1日2話投稿なんで誤字あったらすいません。
ではどぞ。
2003年、8月24(日) 札幌競馬場 1回4日目
札幌は曇り空に覆われるも雨予報ではない、そんな天気だ。
しかし札幌競馬場はそんな曇り空を吹き飛ばさんばかりの熱気や活気に満ち溢れていた。なぜなら今日のメインレースにはG II札幌記念が控えているからだ。
秋のG I戦線を占う夏の大一番、それが札幌記念なのだ。
そのスーパーG IIとも呼べる重賞に出走予定なのがサクラプレジデントである。1.7倍に推されている1番人気のエアエミネムに続く2番人気がサクラプレジデントだ。
だが、札幌を揺らすその熱戦の前に。
札幌5R.0 2歳新馬 ..ああ.. 芝•右:1800m 曇り 良 発走時刻 12:15 28分前
馬名 ..0 単勝人気 騎手名
. 1 コスモステージ 14番人気 新川 吉洋 (54.0)
. 2 グレートベースン 6番人気 .... 松長 幹夫 (54.0)
. 3 ブリッコーネ 5番人気 田中 勝秋 (54.0)
. 4 メジロニコラス 1番人気 横川 典弘 (54.0)
. 5 トクノタイーフン .. .. 8番人気 .:..志位 洋文 (54.0)
. 6 ヴィルテュオーズ 10番人気 .... 大野 次郎 (54.0)
..7 オンワードタトゥ 0 11番人気 0 田茂木 博 (54.0)
. 8 ダイゴキセキ . 13番人気 大原 義幸 (54.0)
. 9 マイネルラファエロ . 9番人気 瀬沢 純一 (54.0)
10 サクラアルドール 2番人気 竹ああ.豊 (54.0)
11 ラヴビーズあああああ3番人気 川喜田 達 (54.0)
12 サイレンスキッド 0 12番人気 ....本多あ.優 (54.0)
13 トウショウナイト 7番人気 .... 武士澤 灯 (54.0)
14 レオシャープ 4番人気 藤山 慎二 (54.0)
2000年代初頭。かつて競馬界を席巻した「サクラ」の冠名を持つ名門軍団は、時代の激流の中で苦しい戦いを強いられていた。
サクラヴィクトリアやサクラプレジデントなどが重賞を勝利するなど一定の活躍を見せるもG Iには届かない。かつての栄光を知るファンほど今の停滞を寂しがり、そして飢えていた。
そんな時、父・母・母父すべてサクラの自家製産馬がサクラと縁が深い大島太厩舎に入厩して鞍上は天才・竹豊ときた。
こんなもの、応援するしかないだろう。
———————————————————————————
そんな人々の願いと厩舎スタッフの祈りを背負って、サクラアルドールはデビューの地、札幌競馬場のパドックを周回していた。
「相変わらず緊張のきの文字もないな。ちょっとくらい緊張してくれても良いんだぞアルドール」
厩務員さんに緊張しろとか言われる馬とかいるのか?
一応ちょっとは緊張しているさ、だけど俺が絶対に勝つと確信があるから緊張が緩いでいるというのもあるが。
というかデビュー戦のパドックにある出走馬が書いてる電光掲示板を見て気になっていることがある。
トウショウナイト 武士澤 灯
トウショウナイトがいるじゃないか…!!
俺が好きだったあの武士澤との名コンビ!
派手なスターホースたちが並ぶ中で、いつも泥臭く、全力で走っていた姿が今でも目に焼き付いている。
記憶に残る「名脇役」だった。
1番思い出に残っているのは人馬共に重賞初勝利だった2006年のアルゼンチン共和国杯。俺が1番人生に疲れていた時期に救ってくれたのがあの馬だった。
「諦めずに頑張っていれば、いつか絶対に報われるんだ」 って、トウショウナイトに大切なことを教えてもらった気がする。
最後は怪我で悲しいお別れになってしまったが、トウショウナイトが競馬場で見せてくれたひたむきな走りは、今でもたくさんの人の心の中でキラキラ輝いているはずだ。派手さはなくても、間違いなくみんなに愛された名馬だったと思う。
怪我をすることを防ぐことができるのかは分からない。
救ってもいいのか分からない。
だけど、だけど話してみたい。
そんな気持ちが抑えられなかった。
「あ、アルドール!ちょっと待て、どこに行くんだ!」
すまん厩務員さん、だけどどうしても話してみたいんだ。
実際、プレジデントとはちょっと喋れた。だけどしっかりと話が通じたのは重賞馬や未来の重賞馬しかできなかった。
だから、きっとトウショウナイトは話せるはずなんだ…
『トウショウナイト。俺はサクラアルドールっていうもんだ、これから重賞戦線で会うことがあると思うからよろしくな』
『…なんで俺の名前知ってんだ?てかジュウショウセンセンってなんだ?まあ、よろしく』
……話のネタが思いつかない。
だけど… 会話はできたし嬉しいな…
「アルドール、隊列に戻るぞ〜」
ああ、ちょっと待ってくれよ厩務員さん!
