1日空きました。
ではどーぞ。
10月上旬、秋の気配が本格的になってきた札幌競馬場。
夏の北海道シリーズの熱気も冷めやらぬ中、札幌2歳ステークスの興奮の余韻が未だパドックの隅々に残っているようだった。
「本当によく我慢したな、アルドール」
大島は誇らしげにアルドールの鼻面を撫でる。
デビュー戦となった札幌芝1800mの新馬戦を快勝した後、サクラアルドールは美浦の厩舎へ戻ることなく、この札幌の地に留まり続けていた。
理由はただ1つ、新馬戦と全く同条件で行われるこの札幌2歳Sを最大の目標に据えていたからだ。滞在競馬の強みを活かし、長距離輸送の負担なく万全の状態で挑んだレース。
アルドールはファンの期待に応え、稍重で更にタフになった洋芝を力強く突き抜けて見事に重賞のタイトルを掴み取った。
2000年代に入り競馬界は舍台グループ、特にサウザンファームを中心とした巨大資本のクラブ馬たちが席巻しつつあった。
至れり尽くせりの外厩設備とサンデーサイレンス系をはじめとする超良血馬たち。そのサンデー王朝の中でサクラ軍団のような伝統ある個人馬主、そして日高の純然たる内国産の血統が重賞を制した意味はあまりにも大きかった。
「太さん、まだちょいとコズミはあるがあんな走りをしたんだ。ちょっとのコズミで済むコイツは間違いなく怪物だ」
大島厩舎所属のベテラン厩務員
「ああ、アルドールは本当に良い馬だ。だけどここからが本当の勝負だ。賞金は加算できた、これからのローテーションを考えんとな」
そして数日経ち、札幌の滞在馬房から出発し馬運車で札幌競馬場からその姿を消した。
札幌からの長い馬運車での輸送を経て、サクラアルドールはついに美浦トレーニングセンターの自厩舎へと帰厩した。北の大地で一回り大きくなった愛馬の姿に、厩舎スタッフの士気も天を突くほどに高まっていた。
『大島先生、アルドールの次走の件なんですが』
夕方、事務室の電話を鳴らしたのはサクラアルドール・サクラプレジデント主戦の竹豊だった。
アルドールの札幌2歳S、プレジデントの札幌記念共に素晴らしい騎乗を見せた竹豊にとっても、このアルドールが持つポテンシャルには期待するものがあるようだった。
「豊か、ありがとうな。全内さんとも今後の路線を相談していたところだ。2歳王者を決めるとなればやはり朝日杯が一般的な選択肢になるが……」
当時の2歳戦線において、牡馬の最高峰はマイルの朝日杯…だった訳ではない。勿論だが朝日杯FSはGI。2歳牡馬にとって大きなタイトルなのは間違いないのだが、それと同レベル、いや以上のレースレベルを誇っていたのが
ラジオたんぱ杯2歳ステークスだ。
ナリタタイシンにタヤスツヨシ、アドマイヤベガやアグネスタキオンというクラシック戦線で頭を張るぐらいの未来のトップホースが集う阪神の芝2000mG IIIだ。
『大島先生、アルドールのスピードならマイルのGIでも勝てる自信はあります。ですが、僕たちがこの馬と共に見据えるべきは、来年の春。皐月賞、そして日本ダービーのはずです』
大島は思わず息を呑んだ。
騎手・竹豊の瞳に映る景色が自分たちと同じ、いやそれ以上に高い場所にあることを確信したのだ。
「クラシックを見据えるなら、目先のGIの肩書きに囚われるべきではありません。2歳のこの時期だからこそ、アルドールに中距離の経験を積ませたい!ですから先生、僕からはあのレースを提案させてください」
「
正直に言ってそもそもラジオたんぱ杯はメンバーレベルが朝日杯より良い年が多いのでG IIIなのが明らかにおかしいのだ。まあ後にG Iになるのだが…
『今年も例年と同じで来年のクラシック有力馬が出走してくるはずです、ですからどうか!頼みます大島先生!』
電話の向こうの竹豊はずっと確信に満ちた声だ。
『アルドールなら勝てる』そんな風に聞こえてきそうだ。
大島は少しの沈黙の後に、ニヤリと笑った。
「朝日杯をパスし、クラシックのために2000mの試練を選ぶ。そしてそこに現れるライバルを叩き潰して春へ向かう。これこそが、これこそがサクラの馬が往くべき王道だろう。よし、次走はラジオたんぱ杯に決定だ。それに向けて1回放牧に出してじっくりと馬体の成長を待とう。いいか?豊」
『ありがとうございます大島先生!僕も今から本当に楽しみですよ!』
ローテーションが決まったアルドールはサクラ軍団ゆかりの地であり故郷である古和牧場へと放牧に出された。舍台系の馬たちが最新鋭の外厩での調整を受ける現代競馬において、アルドールは生まれ故郷の澄んだ空気と土の上でじっくりと英気を養った。
そして、11月下旬。
再び厩舎へと帰厩したサクラアルドールの姿を見て、大島は馬運車の前で目を見張った。
「おいおい……ひと夏を超えて、ここまで変わるか」
馬体重は大増加していたがそれは太目残りなどではなく、走るための屈強な筋肉へと昇華されていた。胸前の厚み、トモの容積はほぼサクラプレジデントと同等。そして品格のある顔つきには闘志が宿っていた。
「一体全体何があったんだよ、放牧先で…!」
大島が困惑するのも無理はないだろう。
何があったのかはまた語るとして……
もう11月の下旬だ、アルドールが出走するラジオたんぱ杯の出走予定馬が続々と発表され始めていた。
その中には前走の百日草特別を地方馬ながら勝利した
コスモバルク
の文字があった。
マイネル軍団岡島総帥の秘蔵っ子、コスモバルク。
サクラ軍団スピード血統の結晶、サクラアルドール。
この後何度も対決する2頭、最初の激突は
2003年12/27(土) 阪神11R
第20回ラジオたんぱ杯2歳ステークスGIII 芝2000m右回り
昨日は投稿できなくてすいません。
無事に手術が終わって今日点滴が外れました。
感想で応援してくださったお二方ありがとうございました!本当に感謝しかありません。これからは投稿頻度も戻ると思いますので皆様何卒よろしくお願いします!