上位種人間拉致百合確保 作:クリームパイ
「パーティ、解散しよっか」
深夜の公園、街灯の下で幼馴染の輝良にボクは告げた。
ボクたちが組むパーティってのは戦闘チームみたいなものだ。
ダンジョン、そう呼ばれる奇妙な空間で戦うためのチーム。幼馴染の彼女が突然ボクの家に飛び込んできて、それから成り行きで一緒に戦うことに。
輝良とは本当に長い付き合いで、幼稚園の頃から互いの家に行く仲だった。
彼女の家は本当に厳しいことで知られてる道場を開いており、その道場で常に鍛えられた輝良はそれはもう恐ろしく強い。
剣道大会に出れば賞を総なめにするし、たとえ年齢が上だってかなわない。
「……え?」
「ごめん」
「なん……で……? りつ……?」
黒水晶みたいに綺麗な瞳が真ん丸に開かれて、彼女の狐耳がへにょりと曲がる。
輝良は普段表情があまり変わらない。けれど彼女の耳や尻尾は逆に雄弁なほど表情をあらわにするし、だからこそボクは……胸の痛みを我慢して一歩下がった。
ダンジョンで戦えば戦う歩と人の身体は人外に近づく。
角や耳、尻尾が生え、魔術の力は増し、膂力ははるかに上がる。
「わたしのこと、こわいの」
「っ、違う! ボクはそんなの……っ!」
そうだ、怖いわけがない。
子供のころから一緒に過ごした幼馴染だ。一緒にお風呂に入って遊んで、竹刀を握らせてもらったり……どれも全部大事な思い出。
だから輝良がダンジョンに入りたいなんて無茶なことを言いだした時も、少し怖かったけど一緒に入ったしここまで戦ってこれた。
……理由はただ一つだった。
ボクは弱すぎた。
当然だ。輝良と違って一般女子高生として過ごしてきたボクは、元々運動だって大して得意じゃない。
それに輝良はあっという間に力が増していって耳が生え、ついには先日四本目の尻尾まで生えてきた。
同じ敵を倒してるはずだったのに。
そう、彼女はそこまで力を増し魔術を好きに操れるようになっているのに、ボクは相変わらず剣を振るうだけ。
その剣だって輝良のレベルに合わせた敵だと弾かれる。
「輝良のために、ならないから」
唇を小さく噛みうつむいた。
ボクはお荷物だ。
本当は初日から分かっていた、スライムを切り裂く彼女の横でスライムに捕まっておぼれかけた時から。
弱くて使い物にならない。
なのに彼女の足を引っ張り続ける。どんどん強くなる輝良の足を引っ張って、本当ならもっと強くなれる彼女の邪魔にしかなっていない。
輝良は優しいし少し寂しがりだからボクを見捨てることなんてしない、でもそのせいで彼女の道が断たれるなんてボクが許せなかった。
「だから、さよならだ。じゃあね……きっと輝良なら、どこまでも強くなれるから」
振り返らずに歩いた。
輝良の顔を見たらきっとボクは泣いてしまうから。
一歩、一歩と。
足取りが重い。
歩く度に思い出がいくつも思い浮かんでくる。胸を締め付けるような苦しみがどんどん襲ってきて、目尻が耐えられないほど熱くなる。
ああ、明日から何をしよう。
今日まで必死に戦ってきたけど……もう何をしたらいいのか分からないや。
そうやって少しだけ鼻をすすって――突如背中を襲う衝撃に転んだ。
「っ!? なっ、なに……!?」
いったいなにが起こったの!?
転んだ?
いや、それにしては体が重い。
ボクは慌てて起き上がろうと――手足を襲う蒼い炎に気付いた。
この炎は輝良の炎だ。
炎なのに質量を持ち、彼女の任意で熱を与え、奪い、自在に操れる魔術の炎……!!
「だめ……だめだよ……そんなの絶対ダメ……」
「輝良……!?」
一歩、遠くの輝良が踏み出した。
「律はわたしのもの……律が言ったんでしょ、ずっといっしょって……?」
彼女の耳から、尻尾から、蒼い炎があふれ出す。
ゆらり、ゆらりと彼女が歩く度、その足跡にすら炎が燃え上がる。
彫刻みたいに整った顔から涙がこぼれ――それも炎に舐められて消えた。
「ちょっ、輝良……!?」
「わたしとずっといるって言った、一緒にいてくれるって言った、ずっと一緒だって、どこにもいかないって!」
なにか異様な雰囲気にボクは逃げ出そうと体を動かすも、蒼い炎はまるで鉄の枷のように体を縛り付け動くことが出来ない。
冷たいアスファルトの上でボクはただもがくだけだった。
「まっ、待ってよ輝良! パーティは組まないだけで……!! 輝良は強いから、一人で戦った方がいいってだけで!」
「律がいないなら戦わない! 戦いなんて興味ない!!」
「えぇ!?」
ダンジョンに誘ってきたのは輝良なのに!
