結界師 〜墨村利守は六面世界で奔走する〜   作:rOOd

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ああ


結界師

      【水無月 昼過ぎ】

 

      [烏森 墨村家] 

 

「お〜、懐かしい。ここだよ。利守の家は」

 

 おれと高木たちは今、墨村家の門の前に立って

いた。

 

 高木が墨村家に連絡を取ったところ、

『詳しく話を聞きたいから、家まで来てくれ』と

言われたそうだ。

 おれたちは週末に行くと約束し、高木の生まれ

故郷の烏森に足を運んだ。

 

「でっけぇ家・・・・・・。ここが墨村利守の家なのか

 !?」

「お前の友達、金持ちだな〜」

「いや、この辺じゃ歴史の長いだけ家なんだよ。

 本人は昔、『結構貧乏なんだ』って言ってた」

 

 その時、不意に背後から呆れたような声が聞こ

えた。

 

「悪かったね、貧乏で」

「「「うわっ!?」」」

 

 俺たちは一斉に振り返り、思わず肩を跳ねさせ

た。

 そこには、苦笑いを浮かべた細マッチョで長身

の男が立っていた。

 

「と、利守!?」  

 

 高木は幼馴染の利守だとわかり、気まずそうに

咳払いをして右手を前に出した。

 

「久しぶり・・・・・・」

 

 利守は苦笑したまま、握手を交わした。

 

「ああ。久しぶり」

 

 すると黒木が一歩前に出て、姿勢を正した。

 

「えっと・・・・・・今回、神隠しの件で依頼をお願い

 した黒木誠司です」

 

 利守は黒木に視線を向け、軽く会釈する。

 

「墨村利守です。話は高木から聞いているよ。

 とりあえず、中へ入って」

 

 俺たちはどこか気まずそうな表情を浮かべなが

ら、墨村家の門をくぐった。

 利守に案内されて屋敷へ入り、客間へ通される

 

「ここでくつろいでいて。すぐ戻るから」

 

 そう言い残して利守は部屋を後にした。

 俺たちは勧められるまま座布団に腰を下ろした

ものの、誰も口を開かない。

 静かな客間には、重苦しい空気だけが流れてい

たが、しばらくして――。

 客間のふすまが静かに開き、一人の老人が姿を

現した。

 白髪交じりの髪を後ろへ流し、穏やかながらも

鋭い眼光を宿したその人物こそ、利守のおじいさ

んだった。

 

「お、おじいさん!?」

 

 おじいさんの姿を見て、高木が思わず声を上げ

る。

 

「高木くん、久しぶりだな」

 

 老人は穏やかに微笑みながら声をかけた。

 

「はい、お久しぶりです」

 

 高木は姿勢を正し、丁寧に頭を下げた。

 

「そう緊張するでない。よく来てくれた」

 

おじいさんはゆっくりと上座へ腰を下ろすと、

一度小さく咳払いをした。

 

「さて、まずは自己紹介をしておこう。

 儂は墨村繁守。利守の祖父じゃ」

 

 穏やかな口調ながら、その場の空気を引き締め

るような威厳があった。

 繁守さんは黒木の方に視線を向けて尋ねた。

 

「君が黒木誠司くんだね?」

「はい、よろしくお願いします」

「高木くんから事情は少し聞いておる。じゃが、

 詳しい話はまだ知らん。

 今回の依頼について、一から聞かせてもらえる

 かのう」

 

 黒木は一度深呼吸すると、静かに口を開いた。

 

「・・・・・・はい。実は、俺たちの高校で神隠し事件

 が起きたんです」

 

 そう切り出した黒木は、事故が起きた十字路の

こと、目の前で親友の七瀬と秋人が突然姿を消し

たこと、さらに警察も手掛かりが掴めずに匙を投

げること、黒木が精神的に限界であるなど、一つ

ひとつ包み隠さず説明していった。

 話が進むにつれ、客間には重苦しい沈黙が流れ

る。

 繁守さんは途中で口を挟むことなく、目を閉じ

たまま静かに耳を傾けていた。

 

