こんな魔法学校ファンタジーに日常はない。 作:塩ビパイプの紙
リオン総合魔法学園、その新入生へのありがたーいお言葉が耳を脳を介して通り抜けていく。が、残念ながらそのお言葉の発生源に私は目を向けない。否向けられないのだ。
その理由はとってもシンプル。この大広間はもとはとある大聖堂を改装してできたものだ。大聖堂のイメージは ──あなたが遠方に住むロウワー*1でない限り--イメージ道理だ。
まず想像してほしい。あなたは神への祈りをささげるため聖堂に入ったとしようまず目につくのはその存在感たるやな大きな偶像だ。そしてその背後から差し込むはその存在感に負けず劣らずの神々しい光 ──それが聖堂のセットだ
オーケー十分だ。ではその偶像を一人の矮小な人一人に置き換えてみてくれ。偶像の存在感と比べれば蟻に等しい人間に変わったのだ。比例するように光が弱まってくれればいいのだがそんな都合の良い話などない。光は偶像にも蟻にも同じだけの光を分けてくれるのだ。それがいけなかった。蟻はその光を抱え込むことができなかった。それが今の状況である。
もっと簡単に説明しよう
まぶしい、そうまぶしいのだ。
これでは名の知らぬ登壇者の顔を拝むことなど到底出来まい。
ああ、名も知らぬ登壇者よ!あなたは誰にも顔を覚えられることなく記憶の底へ体積する矮小な泥になってしまうのですね。なんと、なんと。哀れな。
ー最後に。皆さんはこの"リオン総合魔法学園"の生徒であることの自覚を持ち、わが学園の生徒であることに誇りをもってこれからの学園生活を送っていただきたい。
まばらな拍手がやがて波となり広間を覆いつくす。私はその波へ抵抗も空しく飲み込まれてしまった。
ー最後に私から、皆さんはこの"リオン総合魔法学園"の生徒であることの自覚を持ち、わが学園の生徒であることに誇りをもってこれからの学園生活を送っていただきたいー
過去の形骸へ思いをはせながら学長様の当たり障りのない蜃気楼のようなスピーチが終了する。
変化など無いのだ。1年足らずという時間は形態を変えるには足らず、精々仮設の様相を取り繕うに足りる。それほどの時間なのだ。
去年でこそ私に人間一人のちっぽけさを考えさせた後光の光量は今となってはカーテンで防がれ、その面影は微塵もない。
まばらな拍手がやがて波となり広間を覆いつくす。私はその波にどうするわけでもなく皆に倣って手を動かす。
「ではこれにて新入生歓迎会を終了する。クラブの見学は大広間を出て向かって左にある第一塔で行っているので興味のあるものは生徒会の指示に従って移動するように。道に迷ってしまったら腕章のある生徒を探して聞くといいそれでは解散。」
大広間の内容物はそれ全体が一つの生命体であるかのように皆が一方へ向かって動き出す。ただその運動もよく見ると決まった一つのものではないことがうかがえる。立ち上がり伸びをするもの、今まさに船を漕いでいるもの、そして私のように何かを探すようなそぶりを見せるもの。
私は早々に探し物、人を見つけ白血球血管外漏出さながらに、あるいは鮭のような動きで流れに逆らい隙間を縫うようにしてその方向へ、見慣れた白髪の方向へ移動する。
白髪の、リーンの漕ぐ船はかなり沖合へ流されてしまっているらしく目を瞑り椅子に腰を掛けたまま銅像のようだ。
碁盤の目のような細胞膜から抜け出しリーンの漕ぐ船へとたどり着いた私はどのようにすれば沖合から船を戻せるのかを少し考えたあと、リーンを海へ着き落とした。リーンはなすすべなく横へ倒れ
「ウがッ」
沈むことなく海に、失礼床に叩きつけられる。
「ぇあー。あーあー」
彼女は陸に挙げられたシャチのようなへだりくった姿勢を何とか立て直そうと本調子でない頭から出された信号を頼りに腕を床に押し付けて反作用を生み出すが、それも空しく結果として言葉にならない呻きが口から放たれ、それに因果関係があったかは不明だが僅かに上がった頭が再度床に叩きつけられ痛みを逃がすためか体をひねりこちらに向き直る。
そこでようやく彼女は自身の漕いでいた船が漂着していることに気づいたのかパチリと目が開く。
その焦点の定まらない目はやがて空を仰ぐが、仰ぐ対象が神ではなく矮小な一人の人間であったことを知覚したらしく、光の帯が刺さりまぶしそうに目を細めた
「終わったかー」
そういうと彼女は天へと高々と手を伸ばし起こしてーと私に助けを求めた。
私が彼女の手を引きながらいつから寝ていたのかを訪ねると、最初からというふやけた答えが返ってきた。さっさとクラブにいこうと手綱を引こうとするが、まだボーっとして一点を眺めているリーンのさまを見るに動けるようになるにはもうしばらく時間がかかりそうだと感じた。
ーーない