【しごヤニ】仕事終わりにヤニ吸ってたらどこか残念な年上女性に執着されてた件 作:熊鏡
憂鬱な月曜を終えて、いちばんしんどい木曜日のこと。
俺は昼休憩の喫煙所で寂しくタバコを吸っていた。
「あーーーー⋯」
優奈さんが恋しい。最近お互い忙しくて全然会えないし中々時間も取れない。
「だからみんな同棲すんのか」
「なんだ惚気か殺すぞ」
お。もっと寂しい人来たわ。
「今お前にゼンリョクパンチ叩き込まないといけない気がした」
「どうして」
「ありとあらゆるカレカノほしい誰かの願いを聞き届けた」
ということで殴るね。と拳を構える先輩をどうどうと抑える。
「まぁまぁ。落ち着いて下さいよ先輩。コーヒー奢るんで」
「チッ⋯仕方ないか 」
「会社で暴力事件起こそうとせんでください」
「免職されてもいい」
「無敵すぎんだろ」
ていうかさ。
「そんな欲しいなら恥も外面もなく手段を選ばず探せばいいのでは?職場恋愛とか」
「俺はそんなリスクは取らない」
「チキンめ」
「じゃあお前は?」
「俺もちょっとそういうのは⋯もう彼女いるんで」
「お?やっとく?やっぱ一発やっとく?ドギツイの」
「こええってこの人」
やべえよ。
「クソが⋯俺が理性ある社会人であることに感謝するんだな」
「凄い。理性がある社会人のセリフじゃない」
「張り倒すぞ」
「なーんで」
酷いって。
「だいたい。うち美人多いじゃないすか」
「わかる。眼福だよな」
まぁそれはそう。
「真壁の隣のデスクの七瀬さんとかいいよな。クールに見えてふざけられるタイプの子じゃん」
「ね。実際軽口たたけるくらいには楽しいですよ」
「やっぱ恵まれてんな。死ねよ」
「なんで???それこそ先輩の隣のデスク、先輩の同期の岬さんいるじゃないすか。仲良いでしょ」
「嫌だよ。アイツめんどくせえしうるせえし」
「仲良く見えますけどねえ」
「腐れ縁ですー」
と、どこかぶっきらぼうに答えてタバコを吸っている様を見ると、気ぶりたくはなるわけで。
ま、上手いこと転んだら楽しませてもらおうか。
なんて考えながら換気扇に向けて紫煙を燻らせた。
まだ、休憩は終わらない。
――――――――――――――
はい今日も残業です。
死んだ目の同僚――――七瀬さんを他所に俺は立ち上がった。
「タバコです?」
「タバコです」
「わー目ぇ据わってるゥ⋯」
絶対死んだ顔してんだろな今。
確信あるわ。
「いってきまーす」
「いってらっしゃーい」
残業時間潰しちゃダメですよー。
なんて、冗談とも分からないそれを聞き流しながら喫煙所に向かう。
「あ」
「よ」
「なんか不機嫌そーな顔っすね」
「残業なんだから当たり前だろ」
「それだけじゃないように見えますが」
「岬のバカにダル絡みされた。あいつめ、クソ上司にセクハラもどきされたからって俺に八つ当たりしやがって⋯!」
「え、どうしたんすか」
「テキトーに聞き流して部長にチクッといた」
「さすせん」
「照れるぜ。因みに何人かに流したから複数の密告が成されてあいつは更に針のむしろだ」
「懲りますかね」
「懲りねえだろ。っつーより課長で飼い殺した方が楽だ。俺は昇進したくねえ。そこそこ給料でいい。だからあいつに面倒だけかけて俺らはゆるっと雇われよ」
「さすせん」
「ふははは」
今輝いてますよ先輩。
生かさず殺さず飼い殺しで行きましょう。
「ま、仕事はできるからな課長は」
「なんだかんだ課長だけあるっすよねー」
上に媚びるの上手くてなんだかんだ下の締め付けが(クソめんどくさいけど)しっかり出来てんだよ。
「使えねーやつよかましか」
「それはそう」
紫煙をくゆらせながら駄弁る。
「二本目行く?」
「同僚からの視線が怖くないなら」
「⋯やめておくか」
残り少ないタバコをいっそう深く吸い、大きく吐き出した。
「⋯仕事すっかぁ」
「しやすかぁ」
揉み消したタバコがしぶとく煙を残すので、しっかり消し直して。
また仕事に戻った。
―――――――――――――
「⋯あーーーーーー⋯声聞きてえな」
ふと、そう思い立って。終電もほど近い二十三時後半の夜更けに、迷惑かなと思いながらもメッセージを送った。
起きてます?:
そのメッセージから、間も置かずに返信が届いた。
:起きてるよ?
その、声が聞きたくなって:
:奇遇だね。私も送ろうとしてたの
ほんとすか?:
:ほんと。ね、電話しよ
ありがと:
電話のマークを押して、待機音が鳴る。
数瞬後には、優奈さんが出てくれた。
『お疲れ様。蓮くん』
「お疲れ様。優奈さん」
いつもよりも優しげな声に、なんとなく安心する。
『ちょっと会えないだけなのにこんなに寂しくなるなんてね』
「ほんとにね」
クスクスと笑い声が聞こえて、つられて笑ってしまう。
「声が聞けるだけで結構楽になりますね」
『わかる。なんか安心するね』
「だからみんな同棲するんでしょうね」
『そうそ。私たちもしちゃう?』
「気ぃ早すぎね」
『半同棲はありじゃない?』
「借りてるアパートなりと相談すねえ」
『それはそー。ま、ホテルに一泊。とかでもいいよ?』
なんて、色を含んだような声に誘われそうになりながら。
「ま、優奈さんと泊まるならちゃんと防音しないとね」
『ひんひん泣かせてやろうか』
「鳴かされるの間違いでしょ」
『こいつ⋯』
クスクス、と笑って答えるのもまた楽しいものだ。
「じゃ、また明日」
『ん。また明日』
そうして、今日もなんとか生きながらえる。