【しごヤニ】仕事終わりにヤニ吸ってたらどこか残念な年上女性に執着されてた件 作:熊鏡
七瀬さんの追及から逃れ、気張りまくってその週を終えた土曜日のこと。
俺は優奈さんと共に前も行った喫茶店に来ていた。
「若干ひさびさだね」
「仕事が修羅場だったんで…」
「なるほどね。お疲れ様」
心底同情したようなマスターの言葉に泣きそうになる。
「そういえばそろそろお盆だけど、君はどうするんだい?」
「一旦帰省してあっちでゆっくりしようかなと」
「うんうん。良いんじゃないかな」
「私は?」
「ついてきてくれます?」
「勿論。むしろ誘ってくれなかったら拗ねてたよ。半年くらい」
え?めんどくさ。
「なんか失礼なこと考えてない??」
「そんなわけないじゃないですか」
「ほんと????」
「ほんとほんと」
「ふーーーん…」
こっわ。
「ははは。彼女の機嫌はちゃんと取らないとダメだよ?」
「はい。それは勿論」
肝に銘じてます。本当に、
「しかし相変わらず美味しいですね」
「だろう?当店の自慢さ」
実際マジでうまい。
銘柄に合わせた焙煎具合に美味しい淹れ方。気を衒ってない王道の店であるからこそ、味で勝負しているのが伝わる。
「いやー、落ち着くねえ」
「そうすねえ」
さっき俺の心は落ち着かなかったけど。
「んー?」
「どうかしました?」
「なんか失礼なこと考えてない?」
「な訳」
失礼な。そんなこと考えてるわけないジャマイカ。
「それもう古いよ?」
「いつこころが読まれたんだ」
「声に出てた」
「終わった」
これじゃあどうしようもねえぜ。
「まぁ連れて行ってくれるようだし許そうじゃないか」
「助かる助かった」
いやーーーよかったよかった。
「まぁ、変な回答はしないことだよ?真壁蓮くん?」
そういう優奈さんの顔は恐ろしく酷薄で。俺は先程までの彼女と今の彼女が同一人物であると自信を持って言えなくなってしまった。
「ウィッス」
「怖がらせないの」
「怖がらせてなーい!!!」
怖いよ!!!
「怖くないだろ」
「ハイ。コワクナイデス」
ぴぃ。
「全くもう」
君も苦労してるね。というマスターの視線に、無言で肯定した。
まぁ、何とかなるべ。
この後はゆっくりコーヒーを飲んで楽しく過ごせた。
―――――――――――
その後、俺は優奈さんを自分の家に招いた。
「おーー、結構綺麗だね」
「そうすか?なら良かったです」
まぁウチは郊外の若干広めのワンルームである。それなりに過ごしやすく、個人的には満足だ
「まぁちょい狭いっすけど」
「ワンルームならこんなものじゃない?」
そういう優奈さんを座るように促して、俺はコーヒーを準備した。
ボトルのアイスコーヒーだが、酸味が少なく個人的にはかなり好みの味だ。
「ありがとう」
「いえいえ」
2人揃ってテーブルについて、よく冷えたコーヒーを飲む。
うん。これも良い。
「へぇ。このメーカーのやつもいいね」
「でしょう?俺のお気に入りなんです」
「私も常飲しようかな⋯かなり好み」
なら良かったぜ。
その後は、取り留めのない話をして、一緒にサブスクを見るなりして。
そうして夜。
「―――――おいで?」
蜘蛛の巣のように張り巡らされた。底なし沼のように黒々とした。
誘惑に溺れた。
声を抑えさせるのにとても苦労しました。
――――――――――――
そうして、日曜の朝。
腕の中に収まる柔らかな感覚と、俺の体の生理的現象は関係ないと思いたい。
「ん⋯ 」
「んー?おはよ」
ああ、優奈さんも起きたみたいだ。けど、
「もう少し」
抱きしめる力を少しだけ強くして、優奈さんの背中に顔を付ける。
「いいよ。ちょっと待ってね」
「あえ?」
優奈さんがこちら側に向き直り、俺の顔を胸に埋めさせる。
「ん⋯?」
甘い匂いが鼻腔を支配して、ドロドロと思考が蕩け。俺はその意識をもう一度落とした。
結局ちゃんと起きたのは昼だし、それ以降もズブズブに優奈さんに溺れた。
―――――――――
「可愛い」
気の抜けた顔で寝る蓮くんの顔を見る。
ああ、本当に可愛い。
「んふふふ」
ぎゅう、と蓮くんの頭を抱えながら抱きしめて、微睡みに身を任せる。
「⋯幸せ」
結局蓮くんの家から出たのは夜だった。
―――――――――――――――
「⋯充実している」
月曜の朝。俺の身体を満たしていたのは活力だった。
日曜ガッツリ休んだ分俺の身体はエネルギーに満ちていた。
「最高だ⋯もう優奈さんナシじゃ生きられないかも」
割とマジで。もう手放せない。
いや、物じゃないんだけど。離したくない。
「また早く優奈さんに会いたいな」
とりあえず頑張ろう。
そうして、俺は仕事の準備に移った。
優奈さんが作り置きしてくれた朝食と弁当を持って。
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「なんか元気ですね真壁先輩」
「まあね」
「彼女が原因ですか。幸せそうですねクソが」
「は????」
怖いって。
「初手喧嘩腰は違うでしょうに」
「満たされないんですよ私が」
「いい相手いますって」
「なら見つけて来いよ⋯!!!」
こええよ!!!
「まぁ、頑張って」
「誰が私を幸せにしてくれるんだ⋯うっうっ」
かわいそう。
その声は静かに職場に響いていった。