カス性格バトル 作:匿名の筆者
「ヒキガエルクイーンの剥製、良いですね」
「毒沼を広げてる犬たちの……その、元凶でしょう?」
談笑をする男女、と言えば微笑ましいが、その体格は全くもって微笑ましくない。
片や200センチ、片や185センチ。
巨人という噂が立つほどには異例の身長を持つ。
頭ひとつ分ほどの身長差と言えばわかりやすいだろうか。常に見上げ、常に見下ろすような、そんな残酷な身長格差が起きていた。
185センチという身長も高身長に値するし、十分な筋肉量を持つ。しかし二人とも弓を扱う者ゆえ、体格の良さが現れる。
二人の腕はパツパツに張る筋肉によって構成され、胸も背中も肩も、腹も腰も脚も、それは同様だ。
村長の息子という立場を持つ者、そしてその従妹という立場にある。
イヴォンドーからすれば四親等離れているとはいえ、一歳と三ヶ月歳上の親戚が求婚してくる訳だ。キモイという表現で、言い表しきれるわけがない。
たびたび街に行き、村を離れるのはそういう事だ。何せ隣の家に住む同士、何をするにも顔を合わせるし、こうした狩人自慢が始まる。
マウント合戦を毎月のように繰り広げるのも疲れる。
ヒキガエルクイーンは討伐すると破裂し、数百の子を膨れ上がった腹部から放出する。死んでいても行う本能的行動だが、これを防ぐために背骨を打撃でへし折ってやったと自慢するのも、のらりくらりとかわすつもりでいた。
ペラペラと話す男の名前はゴドー・ギガガガガ。一族で最も優秀であると認められてはいるが、体格では従妹のイヴォンドーに対して明確に負けている。
その劣等感を埋めるかのように最近は弓術へ打ち込んでおり、最近では毒沼に生息するヒキガエルたちを弓矢で仕留めた上に、なんと外した弓矢はひとつも無いと語る。
半信半疑どころか無信全疑、新しい四字熟語が誕生しそうな程にイヴォンドーはそれを信じていなかった。
というか、イヴォンドーにとってヒキガエルは絶対に触れたくもない生き物だ。
雌は家一軒ほどの大きさであり、噂によれば破裂する時には血を撒き散らし、というか血抜きをしても川辺は真っ赤に染まるし、なんなら辺り一面に吸えたものではない空気が充満する。
酸性の血液は木をも溶かすことができる。基本的に肉体が強ければ毒程度、皮膚を貫通できないが……物理的に傷がついた場合では違う。
この酸性の血が入ると、塩を振った蛞蝓のように肉が溶けていってしまうとか。想像すればするほどあまりにも痛すぎるし、いくら弓が強いからと言って、最終的には近づくし血抜きのためには多かれ少なかれ血を浴びることになる。
しかし、とはいえ生き物であるので死ぬと分かればヒキガエルは突進し、押し潰した後に爆発させる。死んでも報いる、いわゆるクソ生物の一員であることに変わりがない。
そのヒキガエル、しかも女王個体の剥製を作って貰ったとギガガガガは自慢する。
ただの雌個体でさえこの強さ、女王となればどんな強さか分からぬ。
ただ、ギガガガガの武勇伝によれば、沼の毒犬を従えて、三体ほどけしかけたと。
しかしそのどれも次々と仕留めていれば、犬の統率も乱れ、ヒキガエルに噛み付いて各々の犬とヒキガエルが勝手に戦いを始めたと語る。
イヴォンドーにとって全くそれを信じる理由など無かった。
「なら、なぜこの剥製はこれほどまでにキレイで、弓矢による傷も、牙による傷も少ないのか? 」
「噛み付かれたのなら、ノコギリのような痕が作られる。
沼の毒犬の歯は、単純なトゲのように見えて、穴がついた中空の牙である」
「犬の歯が一度すべて抜け、新しく中空の牙が生える。それが犬の常識だし、それに噛まれたら牛でさえ悶絶するようなものなのに、ならばなぜ傷一つないのか?」
真っ当な疑問。誰もがまず最初に疑問に思うのは、その裂傷の無さ。噛み付かれたのなら頭がキレイな剥製になるはずがない。
犬は、急所たる頭を狙って噛み付くものであるから。
「はは、先程も言ったじゃないかイヴォンドー。頚椎をへし折ってやって、一撃で死んだんだよ」
そう語るギガガガガの瞳には一切の嘘が見えない。本気で妄言を言う類いの人物ではないので、イヴォンドーにとって彼が狂人になったか、あるいは武勇伝が真実かの二択なのだ。
「そうか……いや、鉄球を投げたくらいでそんな事が起きるのか? 一撃は確かに弓より重いけど、鉄球って運ぶのも投げるのも疲れるじゃないか」
自分より体格に劣るギガガガガ。いくら男とはいえ、体格の差は絶対である。学校で学んできたが、イヴォンドーにとって彼は、スクエアキューブがどうたらと言いながら、結局のところ弱者を抜け出せなかった者。
