【甲龍暦412年 夕方】
[中央大陸南部 とある樹海]
「てめー、魔法使いだったのか!?」
ゴロツキのカシラは、見たこともない術に驚愕
し、思わず後ずさった。
「魔法使いではなく、結界師さ」
「ええい、どっちでもいいわい!あ〜くそっ。
おい野郎ども、何やってやがる!!早く、小僧
に攻撃しろ!!!」
「「「「「えっ!?」」」」」
カシラは、僕たちを取り囲んでいる部下たちへ
怒鳴りつける。
「この手の魔法はな、持続時間が短いんだよ」
「ほう・・・・・・」
僕は、ただ静かに聞いていた。
「それに、あの術をやっている間は他の魔法は使
えねぇはずだ。
攻撃し続けりゃ、小僧の魔力はいずれ底を尽く
そこで仕留めろ!」
カシラは口角を吊り上げる。
「やれぇぇぇ!!」
「「「「「「おお~~!!!」」」」」」
号令と同時に、ゴロツキどもが一斉に結界へと
襲いかかった。
――ガンッ!
――ガキィンッ!
――ドゴッ!
剣や斧、棍棒が次々と結界へ叩きつけられる。
「ひっ・・・・・・!」
フィリップさんが恐怖に耐えきれず、僕の肩を
強く掴んだ。
「トシモリくん! このままでは・・・・・・!」
けれど――
僕には、その声が届いていなかった。
意識が静かに研ぎ澄まされていく。
周囲の怒号も。
武器が結界を叩く音も。
フィリップさんの声さえも。
すべてが遠のいていく。
ただ、目の前の敵だけが見えていた。
――カシラ。
僕は静かに縛られた両手の縄を解き、右手の印
を結び、指先をカシラに向けた。
「――間流結界術」
「な、なんだ・・・・・・?」
「結ッ!!」
瞬間。
――ゴォンッ!!
カシラの頭部に透明な正六面体の結界が生成さ
れ、頭部を包み込む。
「なっ・・・・・・!?」
カシラの表情が凍りついた。
その瞬間、周囲のゴロツキたちの動きも止まる
静寂の中、僕は結界越しにカシラの顔を見つめ
た。
「あんたの懺悔は聞かない」
「えっ!? ま、待って!!?」
カシラは慌てて手のひらを僕へ向ける。
「滅ッ!!」
次の瞬間――
結界が、瞬間的に内側へ収縮した。
次の瞬間――カシラの首が、そこから消えた。
――ドサッ!!
そして、カシラの身体は倒れ伏せた。
「え? カ、カシラ・・・・・・?」
ゴロツキの兄貴分が、呆然とした声で呼びかけ
る。
だが、僕はそれを無視し、ゆっくりと周囲を見
渡した。
そこにいるゴロツキたちは、誰一人として動け
ずにいる。
僕は再び、右手で印を結んだ。
「――結」
次の瞬間。
その場にいたゴロツキ一人ひとりの頭部を、透
明な結界が一斉に包み込んだ。
「「「なっ……!?」」」
恐怖に染まった声が重なる。
僕は、淡々と告げた。
「次は、お前たちだ」
ゴロツキたちの顔が、一斉に引きつる。
「血で血を洗うお前たちにも――痛みなき死を」
そう告げた瞬間、ゴロツキたちは我に返ったよ
うに結界を叩き始めた。
「や、やめろ!!」
「は、はずせ!!」
「ちくしょう、ぶっ壊してやる!!」
だが、結界は揺らぐことすらない。
僕は、その様子を静かに見つめる。
そして――
「――滅」
結界が、一斉に収縮した。
その場にいたゴロツキたちは、声を上げる間も
なく首が消え、一人残らず倒れ伏した。
静寂が戻る。
僕は右手を下ろし、何事もなかったかのように
周囲を見渡した。
「フィリップさん」
「え?な、なんだい?」
「ゴロツキ全員の駆除が終わりました」
僕は淡々と告げた。
フィリップさんはしばらく呆然としていたが、
やがて小さく頷く。
「あ、ありがとう、トシモリくん・・・・・・・・・」
小屋の中に、重い静寂が落ちていた。
僕は周囲を見渡す。
――これで終わった。
そう思った、そのときだった。
「・・・・・・ん?」
小屋の外から、何やら騒がしい声が聞こえてき
た。
「・・・・・・何だ?」
僕は耳を澄ませる。
外の見張りのゴロツキたちが何かを叫んでいる
ようだ。
どうやら、小屋の外で何かが起きているらしい
「・・・・・・確認してみよう・・・・・・『解』」
僕は右手で印を結び、僕たちの周囲に張ってい
た結界を解除する。
――スッ。
透明な壁が消え去った。
僕はそのまま小屋の扉へ歩み寄り、ゆっくりと
扉を開ける。
ギィィ・・・・・・。
扉の向こうから、外の空気が流れ込んできた。
「・・・・・・・・・え?」
僕は思わず目を見開いた。
小屋の外の光景は――
数体の遺体と、その傍らに立つ灰色の毛並みを持
つ隻眼の女性獣人だった。
「・・・・・・貴様!?」
その獣人は、何の躊躇いもなく、とてつもない
殺気を放つ。
次の瞬間、彼女は剣を抜き放ち、一気にこちら
へ襲いかかってきた。
「なっ・・・・・・!?」
僕は咄嗟に右手で印を結ぶ。
「――結」
瞬時に、僕と彼女の間に透明な結界が展開され
た。
ギィンッ!!
「――ッ!」
彼女の剣が結界を斬りつける。
しかし――
「・・・・・・効かない?」
結界には傷一つついていない。
彼女は構わず、二度、三度と斬りつける。
ガギィンッ!
ガギィンッ!!
凄まじい斬撃が結界を襲う。
それでも、結界は微動だにしない。
「待ってください!」
僕は声を張り上げた。
「僕は敵じゃありません! 話を――」
「黙れッ!!」
彼女は聞く耳を持たない。
再び剣を振り上げ、結界へと叩きつける。
「だから、話をしましょう!」
僕は結界を維持したまま、必死に呼びかける。
「僕は、ゴロツキたちに連れてこられただけです
だから、話を――」
「――問答無用ッ!!」
彼女の殺気がさらに膨れ上がる。
その目には、僕の言葉を聞く余裕など一切なか
った。
「・・・・・・困ったな」
僕は小さく息を吐く。
どうやら今は――話し合いに応じてもらえそう
にない。
凄まじい攻撃を繰り出していた彼女は、僕から
一気に距離を取った。
その動きに、僕は思わず目を細める。
「・・・・・・?」
何かがおかしい。
これは、ただ距離を取っただけじゃない。
彼女は剣を構え直し、全身から凄まじいオーラ
と殺気を滲ませている。
その姿を見た瞬間――僕の中で警鐘が鳴った。
「・・・・・・ヤバいな。なんか、とんでもない大技が
来そうだな」
直感だった。
そして、その予感は的中する。
「――光の太刀」
彼女の剣が、眩い光を纏った。
「ッ!?」
僕は反射的に身構える。
あれは――まともに受けたらまずい。
「・・・・・・仕方ない」
僕は右手で印を結ぶ。
「――間流結界術」
一瞬で意識を切り替える。
「絶――」
周囲の空間が、静かに歪んだ。
「――『絶界』」
僕を中心として、黒い球状の結界を展開される
直後――
彼女が踏み込んだ。
「――ッ!!」
眩い光を纏った太刀が、凄まじい勢いで振り下
ろされる。
――ズドォォォンッ!!
轟音が森を震わせた。
ーto be continuedー
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