あれから半月が経った。
俺は色々あって日本各地を転々としながら呪霊狩りを続けている。
本格運用するには出てくる呪霊の格が低すぎる。
ウィルスコア集めに憑神を使うのはオーバーキル過ぎて使えないのだ。
憑神の片手だけで霧散するとか予定外だ。
R2のモンスター達を見倣えよ、アイツらレベル100帯超えたら初期の憑神覚醒で確殺できなかったはずだぞ!
……まぁ、そんなこんなあって五条は自らの権力をフル活用して上層部に俺を呪術師として登録できるように捩じ込み、現在はほぼほぼ呪霊狩りで多少の金を貰いながら、ただ只管に呪霊を狩っていた。
俺はその過程でウィルスコアをアドラの鍵にできることが発覚し、それらを規定数集め終わり、遂に『幻惑の蜃気楼』……ではなく『増殖』のメイガスを先に攻略することにした。
理由は簡単で、コイツは要約すると反転術式……というよりもデータの無限生成を可能とする権能を持っており、それらを応用した広範囲攻撃を可能にできる、ある意味チートに片足を突っ込んでいる存在だからだ!
今後のルートとしてはメイガスからフィドヘル、ゴレ、タルヴォス、マハ、イニス、ラストにコルベニク。
正直、順番は前後して構わないが、コルベニクは別だ。
多分、コルベニクは第三形態持ちかオーヴァン仕様のどれかだろうし、何なら再誕がナーフ無しで実装されてたら魔虚羅コースまっしぐらだろう。
とは言え、多分何らかの抜け道や正解があるとは思う。
取り敢えずは何とかメイガスの調伏を完了しないとな。
俺は生得領域……ではなく、ギャリオン・メイズ大神殿に意識を落とし込む。
………
……
…
今は六月末。
五条からの知らせで虎杖 悠仁は無事に呪術高専に入ることができたようだ。
コチラもそれまでに予定通りゴレまで調伏できている。
それに嬉しい誤算もあった。
それはフィドへルの預言でコルベニクとの闘いは俺の勝利で幕を閉じるそうだ。
だが、それと同時に五条の封印も確定しているようだ。
それはそれで仕方がない。
五条にはそれとなく、言っておこうか。
そんな事を考えていると五条からメールが届いた。
あの人連絡は電話でする派の人だったような……。
『悠仁が死んだ』
その一言をだけだったがそこから滲み出る怒りは文面からも分かる。
あぁ、少年院行ったのか。
まぁ、生き返るから大丈夫だろうけど、様子だけは見に行くか。
俺は認知外空間を伝って解剖室まで向かうことにした。
………
……
…
高専内に組み込まれた死体安置所。
そのには三人の男女が一人の少年の遺体と向き合っていた。
「老人達のやり口は目に余るね、いっそ皆殺しにしてしまおうか……」
「おやおや、五条 悟と言う存在に胡座を掻いている人が言って良いセリフではないですなぁ」
五条の言葉を伊地知が止めようとした矢先、それは現れた。
五条以外の二人は突如、何の前触れもなく現れたそれを見て、驚愕する。
体から立ち上る呪力の桁がおかしいのだ。
精々が三級下位相当の呪霊を祓えるレベルの伊地知、一級術師として活動できるであろう家入からしてもこの闖入者は異質であった。
呪力の濃さは呪霊と比較にならないほど濃く、事前にここをマーキングして現れたのであれば、その時の残穢が部屋に残っているはずだが、それは感じられなかったことから二人は即座に術式ではない、文字通りの瞬間移動でここに来たと理解する。
それ故に二人は戦闘態勢に入ろうとするが、五条がそれを止める。
「二人とも、コイツは大丈夫」
「知り合いなの?」
五条の一言に家入は質問をする。
「初めましてだね、稀代の反転術式使いの家入 硝子、最高の補助監督の伊地知 潔高」
二人は謎の存在から名前を言われ動揺するも、家入は冷静を保つ。
「俺の名前は……覚えていないので八相かモルガナとでもお呼びいただければ幸いかと」
男は道化師のようにお辞儀をすると、五条に向き直る。
「で、五条さん。 虎杖君は本当に死んだのかい?」
伊地知は沈痛な面持ちで、五条もいつもの口調や態度とうって変わり荒々しさが目立つ。
「御三方は決定的に不足している認識があるご様子」
