【水無月 早朝】
[とある十字路]
〜黒木誠司 視点〜
「・・・・・・・・・・・・七瀬・・・・・・・・・・・・秋人」
おれは登校途中、あの雨の日に友達二人が姿を
消した十字路に立ち止まり、その風景を見つめて
いた。
「なんでだよ・・・・・・・・・。なんで、二人ともいな
くなったんだよ・・・・・・・・・・・・・・・」
あの日、おれと七瀬静香、篠原秋人の三人は、
学校帰りにこの十字路で交通事故に遭った。
おれたちがふざけ合いながら歩いていた・・・・・・
その時だった。
突然、居眠り運転のトラックが、こちらへ突っ
込んできた。
その瞬間――。
一人の無精ひげを生やした太ったおっさんが、
おれたちをかばうように身を投げ出した。
そのおかげで、おれは奇跡的に無傷だった。
けど、その直後――。
なぜか、一緒にいた七瀬と秋人の姿が消えてし
まった。
おれは事故のショックで数日間、病院に入院す
ることになった。
そして退院した後、警察から聞かされた。
あの無精ひげのおっさんは、おれたちを守るた
めに命を落としたらしい。
あれから、かれこれ一週間。
それでも、おれの心は晴れなかった。
「警察も『手掛かりはまったくない』って、事情
聴取の時にこぼしてたし・・・・・・・・・・・・」
おれは、なんの変哲もない十字路を見つめ、深
いため息をついた。
「これじゃ、本当に神隠しじゃないか・・・・・・・・・」
そう呟くと、おれは重い足取りで学校へ向かっ
た。
学校の校門をくぐり、昇降口で靴を履き替えた
自分の教室へ入ると、先に登校していたクラス
メイトたちは、いつも通り楽しそうにおしゃべり
をしていた。
「おはよう」
おれが朝のあいさつをすると、おしゃべりをし
ていたクラスメイトたちが一斉に振り返り、それ
ぞれ笑顔であいさつを返してくれた。
「おはよう、黒木」
「・・・・・・・・・おはよう」
「って、大丈夫か?目の下にクマができてるぞ」
クラスメイトの高木が心配そうな声に、おれは
力なく小さく頷いた。
「・・・・・・大丈夫だよ」
「いや、大丈夫じゃないだろ!? ちゃんと寝て
るのか?顔色も最悪だぞ!」
川田のツッコミにも、おれは何も答えない。
おれは、そのまま自分の席へと向かって歩き出
した。
「あいつ、ヤバいよな・・・・・・」
「ああ。まるでゾンビみたいだ」
「あの事故で無傷だったのに、心はボロボロなん
だろうな・・・・・・」
沢村が、痛ましいものを見るような目で黒木を
見つめていた。
「何とか元気づけられないか?」
「無理だろ・・・・・・。なんせ七瀬と篠原が神隠しに
遭ったっていう噂だ」
「神隠しか・・・・・・」
高木は腕を組んで考え込んだ。
「うーむ・・・・・・」
「どうした、高木?」
「いや、黒木に一筋の光を見せてやれないかと思
ってな」
当の黒木はクラスの音が耳に入らない。
ホームルームでは終始放心状態。
昼休みになっても弁当に手をつけることすらでき
ず、ただ机を見つめ続けていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
〜放課後〜
「黒木、ちょっといいか?」
帰ろうとしていた黒木を、高木が呼び止めた。
「・・・・・・何だよ?」
おれは力なく振り返る。
「七瀬と篠原の件なんだが・・・・・・もしかしたら
何とかなるかもしれない」
おれは目を点にした。
「本当か?」
「ああ。詳しい話は場所を変えてしよう」
高木は後ろにいた川田と沢村へ視線を向ける。
「お前らも来い」
「ああ」
「よし、マックで話そうぜ」
こうして四人は、放課後のマクドナルドへ向か
うことになった。
ハンバーガーとドリンクを注文し、テーブル席
に腰を下ろす。
全員が席に着くと、高木が真剣な表情で口を開
いた。
「実は、神隠しの件を何とかしてくれる心当たり
があるんだよ」
その一言に、おれは高木を大声で聞いた。
「高木、その心当たりとは何だよ!?」
「落ち着けよ、黒木。その話をする前に、烏森っ
て知ってるか?」
おれは聞き慣れない言葉に聞き返した。
「烏森?」