強く無ければ全ては無為、金稼ぎのための知識と筋肉を比べた際、筋肉は全てに優先されると語るイヴォンドーにとって、自分ができぬ鉄球投げにおいて、優位に立たれているという現象は理解し難い。
「技術だよ。技術」
「砲丸投げって言ってさ、鉄球を投げる競技があるんだ」
「最初は全員倒せば勝ちとか嘘教えられたせいで混乱したけどさ。僕には師が居る」
「体の中心に鉄球を持ってきて、クルクルと肩ごと回しながら投げる。力では負けてるけど技術の掛け合わせで、君には出来ないことをやったんだ!」
ムカ、という擬音が聞こえてくるんじゃないかという形相でイヴォンドーはピタリと固まった。
「最近、ずいぶんと思い上がったな」
「図に乗ってきたのか? さぞウキウキとした心地に聞こえる」
「なら……力で負けてるって言うのなら! そのパワーを知るがよいわァ!」
瞬きさえ要らぬ秒数で、剥製は完全に引き裂かれた。木製の盾さえ指先だけ紙のように割くイヴォンドーにとって、剥製の皮などなめしていようが、乾いていようが関係がない。
「いちばん大きな皮は敷物に、細々したものはレザーにしたって言ってたよなあ」
ギ、という音が次第に大きくなり、ビリッという亀裂音に変わった時、ギガガガガの心には死神が舞った。
「これが……パワーだ!」
圧倒的な筋肉が生み出す暴力。ヒキガエルの頭の剥製は無惨にも素手で真っ二つに引き裂かれ、およそ人智を超えた精度で縫合しなければ剥製としては機能しなくなる。
「な、なんて事を! せっかくスマートに打撲で仕留めたのに……!」
「あっ」
ボロを出したな、とイヴォンドーは笑った。
「やはりな、鉄球など投げるより、近づいて殴る方が早いだろ」
「同じ結論に辿り着いていながら酷い決断をしたと思ったが……見込みある男だ」
「結婚はできんが、今後もしも私が惚れる機会があったらお前を愛人にしてやる」
ギガガガガに向けて拳を飛ばし、肩を一発ドツいた。イヴォンドーの価値観は、強者なら何をやってもいいという経験論が多大に影響を及ぼしている。
この答えに対してギガガガガの受け取り方はこうだ。
私はお前より格上で、結婚の対象にはならないけれど、私の基準を満たしているなら特別に下に置いてやってもいい、上下関係の再確認として相手を煽るために発せられている表現と。
「野獣狩りのギガガガガ、お前に他の称号はいらん」
「貴族の息子と……なんだっけ? エル……もう名前はいいや、そういう奴と友好関係を築いてるんだろ? 先にそいつを私が夫にしてやる」
「ぶっちぎってやるのさ、お前の関係をね」
「村長の息子だからって威張るんじゃない、生意気め!」
「あー、あの日のことを思い出すなあ……相似がどうたらって理論を捏ねて、初めて反抗してきた日を……!」
「負けたあと、お前は体重の重さはノロマになるって言い聞かせていたんだろう? 虫の鳴き声で聞こえなかったけど、そんくらい伝わってくるよ……なにせ隣の家だからね」
「壁に耳ありとはよく言ったもので、私が負けたあとの君の家に行き、こっそり外から聞いていたのさ」
もはや震えが止まらぬ新事実。なにせ、八年前のことをネチネチと言ってくる上に、イカれた事を当時にやられていた。
壁の断熱材は防音を当然する。施行時に大工が百年耐える立派な家がどうだとか喋っていたし、何より自分の家は近隣で最も立派なもの。
防音性能・断熱性能・空調性能、全てにおいて圧倒的に上の居住環境であっても防げない盗聴。
十六歳の時の赤っ恥を未だに覚えているというのも恐怖が走る。
ヒキガエル(雄)
大人になっても雌より小さく、味も悪い(泥抜き後に蒸せばそうでもないがニワトリの方が美味しい)し、気性が大人しいとはいえ不味いので採算が取れず、養殖に向かない。
ヒキガエル(雌)
自家用車くらいの大きさ。人よりも体高が大きく、生息域では大人でも丸呑みにされるため、食べられた時のために服に針を仕込もう。
雄と違って雌は動いている物でなくても食べ物として認識し、しっかりと食らう。体は大きく、味も良い(調理方法は生以外ならなんでもOK)ため料理に使うことがあるが、共食いをするので養殖には向かない。
ヒキガエル(女王)
家一軒の大きさを持つが栄養によって産む性別が代わり、ふつうなら雄を大量に産み、雌を多少しか産まない。
群れを統率するのが上手くいかないとストレスで全員を轢き、ありとあらゆる野生動物を八つ当たりで食う。とんだとばっちりである。