まだ話し足りないんだ!
『ナイト!このレース頑張ろうな!ちょそんな急かさないで厩務員さんー』
『ああ、もちろんだ』
結局元の隊列に戻ったが、なんか人の視線が集まっているように感じるのは俺だけなのだろうか。ナイトに話しかけに行ったことで人気が落ちたりするのは何か申し訳ないのだが。
——おい、あの隊列から離れたサクラの馬、よく見たらめちゃくちゃ馬体が良くないか?———確かに血統は渋いけど、歩き方に大物感があるな——
この新馬戦にいるサクラの馬は俺だけだ。ということはいまパドックを見ているファンから目を付けられているのは俺ということか?
「止まーれー!」
号令が掛かり、パドック周回が止まる。
線に騎手達が並んで礼をしている。
礼が終わったあと近付いてきたのは木曜日の追い切りでも乗ってくれた豊さんだった。やっぱり本当に俺に乗ってくれるのかと年甲斐もなく喜んでしまう。馬齢でいえばまだ2歳なんだがな。
「豊、アルドールをよろしく頼むよ」
豊さんは太さんの挨拶に柔らかい笑みを浮かべて、小さく頷いた。
「ええ、調教の動きもとても良かったですからね。この新馬戦、勝てる自信しかありませんよ」
そして太さんが補助をして豊さんが俺に跨る。
調教の時にも感じたがやっぱりこの人は安心感が違う。
乗った瞬間、パドックの空気が一段と引き締まったように感じた。地下馬道を通り視界が一気に開ける。目の前に広がるのは鮮やかな緑の芝生と、高く広がる札幌の空。まあ曇りだが。
もう本馬場入場は始まっているようだ。
馴染みであるあの名曲が流れている。
『札幌競馬、5R出走メンバーの入場です。2歳新馬芝1800m14頭立て、14頭のデビュー戦です』
『………54キロ。10番サクラアルドール、サクラロータリー産駒。馬体重502kg、竹豊54キロ』
自分の本馬場入場紹介が聞こえてきた。
その場内実況の声とともに、豊さんが手綱をわずかに緩めた。
「よし、行こう」
その合図とともに、俺は札幌の洋芝を駆け出し始めた。
洋芝って周りは言ってるがイマイチ違いが分からない。
洋芝適正なんか知ったことか、馬券はデータ派でも洋芝適正は無視してたぐらいなんだからな。
「……やっぱり素晴らしいな。バネが本当に他馬とは違う」
なんか言ったのか?
声が小さすぎてよく聞こえなかったんだが…
札幌競馬場、芝マイルの新馬戦。
2歳の若駒たちにとって、これが馬生最初の試練だ。
「落ち着いていこうな」
豊さんが安心させてくれる。
そうしてゲート前で発走係員に導かれながら、俺は自分の枠へと向かう。周囲の馬たちは、狭い檻のような空間に怯え、いなないたり、後ろ脚で芝を蹴ったりしている。
カチャリ、と後ろの扉が閉まる。
一瞬の静寂。
この静寂が競走馬や騎手を惑わせるのだ。
すべての視線が、ゲートへと注がれる。
いつも通り溜めを作って———
ガッシャァァン!!
激しい音とともに、目の前の視界が開けた。
ゲートが開いた瞬間、俺はタイミングを完璧に合わせて鋭く飛び出した。
しかし、周囲の馬たちも負けてはいない。
内枠の馬と騎手が押して押して競り合うように前へ出ていく。
「いいよ、アルドール。焦らなくていい」
豊さんの手綱は、じんわりと俺を抑える。
その指示にしっかりと従って、自分のペースでレースを進める。
最初のコーナーを回る時点で俺の位置は中団の後ろ、およそ10番手あたりかな?
