——【戻った】か」
私は背中を伝う汗の冷たさを感じながら、自室のベッドから起き上がる。
もう何度目になるだろう。
今日の夕方、私の恋人は死亡する。
元々身体は強い方ではなかったが、それに加え、治る見込みのない不治の病を患っていた。
しかし、最近は小康状態であり、容態が安定していた為、病院から外出の許可がおり、久しぶりの外出デートができる日だったのだ。
だが、今日の夕方、どのようなシチュエーションになろうと彼は急な発作を起こし死亡する。
もう何度も見たことだ。
一度目の死に戻りは故意ではなかった。彼のいない世界に耐えきれず、彼が死んだと同時に自刃した。
私は悪を許容しない。自殺という行為は悪だ。
だが、発動するはずのなかった魔法は行使され、当日の朝へと死に戻った。
最初は絶望した。彼と一緒に死ねず、また彼の死に様を見なければいけないという状況に。
だが、その状況を変えれば彼を救えるかもしれないと思い至った私は様々なパターンを試した。
しかし、そのすべてが無駄だった。
抗う私をあざ笑うかの如くあらゆる方法で彼は死んでいった。
彼の命が終わるたびに、また私の心も終わっていった。
そうして何度もループを繰り返すたびに思ったのだ。
このループを繰り返している限り、彼は死なないのだと。
だから私は今日も今日を繰り返す。
すべては彼が存在する『正しい』世界を続けるために——
斯くして、少女の幸福な今日は続いていく。
その心が真に擦り切れ、なれはてとなるまで——