「これがわかっている全てです」

 

その言葉を聞くと、繁守さんはゆっくりと目を開

いた。

 

「・・・・・・その二人は、話を聞く限り、異界に迷い

 込んだ可能性が高い」

「異界? 異世界じゃなくてですか?」

 

 クラスメイトの一人が不思議そうに聞き返す。

 繁守さんは静かに頷いた。

 

「うむ。異界と異世界は似ているようで、まった

 く別物じゃ」

「どう違うんですか?」

「異界とは、この世界と重なるように存在する別

 の異空間のこと。

 人の世と同じ場所にありながら、通常は互いに

 干渉できぬ世界じゃ」

 

 繁守さんは一拍置いて続ける。

 

「一方、異世界とは、この世界とは異なる時空に

 存在する別世界を指す。

 つまり、時空そのものを越えた先にある世界な

 のじゃ」

 

 黒木は繁守さんに、こう尋ねた。

 

「つまり、七瀬たちは異世界へ行ったんじゃなく

 この世界と重なって存在する異空間に迷い込ん

 だってことですか?」

「詳しい調査をしてみないと分からぬが、おそら

 くは・・・・・・・・・」

 

 高木は腕を組み、腑に落ちない表情で尋ねた。

 

「でも、どうして異世界じゃなくて異界だと言い

 切れるんですか?」

 

 繁守さんは静かに目を開き、一同を見渡した。

 

「理由は単純じゃ。その条件では、人が迷い込め

 るのは異界だけだからじゃ」

「条件・・・・・・ですか?」

「うむ。異界とは、この世界に重なって存在する

 異空間。

 ゆえに、境界が揺らいだ時、人が偶然迷い込む

 ことが稀にある」

 

 繁守さんはそこで一拍置き、声の調子をわずか

に低くした。

 

「しかし、異世界は違う。時空そのものを越えた

 先にある、まったく別の世界じゃ。

 もし本当に異世界への道が開いたのなら、その

 影響は周囲だけでは済まん」

「どういうことですか?」

 

 黒木が理解できずに尋ねると、繁守さんは冷や

汗を浮かべ、静かに語る。

 

「時空を貫くほどの力が働けば、この地には大規

 模な天変地異が発生する。

 大地は激しく揺れ、空間は歪み、自然そのもの

 が悲鳴を上げるほどの異変が起きるはずじゃ」

 

 一同は思わず息をのむ。

 

「しかし、君たちの話を聞く限り、そのような大

 規模な時空の乱れが起きておれば、儂らが必ず

 感知しておる」

「なぜ、そう言い切れるんですか?」

 

 高木が尋ねると、繁守さんは墨村家について語

り始めた。

 

「高木くん。君は儂ら墨村家のことを、どこまで

 知っておる?」

「えっ? 確か、昔から烏森に現れる妖や怪異を

 退治する退魔師の末裔・・・・・・ですよね?」

 

 繁守さんは真剣な表情に変わり、訂正した。

 

「退魔師ではない。儂らは結界師じゃ」

 

「結界師?」 

 

 俺たちは繁守さんの言葉の意味がわからず、首

をかしげた。

 

「うむ。墨村家は特殊な術を扱う家系じゃ。結界

 術を駆使し、古くから妖や怪異と戦ってきたの

 じゃ」

 

 繁守さんが静かに語ると、一同は顔を見合わせ

た。

 

「結界術・・・・・・?」

 

 誰もが初めて聞く言葉に戸惑いを隠せない。

 その時、襖が静かに開いた。

 利守が麦茶とコップを載せたお盆を手に、客間

へ入ってくる。

 

「おじいちゃん、うちの秘密をそんなにペラペラ

 しゃべっていいの?」

 

 少し呆れたような口調で利守が尋ねる。

 繁守さんは穏やかに笑い、小さく頷いた。 

 

「かまわん。我らの役目はとうに終えておる」

 

 一拍置き、繁守さんは黒木たちへ視線を向ける。

 