「ちょっ、少し話そう!」
「だめ、もう逃がさない……最初っからこうすればよかった」
ついにボクの目前まで輝良がたどり着いた。
彼女はしゃがみ込みボクの腕を握る。
その細腕からは想像できない握力で手首をがっちりとホールドされ、輝良の整った顔がボクの目前にまで寄せられた。
「痛……っ!?」
「律がわるいんだよ、りつがわたしを捨てようなんてするから……!!」
「ちがっ、捨てようとなんて……っむぅ!?」
ねろりとした熱いものが口の中で暴れまわった。
それがいったい何なのかと気づいたのは、十数秒して彼女がボクから少し離れたその時だ。
てろりとした唾液の橋が互いの口元をつないでいた。
「き、キスっ……!?」
潤んだ黒い目で輝良がボクをねめつけた。
すこしだけどきりとするけれど、それ以上に混乱からボクはたまらず顔を逸らして――輝良の尻尾によって顔を真正面に固定された。
ふわふわと柔らかくて甘い香りのする尻尾なのに、想像以上の力強さで顔を逸らすことが出来ない。
「だめ、わたしをみて」
「はっ……はっ……ちょっと、まっんむぅ!?」
呼吸を許さぬかのように上からの口づけ。
暴力的な舌遣いに、耳元を抑えられて水音が脳内を反響していく。
何度も、何度も、自分の匂いや存在を刻み付けるかのように彼女は口づけを重ね――酸欠でボクの思考能力が奪われていく。
「ひゃ……めへ……」
「りつはわたしのもの、誰にもわたさない。もうどこにもいかせない、だれともしゃべらせない……りつがわるいの、りつがわたしから逃げようとするからだよ?」
酸欠であえぐボクの身体を輝良が抱きしめた。
優しく、けれど逃がさないという確固たる意志の下締め付けが強くなっていく。
「きら……どうし、て……!?」
「分からなくていいよ? もう、意味もない」
輝良の目が怪しく光る。
今まで見たことがない、未知の魔術。
それと同時にボクの手足やお腹に妙な熱が生まれて――何か入れ墨のようなものがくっきりと浮かび上がった。
「『わたしをだきしめて』」
「あ……体、が……!?」
彼女の言う通りに体が動いてしまう。
互いに抱きしめる姿勢。ぎゅうっ、と、柔らかな輝良の背中をボクも強く、強く抱きしめてしまう。
その瞬間全身へ走る感覚は――悦び。
彼女の命令を実行した瞬間、腕に、脚に、おなかに、異常なまでの多幸感が駆け抜け意識がくらりと飛びそうになる。
「ゆび、かまないで?」
「んぁ……!?」
体に力が入らなかった。
成されるがまま輝良がボクの口の中へ指を差し込み、同時に舌先へ熱い感覚が突き抜ける。
「ま、まひゃか……!?」
「『好き』」
「す……き……!?」
脳が焼ける。
頭がおかしくなる。
思考が全部ちかちかとした光に包まれて、だらしなく舌を突き出して口から唾液がこぼれる。
「『好き』『好き』」
「しゅき……しゅき……!」
こわれる。
ぼくがこわれる。
やけちゃう、いしきがこわされちゃう。
「『大好き』! 『大好き』! 『大好き』! 『大好き』っ!!!」
涙に溢れた視界の中で輝良がどんどん笑みを浮かべていく。
今まで見たことがないほどの満面の笑み。
脳が震えるほどの多幸感のなかでボクは彼女の言葉を何度も、何度も何度も繰り返しては貪るようなキスをされた。
全身ががくがくと痙攣し呼吸すらままならない。
そんなボクの身体を輝良は抱きしめて、高揚した真っ赤なほほをボクへ擦り付ける。
「わたしもだーいすき、だからもうどこにもいかないでね?」
「あぁ……へぁ……?」
「『大好き』」
ねろり、輝良がボクの耳を舐めた。
体がビクリと震える。
彼女はそうして目にも見えぬ速度で跳躍し――
そして、深夜の公園は再びの静寂を取り戻した。