結界師 〜墨村利守は六面世界で奔走する〜   作:rOOd

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夕餉

       【水無月 夜中】

 

      [烏森 墨村家] 

 

「な、なんじゃとっ!?」

 

 儂は高木くんから、緊急の連絡を受けた。

 

 黒木くんと利守、そして――あの扇六郎が、

時空乱流に巻き込まれたという。

 

「確かなのか?」

「間違いありません」

 

 利守たちは、扇六郎も加えて、例の神隠しが起

きた十字路を、夜にもう一度調査しに向かった。

 ところが、調査の最中、突然、次元ゲートが出

現したという。

 利守と扇六郎が、どう対処すべきかと言い争っ

ている間に、黒木くんがふらふらと次元ゲートへ

近づき、そのまま中へ飛び込んでしまった。

 

「黒木くん!」

 

 慌てて利守がその腕を掴む。

 だが、勢いを止めることはできず、利守もまた

次元ゲートの中へと引き込まれてしまった。

 残された扇六郎は、すぐさま高木くんたちに儂

らへの伝言を残し、二人の後を追って次元ゲート

へ飛び込んだ。

 こうして、三人は時空乱流に巻き込まれ、行方

不明となったのだった。

 

「繁守さん。それで〜〜そのー〜。」

「お、落ち着きなさい。とりあえず、君たちは自

 宅へ帰りなさい」

「えっ?」

「もはや。自分たちでは、どうにもならんことは

 分かっておるじゃろ!?」

 

 儂は努めて冷静に言い聞かせる。

 

「ともかく、こちらから裏会に要請を出す。君た

 ちは裏会から事情聴取を受けた際、分かってい

 ることをすべて話しなさい。いいね?」

「はい、分かりました。それでは、失礼します」

 

 電話を切る。

 

 途端に、儂は盛大なため息をついた。

 

「時空乱流・・・・・・じゃと?」

 

 あり得ん。

 黒木くんの話を聞く限り、今回の状況で次元の

門が開くなど、到底考えられん。

 

「召喚・・・・・・」

 

 う~む。もはや、扇六郎の推測が正しい――そ

うとしか思えない。

 

「しかし、一体、誰がそんなことを・・・・・・」

 

 目的は、異世界から力ある者を呼び出すことで

はない。

 では、何のためだ?

 未来の改ざん・・・・・・?

 

 もし、それが本当なら――。

 今回の神隠しは、単なる異世界召喚ではない。

 何者かが意図的に時空へ干渉し、未来そのもの

を変えようとしていることになる。

 

「一体、何者が・・・・・・何のために・・・・・・」

 

 ええい・・・・・・これはもう、儂の力だけでは手に

負えん。

 

「正守に連絡して、時子にも力を借りる」

 

 これは、なりふりを構っている場合ではない。  

 そもそも、儂が安易に結論を出したせいで、事

態をここまで大きくしてしまったのだ。

 

「良守は・・・・・・今の段階で、あいつに知らせるの

 は悪手か」

 

 良守は、正守や利守とは違い、純情ゆえに行動

が読めん。

 今回の一件を話せば、利守を助けに行くと言い

出し、強引に異世界への門を開けかねん。

 

「知らせるならば、時音だけじゃ」

 

 まずは正守と時子に事情を話し、今後の対応を

考えるしかあるまい。

 良守には、もう少し状況を調べてから説明する

ことにしよう。

 

「ええい、平穏の時を手にした途端、これか」

 

 儂は歯切りをしながら、自分の不甲斐なさが、

腹が立った。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

     【甲龍暦412年 夜中】 

 

    [中央大陸南部 赤龍の下顎山脈]  

 

「今日は、ここで休みましょう」

 

 僕たちは森の中を進み、やがて断崖にぽっかり

と口を開けた洞窟を見つけた。

 雨風もしのげそうなので、今夜はここで一晩過

ごすことにした。

 

「うむ、トショの言う通りだな。今日はもう休も

 う」

「そうだね。雨風をしのげる洞窟だ。この状況で

 はありがたいよ」

 

 僕たちは洞窟の中へ入り、毛布を敷き詰める。

 入り口付近では焚き火を起こし、リュックから

食料を取り出し、食事の準備を始める。

 

「まさか、この荷物がこんな形で役に立つとは」

 

 リュックの中には、カップ麺や非常用の乾パン

レトルト食品、さまざまな種類の缶詰などが入っ

ていた。

 

「たぶん、二週間分ぐらいはあるな」

 

 それだけではない。

 仕事で使う呪具や秘伝の傷薬、それとコンパス

やサバイバルマッチ、灯油ランプまで入っている

 

「お父さん、準備の念入りさがすごいよ」

 

 思わず呆れながらも、僕はリュックの中身を確

認していく。

 とりあえず、今日はカップ麺にしよう。

 そう決めると、やかんに水を入れ、焚き火の上

に置いた。

 

『利守くん』

 

 僕が湯が沸くのを待っていると、黒木くんが話

しかけてきた。

 

『なに、黒木くん?』

『何とかして、俺もあの人たちと会話できるよう

 にならないかな?』

『そう言われても、僕は術を使って会話できてい

 るだけだし』

『けどさ、このままじゃ不便だよ』

 

 黒木くんにそう頼まれ、僕は「うーん」と唸り

ながら考え込む。

 

「あ、そういえば!」

 

 ふと、リュックの中に入れてある呪具を思い出

した。

 僕はリュックに手を伸ばし、中を探る。

 確か、呪具の中に――あった!