「それに、この件を解決するには、ある程度はこ

 ちらの事情を知ってもらわねば、話が進まんか

 らの」

 

 利守はやれやれという顔を浮かべ、麦茶をグラ

スに注ぎ、みんなに配った。

 配われた麦茶を一口飲んだ高木が手を挙げる。

 

「あの〜、結界って、陰陽師なんかも使う術です

 よね? それと何が違うんですか?」

 

 繁守さんは静かに頷いた。

 

「うむ、よい質問じゃ。確かに陰陽師も結界や

 障壁を扱う。

 しかし、あちらの結界は魔除けや封印、防御を

 主とした術じゃ」

 

 繁守さんは一拍置き、静かに続ける。

 

「一方、墨村家の間流結界術は根本から異なる。

 我らの術は『空間そのものを支配する術』

 じゃ」

「空間を・・・・・・支配?」

 

 俺たちは思わず息をのむ。

 

「うむ。空間を切り取り、閉じ、固定し、時には

 歪める。

 それによって妖や怪異を封じ、滅する。

 これこそが墨村家に伝わる間流結界術の真髄

 じゃ」

 

 繁守さんの熱弁で俺たちは黙り込んだ。

 しばらくすると、黒木は一度咳払いをし、繁守

さんを真っ直ぐ見つめた。

 

「・・・・・・話を元に戻します。七瀬と篠原の神隠し

 についてですが、その調査の依頼を引き受けて

 もらえますか?」

 

 繁守さんは静かに目を閉じ、しばらく考え込む

 やがて穏やかに頷いた。

 

「よかろう。君の依頼、墨村家が引き受けよう」

 

 その言葉に、客間の空気が少しだけ和らぐ。

 しかし、繁守さんは続けてこう告げた。

 

「じゃが、この一件は――利守に任せる」

「えっ?」

 

 突然名前を呼ばれた利守は、思わず目を丸くし

た。

 

「お、おじいちゃん!? なぜ僕が?」

 

 繁守さんは穏やかに微笑みながら頷く。

 

「うむ。この件は、お前が経験を積むには絶好の

 機会じゃ。それに、お前なら必ず真相へ辿り着

 ける」

 

 利守は一瞬戸惑った表情を浮かべたが、やがて

覚悟を決めたように小さく息を吐き、黒木たちへ

向き直った。

 

「・・・・・・わかった。この依頼、僕が引き受ける」

 

 一拍置いて、利守は静かに続けた。

 

「黒木くん、それでいいかい?」

 

 黒木は真っ直ぐ利守を見つめ、力強く頷く。

 

「それでいい。正直、藁にもすがる思いなんだ。

 俺は君のことをよく知らない。

 でも、繁守さんは話を最後まで聞いてくれたし

 的確な説明や助言もしてくれた。

 だから、君も信じるよ」

「そうか・・・・・・なら、よろしく」

 

 利守は静かに立ち上がると、黒木の前まで歩み

寄り、右手を差し出した。

 

「できる限りのことはするよ」

 

 黒木はその手をしっかりと握り返す。

 

「うん・・・・・・ありがとう」

 

 その姿を見た繁守さんは微笑んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

       【同時刻】

 

      [墨村家 上空] 

 

「・・・・・・・・・相変わらず甘い奴らだな」

 

 空中に浮かびながら、扇六郎は呆れたように墨

村家を見下ろえていた。

 

「しかし、あのガキもずいぶんと大きくなったも

 んだ」

 

 以前、裏会の尋問でこの家を訪れた時のことを

思い出す。  

 あの時は、あの家族の母親を散々こき下ろした

ものだった。

 

「まあ、こいつはラッキーだったな。結局、あい

 つらも、あの一件に巻き込まれることになるん

 だからな」

 

 ニカッと悪魔の笑みを浮かべ、舞い上がってい

った。 

 

「あの神隠しは、下手すれば裏会の幹部たちです

 ら匙を投げるもんだ」

 

 そう言って、西の方に飛び去った。

 

ーto be continuedー

 

 

 

 




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