「俺、中学に上がる前は他県の小学校にいたって
話したことがあっただろ?」
沢村が思い出したように呟いた。
「ああ。そういえば、前に言ってたな」
「うん。その烏森が俺の生まれ故郷なんだ」
みんなは首をかしげた。
「っで?その烏森が、どうしたっていうんだ?」
川田が問うと、高木は静かに頷く。
「そこには、昔から強大な力を持つ土地神が祀ら
れているんだ」
「土地神って・・・・・・本当にいるのかよ?」
「信じられないのは分かる。でも、それが原因で
俺の家族は・・・・・・地元から逃げてきたんだ」
「逃げた? なんで?」
沢村が聞き返すと、高木の表情が少し曇る。
「ああ。理由は・・・・・・天変地異が起きたからだ」
「天変地異・・・・・・?」
おれが聞き返すと、高木は頷く。
「ああ。さっき話した土地神の影響で、妖怪や怪
異なんかが出る・・・・・・いわゆる怪奇現象の土地
・・・・・・忌み地なんだ」
おれが眉をひそめる。
「その怪奇現象って・・・・・・・・・一体、何が起きた
んだよ?」
高木は少し視線を落とした。
「俺も直接目撃したわけじゃない。だが・・・・・・」
そこで一度言葉を切る。
「目撃者の話では、巨人を見たとか、龍が空から
降ってきたとか・・・・・・」
「・・・・・・巨人? ・・・・・・龍?」
「それだけじゃないんだ。その町の中学校や高校
でさっき話した怪奇現象が多く目撃させた」
高木は一拍置いて続けた。
「さらに、学校周辺では震源地不明の地震が起き
たり、青空だったのに突然、台風並みの局地的
な豪雨や雷が襲ったりと、異常現象が相次いで
いたんだ」
深呼吸をして言葉を終わらせる。
「そのうえ、二つの学校の校舎が原因不明の崩壊
を起こしてな。地元じゃ『土地神様の怒りだ』
なんて噂まで広まっていた」
あまりにも現実離れした話に、俺たちは言葉を
失う。
「・・・・・・だから、うちの家族は生まれ育った土地
から逃げ出したんだ」
おれは咳払いをし、話を元に戻した。
「で、神隠しの件に、どうつながるんだよ」
「実はな。烏森には、その忌み地の穢れから人々
を代々守っている退魔師の末裔がいるんだよ」
「退魔師の末裔?」
「ああ。そんで、その退魔師の家系の一人に俺の
小学校時代の友達がいるんだ。
そいつなら、この神隠しの件も何か分かるかも
しれない」
高木の言葉に、おれたちは思わず、互いの顔を
見合わせた。
「つまり、その友達に会いに行くってことか?」
「ああ。今回の神隠しを解決するには、まずは、
そいつの力を借りた方がいいと思うんだ」
おれは少し考え込むと、静かに口を開いた。
「高木・・・・・・その友達に連絡を取ってくれないか
?」
「黒木・・・・・・俺の話を信じるのか?」
「信じるというより、藁にもすがる思いなんだ。
正直、このままじゃ心の整理がつかないんだよ
あの神隠しの真相を、はっきりさせたいんだ」
おれの真剣な言葉に、高木は力強く頷いた。
「わかった。すぐに連絡を取ってみるよ」
「高木ありがとう、頼むよ。ちなみに、その友達
の名前は?」
「ああ。墨村――墨村利守だ」
話し合いを終えたおれたちは、それぞれ帰路に
ついた。
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【同時刻】
[神隠しの十字路]
「おいおい・・・・・・こいつは、相当ヤバいぞ」
頭巾をかぶった着物姿の男は、神隠しが起きた
十字路をじっと見つめ、額に冷や汗を浮かべた。
「裏会からの依頼で簡易調査に来たが・・・・・・・・・
これは俺の手に負える案件じゃねぇな」
扇六郎は眉をひそめる。
「これほど濃く、しかも感じたことがねえ残留思
念は初めてだ」
額に手を当てた。
「下手に手を出せば、俺まで消されかねん・・・・・・
なんでこんなものが?」
静かに息を吐くと、空高く飛んだ。
「仕方ねえ・・・・・・、あの苦労人の手を借るか」
上空であの十字路見下ろす。
「だぶん。あれは、あの墨村でも手に余るがな」
ニヤッと笑いを浮かべて、飛び去った。
ーto be continuedー
次回 烏森