男は三人を見やると家入は眉を顰め、伊地知は慌て、五条はその言葉を静かに聞く。
「なぜ、虎杖が完全に死んだと思われますか?」
三人はそれぞれが理由を模索するが、五条はあることに思い至り、少しだけ顔が元の極楽蜻蛉な様に戻す。
「そうか、宿儺!!」
置いてけぼりの二人に俺が答えを伝える。
「虎杖 悠仁は宿儺の器として彼の生得領域に宿儺が居座っているのは何となく理解できるかと存じますが、そんな自らを呪物と化した存在が指一本だろうと消滅を受け入れるでしょうか?」
男は続ける。
「答えは否! 虎杖が何故、今も死亡状態でいるのかも理解できるはずです」
男の言の葉は紡がれ続ける。
「理由はおおよそ一つ。 虎杖 悠仁を生得領域内で縛りを結ばせるためでしょう。 後、付け加えるとするなら両者の拮抗も要因として上げられるだろう」
モルガナは虎杖の死体袋を開け、虎杖の死体を露わにする。
虎杖の死体は眠っているようにも見えるが死後水分を補給できてないためか唇は乾燥し、捺さくれ始めている。
男は両手を虎杖の心臓部分に翳し、念じるように目を閉じる。
刹那、この場の空気が重くなる。
呪力のようで異質な力の奔流が男に集まり始める。
「来い。 俺の……メイガス!」
五条はあの日と同じ空間に飛ばされたことに少しの驚き、家入と伊地知は初体験の認知外空間への移動に混乱する。
「なっ!?」
「まさか……領域?」
異様な空間、異様な呪力、正体不明の男の行動に二人の精神は許容量を超え始める。
そして、圧倒的な存在が背後にいるのを感じ、そこには歪な存在がいた。
四角錐のような仮面をつけた細い手を持ち、緑葉を思わせる二対の翅が連なるように生える蛇の尾のような下半身を持つ巨躯の怪物がそこにいた。
五条はそれがスケィスと呼ばれた死神の式神と同格の存在、八相の一つと即座に理解する。
『これは禍々しき八つの波の一つ、『増殖』のメイガス。 その本質は自他の増殖を促す権能を持つもの』
その巨躯が虎杖を掬い上げ、抱える。
『恐らく、虎杖と宿儺の縛りを賭けた闘いも終わるはずだ。 故に俺を信じろ』
メイガスはその巨躯からは信じられないほどのスピードで後方へと推進し、宙を舞う。
『メイガスよ! この少年の
その瞬間、不可視の力の奔流が爆発を起こす。
それは、生命の萌芽。
シナプスが爆発的増殖を起こすかのように、空間を染め上げる。
二人は光に目が眩み、五条はその光の奔流の中にでも見ることができたのだ。
虎杖の体から傷が消え、失った臓器が生成され、埋まり始めた傷口から覗いていたそれが脈打つ様を。
空間は元に戻り、モルガナの腕には死体袋に包まれた虎杖が寝息を立てている様を。
軌跡のような出来事にことばを失う三人はそれぞれが思考の渦に飲まれる。
そんな中、虎杖の目が開く。
「あ、あれ? 俺……宿儺にやられたそうなって……」
虎杖は青い顔をしながらも辺りを見回し、五条に伊地知、知らない白衣の女性と何となく胡散臭い男に囲まれていた。
そして、自分が死体袋以外何も付けていないことに気が付くのは、数秒後である。
………
……
…
暫くして、虎杖はジャージに着替えると知らない顔と挨拶をする。
「押忍! 虎杖って言います! モルガナ?さんには助けてもらったようで、ありがとうございました!」
「気にしないで。 そうしないと君、後々大勢を殺す羽目になってただろうから」
その一言に虎杖は硬直する。
「これは五条さんにも言えることだけど、どんな状況でも即座に割り切らないと封印されたり、大量虐殺したり、身内が死んだりとかするから気をつけてくださいね、特に五条さん」
「何で僕だけな理由?」
「だって、アンタ。 まだ夏油 傑の件を引きずってるでしょ?」
「親友を偲ぶのが駄目なのか?」
モルガナは頭を振る。
「悪いとは言いませんよ? ただ、フィドヘルの持つ預言でも運命は変わらなさそうだから」
「予言? お前、未来予知できるの?」
五条はモルガナに聞くがモルガナは再び頭を振る。
「ノン。これは未来予知ではなく神から預かる言葉、啓示のようなですよ」
モルガナは「それは置いといて、と」と言うと虎杖の方へ向き直る。