 

『これを使えば、何とかなるかも』

『これ、何?』

 

 僕の手のひらには、黒いビー玉のような石がつ

いたペンダントがあった。

 

『簡易的な術式を組み込むことができる呪具さ』

 

 僕は、ペンダントを握りしめ、霊力を送る。

 

『このペンダントに、術式を刻めば』

 

 術式を刻んだペンダントを黒木くんに渡す。

 

 僕は洞窟の外にいるギレーヌさんへ声をかけた

 

「ギレーヌさん」

「なんだ?」

「この子と話をしてもらえますか?」

 

 僕は黒木くんの背中を軽く押し、彼女の前へ促

した。

 

 不思議そうな視線を向けるギレーヌさんは僕の

言葉に従い、黒木くんへ向き直る。

 

「・・・・・・お前、私の言葉が分かるのか?」

 

 そう言って、ギレーヌさんはゆっくりと話しか

けた。

 黒木くんは大きく頷いた。

 

「はい、分かります」

 

 そして、少し緊張した様子ながらも、ギレーヌ

さんへはっきりと返答した。

 

「そうか、良かったな」

 

 黒木くんは、自分の言葉がギレーヌさんに伝わ

ったことを確認すると、ぱっと表情を明るくした

 

「はい。あ〜よかった・・・・・・!これで、ちゃんと

 会話ができる!」

 

 嬉しそうに笑う黒木くんを見て、僕もホッと胸

を撫で下ろす。

 ギレーヌさんはジロジロと黒木くんを見据えた

 

「まだ、自己紹介がしてないな。ギレーヌだ」

「あっ、黒木誠司です」

「???クロ??」

 

 やっぱり、こちらの世界では僕たちの名前が言

いにくんだな。

 

 そのとき――。

 コポコポと、やかんから湯が沸き立つ音が聞こ

えてきた。

 

「あ、お湯が沸いた」

 

 僕は焚き火へ向き直る。 

 

「じゃあ、夕食にしよう」

 

 僕は立ち上がり、熱々のやかんを持って、人数

分のカップメンを用意して、容器にお湯を注いだ

 

「黒木くん、二つ持って」

「うん」

 

 僕はフィリップさんとヒルダさんにカップメン

を渡し、黒木くんはギレーヌさんに渡した。

 

「トショくん、これはなんだい?」

「カップメンです」

「カップ・・・・・・メン?」

「えーと・・・・・・器の中に入っているパスタみたい

 なものです。それを食べます」

 

 フィリップさんたちは、僕の説明だけではよく

分からないようだった。

 

 そこで、僕は実際に食べてみせることにした。

 カップメンのフタを外し、リュックの中に入れ

ていたアーミーナイフからフォークを取り出す。

 そして、麺をすくい上げた。

 

「こんな風に食べるんです」 

 

  僕はそのまま口に運び、麺を食べた。

 すると、フィリップさんたちも僕の真似をして

カップメンを食べ始めた。

 

「・・・・・・う・・・・・・美味い」

「本当、美味しい!」

「ア、アアチ、アチチッーーー!」

 

 フィリップさんとヒルダさんは、初めて食べる

カップメンの味に感激している。

 けれど、ギレーヌさんは――どうやら熱いもの

が苦手らしい。

 

 一方、黒木くんも目をキラキラさせ、麺を口に

運び始めた。

 

「ふう・・・・・・なんかさ、このカップメンを食べる 

 と・・・・・・ホッとするね、利守くん」

「そうだね。黒木くんの言う通り、やっと一息つ

 いた気がするよ」

 

 僕たちの会話を聞いていたフィリップさんが、

不思議そうな表情を浮かべる。

 

「あれ?君って、話せないんじゃなかったのかい

 ?」

「ああ。僕の術の応用で、会話ができるようにな

 ったんですよ、フィリップさん」

「ほぉ~、そうなんだ」

 

 その後は、和気あいあいと話しながら、全員で

カップメンを食べ終えた。

 すると、フィリップさんはふと表情を改める。

 先ほどまでの穏やかな雰囲気から一転し、真剣

な眼差しで僕を見つめた。

 

「トショくん」

「はい、なんですか?」

「君は僕たちの恩人だ。本当に感謝してもしきれ

 ないよ。ありがとう」

 

 そう言って、フィリップさんは深々と頭を下げ

た。

 

「そして・・・・・・一つだけ、聞きたいことがある」

「何ですか?」

「君――いや、君たちは何者なんだい?」

 

 フィリップさんは頭を上げる。

 その瞳には、先ほどまでの警戒や戸惑いはなく

純粋な疑問が浮かんでいた。

 

「どういう意味ですか?」

「君が使う魔法・・・・・・いや、もはや魔法を超えた

 能力と言ったほうがいいか」

 

 フィリップさんは、僕の顔をじっと見つめる。

 

「少なくとも、僕にはそう見える」

「・・・・・・・・・・・・」

「君の力は、誰が見ても異常なんだよ」

 

 その言葉に、僕は黙って耳を傾ける。

 

「まさに・・・・・・神の力と断言してもいいほどに」

「・・・・・・・・・・・・神の力、か」

「とても、人族・・・・・・いや、僕たちの世界の者

 とは思えないんだよ」

 

  フィリップさんは、改めて僕を見つめた。

 

「もう一度、問う。君たちは何者だ?」

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

 僕たちが答えを返そうとした、その時だった

 ――ガサッ。

 

「・・・・・・・・・!」

 

 すぐ近くの草むらから、何かが動く音がした。

 僕は反射的に身構える。

 隣にいたギレーヌさんも瞬時に反応し、腰の剣

へ手を伸ばした。

 

「下がれ」

「はい!」

 

 ギレーヌさんが僕たちの前に出る。

 僕もいつでも結界を展開できるよう、意識を集

中させた。

 

ーto be continuedー

 

 

 

 




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