最初の俺の作戦としてはこうだ。
まず、札幌競馬場は圧倒的に直線がコーナーよりも短い。
だから逃げ先行の方が勝ちやすいと思われがちだ。
しかし、意外にも勝率が良いのが捲りだ。
最初のコーナーでの前は諦めて向正面の直線から動き出す。
そう考えると枠は内で揉まれるよりも自由に動きやすい外枠の方がメリットが高いとも言えるのだ。
そのため今の位置はとても良い…のだが。
新馬戦らしいスローペースだな…
向こう正面に入っても全体のペースが全く上がらない。前を行く馬たちが牽制し合い、馬群がぎゅっと一塊に凝縮していく。
これは作戦成功だと確信した。
しかし俺は馬だ、騎手がまだと言ったら動いたらいけない。
俺がそう思った、まさにその刹那。
背中の手綱がほんのわずかに緩められ、眼の前に鞭が見せられた。これが俗に言う見せ鞭というやつか。
「アルドール。外から行こう」
竹豊の思考と俺の思考が完全にシンクロした瞬間だった。
まだ向こう正面、第3コーナーの手前だ。
普通の騎手なら早仕掛けと躊躇するタイミング。しかし、豊さんはこのままでは危険だと判断したようだ。
俺は武豊のゴーサインに応え、外側へ大きく進路を取った。
そして、一気にギアを上げる。
『そしてまだ第3コーナーの手前ですがサクラアルドールが動いた!ここで一気に外から捲っていく構えだ!』
ひゅんひゅんと、耳元を風がかすめていく。
内側でちんたら走っていた他の馬たちが、あっという間に後ろへと流れていく。
普通ならここで脚を使えば最後の直線でバテる。だが俺は牧場にいた時からずっと走ったことで培われたスタミナがある。こんな所でバテる訳ないだろう。
内の馬たちの騎手が、驚いたようにこちらを見るのが分かった。
——バカな、そんな早めから動いて持つわけない。
そんな心の声が聞こえてきそうだった。
だが、保たせる!それが、サクラの血の証明だ!
第4コーナーを回って俺は外側から前の馬を完全に射程圏内に捉え、遠心力に逆らうように力強く札幌の洋芝を蹴り上げる。
豊さんの手綱から伝わってくる力強い合図。
視界が完全に開けた。
目の前には、ゴール板へと続く直線の芝だけ。
後ろから、必死に追いすがろうとする馬たちの足音が聞こえるが、それがどんどん遠ざかっていくのが分かる。
『札幌の直線は短いぞ!先頭は粘るマイネル、マイネルラファエロ!しかしその外から並ぶ間もなくサクラアルドール!サクラアルドールが先頭に変わった!』
俺は走る快感に酔いしれていた。思えば豊さんは鞭を一度も使っていない。ただ、俺の身体のリズムに合わせて優しく手綱を押しているだけだ。
『強い!強い!サクラアルドール、完全に独走態勢!後続を2馬身、3馬身と引き離す!これはモノが違う!』
残り100メートル。
俺はさらに加速する。重い洋芝なんて関係ない。
『サクラアルドールが4馬身と突き放した!強い印象を見せつけて今、1着でゴールイン!2着に入ったのはトウショウナイトです!3着は……』
息を切らしながら、徐々にスピードを落としていく。
首筋に、ぽんぽんと温かい手のひらが当たった。
「本当に強かった、来年が楽しみだよ」
豊さんが心底嬉しそうに笑いながら俺を褒めてくれた。
大ファンだった豊さんにレース後ここまで絶賛されるなんて。
竹豊ファンとしてこれ以上の誉れはない。
俺は誇らしげに鼻を鳴らした。
ウイニングランを終え、検量室前に戻ると、太さんと全内さんが満面の笑みで出迎えてくれた。
「豊!あの捲りはナイス判断だった!この勝利はお前のお陰と言っても過言じゃないぞ!」
「いやいや大島先生。馬が強すぎました。僕が合図を出す前に、自分で展開を理解して動こうとしていましたから。来年のクラシック、この子は間違いなく主役になれますよ」
「時間が迫ってますから表彰式に向かいましょう2人とも!これからもアルドールをよろしくお願いしますよ!ささ、行くぞアルドール!」
今日、同じ名手を背にサクラプレジデントが古馬たちを相手に札幌記念を接戦の末に制することになるのを、俺は知っている。
最強の04世代——-キングカメハメハやダイワメジャーが待つ未来の戦場へ向けて、俺の歴史はこの札幌の洋芝から確かに始まった。
ありがとうございました。
新馬戦の描写クソ程難しかったです。
あと出馬表はパドックの電光掲示板を参考にしています。
(ちなみに自作です)