サクラの結晶   作:びりーばー

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今回はちょっと頑張りました。
どうぞ。(誤字報告感謝です)



Wコースにて

 

デビューの第一関門であるゲート試験に合格した俺のデビューへ向けたステップはいよいよ本格的なものになっていく。1ヶ月ぐらいの放牧を挟んで7月中旬から坂路で軽めに乗り出していた。

 

そんなある日の昼間、太さんがいつも以上に目をギラギラ輝かせながら俺の馬房へと足早にやってきた。

 

「良太、アルドールの新馬戦の日程と鞍上が決まったぞ」

 

どうやら用があったのは俺ではなく良太君のようだが、俺にも関係が大有りの話のようだ。

 

「プレジデントの次走は知っているな?」

 

「確か…札幌記念だったよな、鞍上は未定だったはず」

 

サクラプレジデントは前走の東京優駿を2番人気に推されるも距離不安が露呈し7着敗退。陣営が適正距離と判断した2000mの古馬混合戦、G II札幌記念に駒を進めることが決まっていた。

 

「豊だ、竹豊に決まったんだ」

 

「豊さん!?」

 

どうやら横にいるプレジデントの次走の鞍上は日本中の誰もが知る競馬界の「生きる伝説」竹豊らしい。俺も人間だった頃は竹豊の大ファンだったことを思い出す。プレジデントが羨ましいよ…

 

「その繋がりでアルドールの鞍上も豊になったんだ、日程はな夏の…」

 

なんだと、それは嬉し過ぎる!

あのレジェンドに手綱を握ってもらえるのは光栄以外の何者でもない!この時期ぐらいが豊さんの全盛期だったけな、まあまたすぐに何回目かの全盛期が来るのが豊さんなんだが。

 

 

そして迎えた木曜日の追い切り当日。 

朝の霧のようなものがうっすらと残る美浦トレセンの馬場入り口にその人は立っていた。

 

「おはようございます大島先生。これが例の『サクラ』の秘密兵器ですか、いい馬体をしていますね」 

 

すっとスマートな身のこなしで現れたのはテレビのインタビューのままと変わらない、柔らかい笑顔を浮かべた天才騎手だった。まとう雰囲気が他の乗り役とはまるで違う。張り詰めた空気を一瞬で和ませるような独特のオーラ。 

 

豊さんが歩み寄り俺の鼻面にそっと右手を添えた。

安心させてくれるような安心感で少しリラックスできる。

 

「おう、よろしくな豊。今日は札幌記念で豊が乗る予定のサクラプレジデントを2馬身ほど前に置いて併せ馬でお願いできるか、馬なりで頼む」

 

「分かりました。よろしくなアルドール」

 

短い打ち合わせを終えて豊さんが俺の背に跨がった。

その瞬間、衝撃が走った。

 

体重がないわけじゃない。だがまるで何も乗っていないかのように俺の背骨の真上にピタリと重心がはまっている。馬の走りを一切邪魔しない、究極のバランス。これこそが天才と呼ばれる所以なのか。

 

そうして俺とプレジデントはゆっくりと美浦のウッドチップコースへと足を踏み入れた。

 

前を走るのはプレジデント。

流石G I2着2回重賞1勝の実力馬、馬体も大きく筋肉があって真後ろから見ても迫力がある。先に行くプレジデントが力強くウッドチップを蹴りながら俺から2馬身先行する。 

 

3コーナーから4コーナー、いつもレース映像が浮かんでしまい勝手にスピードが上がってしまう所なのだが豊さんの手綱捌きで俺の突っ込みそうな気持ちを優しくなだめてくれる。

 

「まだだ、ここで我慢して力を溜めるんだ」

 

手綱を通して、そんな声が聞こえるようだった。

そして、直線の向こうにゴール板が見えた。

 

「――さあ、いこうか」 

 

耳元で、静かな、だけど確信に満ちた声が響く。

豊さんがわずかに腰を浮かせ、手綱を数センチ、スッと前に送り出した。

 

ゴーサインだ。

 

溜めを一気に解放する。

 

ドンッ!

 

ウッドチップを猛烈に踏みしめて四肢が爆発的な回転を始める。 

 

一瞬で視界が後ろへと流れ去り、風切り音だけが響く。 

 

前にいたはずのプレジデントの巨体がまるで止まっているかのように、あっという間に後ろへと過ぎ去っていく。まだムチも使われていない。強く追われてもいない。それなのに、どこまでも加速していけるような全能感が全身を駆け巡る。

 

「よし、そこまで。いい走りだったよ」

 

ゴール板を勢いよく駆け抜けたところで、豊さんが俺の首筋をポンポンと叩いた。少し呼吸は苦しいが、これまでにないほど気持ちのいい走りだった。 

 

 

馬場から引き揚げて、豊さんが下馬してすぐ目に入ったのはストップウォッチを握りしめて口を半開きにしたまま完全にフリーズしていた太さんと良太君だった。

 

「親父……今の時計、俺の計り間違いじゃなければ……」

 

「いや、俺の時計も同じ数字を指している… 間違いない」

 

良太君の手元のデジタル時計が少し見えにくかったので良太君の横に移動する。

 

そこに表示されていたのは、67.5 - 52.1 - 37.8 - 11.5という数字だった。残念なことに俺はいつもデータ予想や騎手買いをしていたタイプなので調教の良し悪しは本当に分からない。ただこれまでの調教の中で1番気持ちいい走りだったのは間違いない。

 

下馬した豊さんはタイムを見て悪戯っぽくも絶対的な自信に満ちた笑顔を浮かべた。

 

「大島先生、これはとんでもない馬ですよ。背中の柔らかさとゴーサインを出したときの反応が並の新馬じゃありません。いやぁ、乗っていて本当に気持ちがよかった」

 

「豊にそこまで言ってもらえるとはな、期待が膨らむよ」

 

「こんな素晴らしい馬を任せていただいて感謝します。新馬戦、本当に楽しみですね。絶対に勝ちましょう」

 

天才からのこれ以上ない最大級の賛辞。

思わず嘶いてしまいそうになるが、頑張って抑える。

これから新馬戦が楽しみになってきたぞ。

 

 

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今週の注目新馬

 

……………………

 

8月24(日) 札幌5R・芝1800m

サクラアルドール (牡)

【馬名の意味・由来】冠名+灼熱(フランス語)

父サクラロータリー

母サクラキャンドル 母の父サクラユタカオー

美浦・大島太厩舎

《調教内容》

6月10日に入厩し、6月13日にゲート試験に合格。その後1ヶ月の放牧を挟んで7月9日に帰厩。翌日には坂路に軽めに乗り出した。

翌週からはWコースで長めに追われてまずまずのタイムをマークし、7月24日には1600万下馬を追走して終いで追われると、しっかり伸びて先着。その翌週末には坂路で一杯に追われ負担をかけられた。その後も2週連続でWコースで軽めに追われると最終追い切りでは騎乗予定の竹豊騎手が騎乗。サクラプレジデントを追走しWコース馬なりで5F67秒5〜1F11秒5をマークし先着。絶好の内容の追い切りで仕上がりは万全。馬なりで終いをしっかりとまとめ、とても伸ばせていることから実戦が楽しみな1頭。

怪物級の可能性あり。





今週の注目新馬は私が愛用しているサイトの記事を参考に作らせていただきました。コピペはしてないのでご安心を。
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