結界師 〜墨村利守は六面世界で奔走する〜   作:rOOd

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ブエナ村

      

      【水無月 夜中】

 

      [烏森 雪村家] 

 

「ハア〜、疲れた・・・・・・」

 

 私は重い足を引きずるようにして、家路を急ぐ

 

「まさか。保護者への対応で、帰りがこんなに遅

 くなるとは思わなかったわ」

 

 教師になって、早くも三年。もう慣れてきたと

思っていたけど・・・・・・まだまだね。

 烏森の封印が成されたことで、墨村と雪村の役

目も終わり、私は教師の、良守はパティシエの道

をそれぞれ歩き出した。

 

「あ〜、そういえば。良守とは、しばらく会って

 ないな」

 

 良守の方も、最近は働いている店が忙しく、家

に帰っていない日が続いているらしい。

 この前、スーパーで修史さんに偶然会った時、

そう言っていたな。

 

「ふふ。お互い・・・・・・大変ね、良守」

 

 小さく愚痴をこぼしながら、ようやく我が家の

門前にたどり着く。

 

「あ〜、着いた。まずはお風呂ね」

 

 そう呟き、玄関の扉を開ける。

 

「ただいまー」

 

 すると、家の中ではおばあちゃんが待っていた

 

「あれ? おばあちゃん、どうしたの?」

 

 私が尋ねると、おばあちゃんは申し訳なさそう

な表情を浮かべる。

 

「時音、疲れているところで悪いんだけど、客間

 に来てちょうだい。ちょっと用事があるの」

 

 そう言って、おばあちゃんは小さくため息をつ

いた。

 

「うん、分かった」

 

 言われるまま客間へ向かう。

 襖を開けると、そこには繁守さんが座って待っ

ていたのは・・・・・・・・・。

 

「繁守さん?」

 

 思いがけない人物の登場に、私は思わず首を傾

げる。

「こんばんは。一体、どうしたんですか?」

「時音くん、夜分にお邪魔しているよ」

「ホントですよ。ハァ〜・・・・・・情けない」

「・・・・・・す、すまん」

 

 私は、ありえないものを見た。

 いつもなら、おばあちゃんと口喧嘩ばかりして

いる繁守さんが、おばあちゃんの嫌味で視線を落

として素直に謝っている。

 

「な、なんですか? 本当に、一体何があったん

 ですか?」

 

 私が戸惑いながら尋ねると、おばあちゃんは呆

れたようにため息をついた。

 

「文字通り、ボケたのよ。このじいさん・・・・・・」

「え?」

「その通りじゃ、何も言い返せん・・・・・・」

 

 繁守さんは力なくそう呟く。

 

「え?あ〜、あの〜〜??」

 

 あまりにも普段と違う二人の様子に、私はます

ます戸惑ってしまう。

 すると、おばあちゃんが事の経緯を話し始めた。

 

「実はね――利守くんが行方不明になったの」

「えっ?行方不明!?」

「しかも、異世界で・・・・・・」

「ええっ!?」

 

 あまりにも突拍子もない話に、私は思わず声を

上げる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!異世界って

 ・・・・・・どういうことですか?」

「私も、先に話を聞かされていたんだけどね」

 

 おばあちゃんは、困ったように眉をひそめる。

 

「事の始まりは、利守くんの小学生時代の友人だ

 った高木くんから、依頼を受けたことよ」

「利守くんの友人から依頼?」

「あなた、高校の教師でしょ?S県で起きた高校

 生の神隠しって、聞いたことない?」

 

 そう言われて、ふと思い出した。

 S県のある十字路で交通事故に巻き込まれた高

校生三人のうち、二人が行方不明になったという

事件なら 、私が勤務する学校でも、少しだけ話題

になっていた。

 

「それと高木くんが、どう関係してくるの?」

「その事件の被害者たちが、高木くんのクラスメ

 イトなんですって」

「えっ?」

「それに、事件で唯一助かった黒木誠司という子

 からの依頼でもあるらしいのよ」

「ええっ!!?」

 

 私が驚くと、おばあちゃんはさらに話を続けた

 

「実は、高木くんたちが一昨日から墨村家に来て

 いたのよ」

「そ、そうなの?」

「そのとき、このじいさんが事件の経緯を聞いて

 ね。勝手な憶測で話を膨らませて、余計にやや

 こしくしたのよ」

「えっ? どういう意味?」

 

 私が首を傾げると、おばあちゃんは繁守さんを

ギロッと睨みつけた。

 

「このじいさん、事件の話を聞いた途端に、

 『異界に迷い込んだんじゃ』なんて、決めつけた

 から、ややこしくなったのよ」

「・・・・・・いやその、あれは可能性の一つとしてじ

 ゃな」

 

 繁守さんが弁解するように口を挟む。

 

「可能性の一つ?」

 

 私は思わず聞き返した。

 

「そうじゃ。儂はただ、不可解な事件じゃからこ

 そ、あらゆる可能性を考えるべきだと――」

「その『あらゆる可能性』のせいで、事態が最悪

 に向かったんでしょうが!」

「うっ・・・・・・・・・」

 

 おばあちゃんに一喝され、繁守さんは言葉を詰

まらせた。

 

「しかも、異世界転移の原因にもなったのよ」

「ええっ!?」

 

 私は思わず声を上げた。

 どうやら私が知らないところで、かなり大変な

ことになっていたらしい。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

      【甲龍暦412年 夜中】 

 

    [中央大陸南部 赤龍の下顎山脈] 

 

「来るぞ!」

「はい」

 

 ギレーヌさんの言葉に、僕は頷くと。

 

 草むらが大きく揺れた。

 そして――

 

「・・・・・・・・・・・・・・・うっ」

 

