サクラの結晶   作:びりーばー

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馬視点多めです。
では、どーぞ。


ゲート試験

 

6月13日美浦トレーニングセンター ダートコース

ある1頭の牡馬が初めてのゲート試験に挑もうとしていた。

その名はサクラアルドール。

 

 

ここでゲート試験について軽く説明しよう。

 

入厩した馬がまずパスしなければならないのがデビューへの第一関門である「ゲート試験」だ。

 

競馬のスタートは、スターティングゲートと呼ばれるゲート式の発馬機の中からスタートをするが、このゲートのスタートがスムーズに出来るかを確認する試験をゲート試験と呼ばれる。

 

この試験は大まかに分けて4つの内容があり、

 

・ゲートの中にスムーズに入れるか

・発馬のタイミングまで駐立し待機できるか

・ゲートが開いたタイミングでスムーズにスタート出来るか

・スタート後に必要以上に左右にぶれずにまっすぐ走れるか

 

である。

この内容を2回こなすとゲート試験合格となる。

 

 

大島はとりあえず1回試験を受けさせてみて2歳馬がどのような反応をするのかを確かめてから各馬に応じたゲート訓練などを施すタイプでアルドールもゲートを見たり入ったりするのはこれが初めてなのだ。

 

当然だが最初はゲートを怖がる馬もいる。

だがゲート訓練を積み重ね、ゲートは怖くないと根気強く教えることで競走馬としての第一歩を踏むことができるのだ。

 

大島もアルドールが最初からできるとは思っておらず、受からなくてもまだまだここからだと考えている。

 

 

——————————————————————————-

 

「落ち着いてるなあ、アルドール」

 

良太君の優しい声がまだまだ涼しい初夏の美浦トレセンの空気に溶けていく。俺は幼名であるイチ改めサクラアルドールと名付けられた。

 

どうやら俺が生まれた牧場は昔からサクラ冠名の競走馬の生産牧場の1つだったらしく、晴れてサクラ軍団の一員としてサクラの冠を貰った。アルドールの意味は学がないので分からないが響きが良くてこの名前はとても気に入っている。

 

さて今目の前にあるゲートについて話を移そう。

太さんの厩舎に入厩して、まだほんの数日。

本来なら見知らぬ土地と新しい環境に戸惑い、馬体を慣らすところから始める時期だ。

 

しかしトレセンに来た競走馬が本格的な調教に進むために、真っ先に突破しなければならない最優先の関門がある。

それが今日受ける「ゲート試験」だ。

 

どんなに素晴らしい素質やスピードがあろうとこの狭い鉄の箱を克服し、合図とともに正しく飛び出すことができなければレースはおろか、まともな調教の許可すら下りない。

 

少し緊張はするが俺は元人間だ。

ただゲートに入ってスタートするだけの簡単なモノ。

だから大丈夫だと自分に言い聞かせて良太君の言葉を待つ。

 

「まったく緊張もしてる様子がないし、流石うちの副将格であるプレジデントに()()()馬だ」

 

何を言っているんだ良太君。

馬として生まれてから初めて恐怖を味わったのがあのサクラプレジデントなんだぞ。2003年皐月賞のデマーロとネオユニ&勝秋とサクラプレジデントのあの頭叩き事件で記憶に残っていたからにあんな激しい気性だとは思わなかった…

 

「——マイネルデュプレ合格!それでは次にサクラアルドールのゲート試験を始めます!ゲートへ入ってください」

 

どうやら前の馬が終わったようだ。

何度も何度も観たレース映像を脳裏に再生しながら枠入りとは言わないかもしれないがゲートへ脚を踏み入れる。

 

ガチャン、と背後の扉が閉まり、完全に退路が断たれた。

左右を壁に挟まれ、視界が制限される独特の圧迫感。

普通の馬ならパニックを起こしかねない空間だが、俺は前方の扉一点に意識を集中させる。

 

ゲートが開く瞬間に僅かに重心を後ろに置いて飛び出すための「溜め」を作る。

 

静寂を破る、電磁音が鳴って——

 

ガッシャァァン!!

 

前方の扉が左右に弾け飛ぶ。

自分が出せる最大限の出力を出し、ダートコースのはるか先を見ながら猛然と走る。

 

「———っ、速っ!」

 

前脚が力強く地面を捉え、トモのバネが効率よく推進力へと変換される。牧場で走っていて分かっていた事だが走るのは本当に気持ちいい。スタミナが持つ限り一生走っていたいくらいだ。

 

「よし、十分だ!抑えるぞ!」

 

100メートルぐらいを過ぎたあたりで、良太君の手綱が引かれる。俺はスピードを緩め、心地よい風を浴びながらキャンターへと移行する。

 

ゲート付近では太さんと試験官や周りにいるスタッフたちが驚いた表情をしている。これを後もう1回か、失敗しないように気をつけなければ。

 

 

 

———————————————————————————

 

目の前で信じられない光景が広がっていた。

1回の練習もなしにゲート試験を成功させるだと。

 

こんな馬は見たことがない、前の馬が合格していたところを見ていたとしてもすぐに真似できるものなのか?馬の習性として暗くて狭い場所は本能的に恐怖を感じるものなのにそんな素振りも見せなかった。

 

2回とも完璧なスタートで環境に慣れていないはずの入厩直後とは思えない、他馬とは一線を画す美しいフォームで一直線に加速していった。

 

まだ信じられない、まだ少し手が震えている。

アルドールは、サクラアルドールは本当にとんでもない馬なのかもしれない…

 

 





登場したネームド馬

マイネルデュプレ (Meiner Dupre)
牡 鹿毛

父 ペンタイア
母 マイネカトリーヌ
母父: トニービン
馬主 サラブレッドクラブ・シアトルスルー

調教師 畑山吉宏
入厩僅か9日でゲート試験合格したマイネル軍団の期待馬。
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