「これは君に向けた言葉じゃないから気にしないようにね」
モルガナは嫌らしい笑みを浮かべ、こう言い放った。
「よぉ、縛りは結べたか? 間抜け?」
『貴様か、 俺の邪魔をした愚物は?』
「おやおや、ご立腹のご様子で」
虎杖の頬に一文字の傷ができたかと思えば、それは唇と歯と舌、口角までを作り、モルガナに掛ける声のトーンは暗く、その口は怒りに歪んでいた。
「邪魔をするだなんてとんでもない……唯の愉快犯ですよ」
モルガナの口角はチェシャ猫のように釣り上がりつつもその瞳は油断無く虎杖の頬に表出した宿儺を見やる。
宿儺はその様子を恨めしそうに見ながら「貴様はそこの六眼の次に殺してやるぞ」と言い、宿儺は虎杖の裡に潜っていった。
「それで……いきなりなんだけど、五条さん以外は少し席を外してくれるかな? 今から話すことは五条さんにしか伝えたくないので」
モルガナの一言に五条を除く三人は困惑する。
「正直、高専上層部支給の品を持っている人にはあまり聞かせられないのでね。 聞き分けてほしい」
三人は渋々と言った様子で解剖室から一時退去する。
「で? 僕に話って? 三人……特に伊地知には聞かせられないと?」
「話が早くて助かります」
モルガナは周囲の物体を隈無く精査し、安全を確認する。
「盗聴器等はないっと」
モルガナは椅子を一脚引き寄せるとそこへ座る。
五条もそれに続いて座る。
「で? 内容を聞こうか」
「はい。 結論として、貴方はある呪物の力で封印される事が確定しています。 これは防ぎようはありません」
「さっき言ってたフィドヘルの預言ってやつか」
「そうです。 覆しようもありません。 更に言うなら今の精神状態・能力では宿儺の攻撃に対応できず、貴方は宿儺との決戦で死ぬ」
そう、五条の死は確定してしまっている。
よくよく考えて見てほしい。
あの五条 悟だぞ?
唯我独尊、孤高。
そんな言葉が人という皮を被って服を着ている存在だ。
己の生き方を捻じ曲げはしないだろう。
「それに確定情報として、敵方には特級呪霊が複数体いるし」
これは伏せてても回避不可能だろう。
「アンタは信じないかも知れないが、夏油 傑の遺体は横流しされてしまっている」
「は?」
五条の呪力が爆発的に膨れ上がる。
「これは事実であり、高専の腐敗だ。 御三家も何人か噛んでますよ」
正直、呪詛師含めても死体なんて特別な症例がない限りは焼却処分が一番だ。
「アンタ、火葬は見たのか?」
「見たくなかった」
「それじゃあ、アンタに責が出てくるね」
モルガナは続ける。
「アンタは誰にも手を出させずに火葬までしなければならなかった」
モルガナは更に五条を責め立てる。
「これはアンタが余計な感傷を抱かなければ起きなかった事態だ」
「僕の……俺の責任……か」
「ああ、アンタは呪術師らしく呪いしか作らない」
「正直、アンタに俺のロストウェポン……呪具を渡した所で宿儺に奪われて状況が著しく悪化する未来しか見えない」
「アンタは宿儺とのタイマンを望むだろうが、奴はアンタ専用の特攻を持っている」
「特攻?」
「そう。 特別な攻撃、アンタには特にぶっ刺さる即死攻撃を宿儺は保有している。 アンタの努力なんて路傍の石程度にしか思わないレベルの攻撃だ」
五条は考え込む。
自らの無下限による防御を無視する攻撃は何かを脳がフル回転で答えを求め始める。
「世界……次元や概念に近いレベルでの斬撃って事か?」
「Exactly」
五条は何故英語? と苦笑しながらも問いに含まれた回答を分解して内容を読み解く。
次元を断つ。
俺の術式は飽くまでも仮想の無限をこっち側に持ってきて俺と相手との間にその無限を生成して無限回の距離を分割し、アキレスと亀のパラドックスを発生させる術式。
つまりは無限をこの次元に落とし込むが故に無限が適応されない、ないし機能しない攻撃には無力……というわけか。
「難しい問題だね」
「難しい問題さ。 それから起こる事の中でスルーになければならない状況もある」
モルガナは少し考えた後、こう言い放った。
「高専が呪霊に襲撃され、高専保管分の宿儺の指と呪胎九相図の一から三が奪われるのだから」