 そこから、一人の男が姿を現した。

 

「あのとがった耳、そして白い肌の色・・・・・・

 もしかしてエルフ?」

 

 明かりが届く距離で見えてきたのは、身体中に

傷を負った、エルフの男だった。

 衣服はところどころ破れ、足取りも覚束ない。

 その後ろから、同じように傷だらけの頭部に獣

の耳を生やした女性が姿を現した。

 

「・・・・・・獣人・・・・・・?」

 

 僕が呟く。

 ギレーヌさんは剣を構えたまま、二人から目を

離さない。

 

「止まれ!」

 

 鋭い声が森に響く。

 エルフの男は、その場で力尽きるように膝をつ

いた。

「・・・・・・・・・た、助けて・・・・・・・・・くれ・・・・・・」

 

 獣人の女性も、男を支えるように手を伸ばす。

 

「・・・・・・・・・お願い・・・・・・します・・・・・・」

 

 その姿を見た瞬間、僕は警戒しながらも、二人

の傷の状態を確認した。

  ――明らかに、刃物で斬られた傷だ。

 

「・・・・・・うん?この匂い」

「ギレーヌさん?」 

 

 ギレーヌさんはエルフの男を見据え、問いかけ

る。

 

「お前、パウロ・グレイラットの知り合いか?」

 

 そう問われ、エルフの男は小さく頷いた。

 

「・・・・・・はい・・・・・・そうですが」

「なら、ブエナ村の者だな」

「ギレーヌ、それは本当かい?」

 

 フィリップさんが尋ねる。

 ギレーヌさんは振り向き、頷いた。

 

「そうか。なら、まずは傷の手当てだな」

「フィリップ様!?」

「何が起きているか、僕たちにもわかっていない

 それでも、領民を見捨てることなど領主として

 あってはならないよ」

 

 エルフの男が驚きの声を上げる。 

 

「・・・・・・フィリップ? あ、あなたがフィリップ

 様ですか?」

「ああ、そうだ。フィットア領を治めるボレアス

 家のフィリップ・ボレアス・グレイラットだ」

 

 フィリップさんはそう名乗ると、エルフの男と

獣人の女は深々と頭を下げた。

 

「安心しなさい、君たちは僕たちが守る」

 

 フィリップさんは、僕へ視線を向けた。

 

「トショくん、悪いが治療を頼む」

「分かりました」

 

 フィリップさんの言葉に、僕は頷いた。

 ギレーヌさんも頷いたが、すぐに二人がやって

来た森の奥へと視線を向ける。

 

「だが、その前に――」

 

 ギレーヌさんの表情が険しくなる。

 

「お前たちを追っている者がいるなら、話しても

 らうぞ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 エルフの男は苦しそうに息を吐いた。

 やがて、震える声で答える。

 

「・・・・・・追っ手が・・・・・・います・・・・・・」

「・・・・・・たぶん・・・・・・もう少しでここに・・・・・・」

 

 その言葉に、ギレーヌさんの表情が再び険しく

なった。

 

「・・・・・・・・・やはりか」

 

 僕は、興奮気味のギレーヌに声をかけた。

 

「ギレーヌさん、二人の手当をお願いします」

「なに?」

「最初に決めていたでしょ。戦闘は僕に任せる

 って」

 

 僕はそう言ってから、後ろにいる黒木くんへ声

をかけた。

 

「黒木くんも、治療を手伝って」

「えっ? て、手伝えって!?」

「リュックの中に、壺に入った傷薬があるから。

 それを使って治療して」

「わ、分かった!」

 

 黒木くんは慌ててリュックの中を探し始める。

 それを確認してから、僕は暗い森の奥へと歩き

出した。

 

「トショくん!?」

 

 フィリップさんの声に、僕は足を止める。

 

「フィリップさん。先ほどのあなたの推察は当た

 りです」

「え?」

「僕の家系は、力を制御できず・・・・・・暴走した神

 を祀る土地を、代々監視・管理してきました」

 

 僕はフィリップさんへ顔を向ける。

 その表情には、どこか悲しげな色が浮かんでい

た。

 それを見たフィリップさんは、困惑したように

僕を見つめる。

 

「僕たちには、全ての命を奪いかねない神の力を

 永久に封じる使命がありました。

 そのために、この空間を支配する固有能力を鍛

 錬してきたんです」

「空間・・・・・・を支配・・・・・・固有能力?」

 

 僕は遠くの森へ視線を向ける。

 

「そして近年・・・・・・その神を世界から隔離する封

 印によって、ようやく永久の封印を成し遂げま

 した」

 

 僕は一拍置いて、続けた。

 

「・・・・・・その封印には、僕の母が自らの意思で

 人柱となったんです」

「なっ・・・・・・」

 

 フィリップさんが息を呑む。

 僕は視線を落とし、静かに言葉を続けた。

 

「母は、僕たちの世界を守るために、自分の命を

 封印そのものに捧げました」

 

 今でも鮮明に脳裏へ蘇る。 

 良兄が泣きながら、僕たちに謝り続けたあの日

を。

 

「そして・・・・・・その日を境に、僕は過酷な修行を

 始めました」

 

 僕は拳を強く握り締める。

 

「二度と、同じ悲劇を繰り返さないために」

 

 何度倒れても、立ち上がった。

 血を吐くほど身体を追い込み、それでも修行を

続けた。

 

「いつか僕自身の力で、すべてを守れるように

 ・・・・・・そう思って」

 

 僕は再び、暗い森の奥へ視線を向ける。

 

「だから僕は、戦います。誰かを犠牲にすること

 なく、この力を止めるために」

 

 僕は森の中に足を踏み入れた。

 

ーto be continuedー

 

 




次回 暗闇
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