結界師 墨村 利守〜六面世界で奔走する〜   作:rOOd

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墨村家の夜

      【残暑 夕方】

 

      [烏森 墨村家] 

 

「さあ、みんな、たくさん食べてね」

 

 利守のお父さんが腕を振るった料理が所狭しと

並べられたちゃぶ台を囲み、俺たちは一斉に手を

合わせた。

 

「「「「いただきます!」」」」

 

 俺たちは、利守の家に一泊することになった。

 本当は日帰りの予定だったのだが、電車が運行

停止になってしまったからだ。

 なんでも、線路沿いに巨木が倒れた影響で復旧

作業が難航しており、運転再開は明日の昼頃にな

ると、交通アプリに表示されていた。

 繁守さんが、『仕方ないので今日は、うちに泊

まりなさい』と言ってくれた。

 お言葉に甘えて、夕食をいただいている。

 

「うまい!」

「これ、本当においしい!」

「何杯でも食べられそうだ!」

 

 高木たちは次々と料理へ箸を伸ばし、『うまい、

うまい』と夢中になって頬張る。

 

「フンスッ」

 

 修史さんは満足そうに鼻息を鳴らしながら、勢

いよくご飯をかき込んでいた。

 

「ふぉっふぉっふぉっ。こうして大勢で食卓を囲

むのは、本当に久しぶりじゃ」

 

 繁守は目を細め、どこか懐かしそうに笑みを浮

かべた。

 

 その言葉に、高木がふと思い出したように利守

へ視線を向けた。

 

「そういえば利守、お兄さんたちはどうしたんだ

 よ?」

 

 高木の問いに、利守は箸を止め、少し苦笑いを

浮かべた。

 

「そういえば、まだ紹介してなかったね」

 

 すると黒木が意外そうに目を丸くする。

 

「えっ、利守くんってお兄さんがいるのか?」

 

 その問いに答えたのは、繁守さんだった。

 

「うむ。利守には二人の兄がおる。一番上の兄は

 仕事が忙しい身でな。

 たまにしか家へ顔を出さんのじゃ」

「へぇ・・・・・・」

 

 繁守さんは一度お茶をすすり、穏やかに続ける

 

「そして二番目の兄は、現在パティシエになるた

 め修行中じゃ。

 こちらも店での修業が忙しく、今日は戻ってお

 らん」

 

 高木が首をかしげる。

 

「あれ? 利守ってさ、お姉さんもいなかったっ

 け?」

 

 利守くんは苦笑して首を横に振った。

 

「それは隣の家のお姉さんだよ」

「となり?ああ、思い出した。あのお姉さんか」

「そ、時音姉さん。あの人とは血のつながりはな

 いけど、小さい頃から家族みたいな存在なんだ」

「へぇ~、そうなんだ」

「ちなみに、時音姉は今、うちの高校の教師をし

 ているよ」

「ほぉ〜。あの人、学校の先生になったのか」

 

 高木が納得したように頷くと、何気ない調子で

続けた。

 

「そういえば、六年前の天変地異の原因は、どう

 なったんですか?」

 

 その一言で、食卓の空気が一変した。

 繁守さんも、修史さんも、利守くんも、誰一人

として口を開かない。

 

 重苦しい沈黙だけが、その場を支配した。

 高木は青ざめ、冷や汗を滝のように流した。

 

 しばらくして、繁守さんが静かに湯飲みを置い

て語り出した。

 

「そうか・・・・・・君は引っ越したから知らんのか 

 ・・・・・・」

 

 一同が息をのむ。

 

「昔、烏森で起きた天変地異は・・・・・・・・・・・・

 あれは墨村家と同じ流派の雪村家が力を合わせ

 その災いを封印した」

 

 繁守さんの穏やかな声には、当時を知る者だけ

が持つ重みが宿っていた。

 高木は驚きに目を見開き、思わず息をのむ。

 

「・・・・・・封印ですか?」

 

 繁守さんは静かに頷く。

 

「うむ。あの時、一歩間違えれば多くの者の命を

 奪う災いの直前だった」

 

 客間は重苦しい沈黙に包まれた。誰も軽々しく

言葉を発することができず、ただ繁守さんの話に

耳を傾けていた。

 

「詳しくは話せぬが、あの天変地異は、烏森の土

 地神が暴走したことによって引き起こされた」

「暴走・・・・・・?」

「うむ。その暴走を止めるため、裏会の力も借り

 て、烏森そのものを封印したのじゃ」

「あの・・・・・・裏会って何ですか?」

「裏会とは簡単に言えば、異能者を監視管理する

 組織じゃ。

 そこには日本中の異能者たちが全員在籍してお

 る」

 

 一拍置き、繁守さんはどこか肩の荷が下りたよ

うに穏やかな表情を浮かべる。

 

「もともと儂ら墨村家と、となりの雪村家の一族

 は、代々この烏森を監視し、封印を維持するこ

 とを使命としてきた」

 

 繁守さんは静かに目を閉じ、小さく頷いた。

 

「――じゃが、その役目も、あの一件をもって終

 わったのじゃ」

 

 高木は、これ以上烏森のことを聞くべきではな

いと察し、話題を俺たちの依頼へと戻した。

 

「烏森の天変地異についてはわかりました。

 では、神隠しの件について質問したいのですが

 ・・・・・・七瀬と篠原、二人は生きているんですよ

 ね?」

 

 繁守さんは静かに首を横へ振った。

 

「・・・・・・それは、わからぬ」

 

 その一言に、客間の空気が凍りつく。

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

 黒木は思わず身を乗り出し、声を震わせた。

 

「い、生きていますよね?」

 

 利守は静かに頷き、黒木たちへ視線を向けた。

 

「ごめん、おじいちゃんの言うとおりなんだよ。

 二人が今どんな状況にいるのかは、僕たちにも

 予想できない」

 

 その言葉に、高木が戸惑ったように首をかしげ

る。

 

「でも、異界って時間が止まっているとかじゃな

 いのか?」

 

 利守は静かに首を横へ振る。

 

 「違うよ。異界でも時間は止まるわけじゃない。

 この世界と同じように時間は流れているんだ」

 

 その言葉を受け、繁守さんが静かに口を開く。

 

「そもそも異界とは、妖や土地神の住処じゃ。

 そこへ迷い込んだ人間をどう扱うかは、その地

 を治める『主』次第なのじゃ」

「『主』次第・・・・・・?」

「うむ。手厚くもてなし、無事に帰してくれる者

 もおれば、二度と帰さぬ者もおる。中には、自

 らの眷属や供物として扱う者さえおる」

 

 それを聞いた俺たちは顔面蒼白になるが、繁守

さん静かに続ける。

 

「じゃが、話を聞く限り、今回の神隠しは、偶然

 生まれた新しい異界に迷い込んだと儂は思う」

「偶然?」

「そうじゃ。例えるなら、建てたばかりの家のよ

 うなものじゃ。

 何らかの原因で、あの十字路に新たな異界が生

 まれた。

 そして二人は交通事故の衝撃で、たまたま生じ

 た空間の歪みに落ちてしまった――

 そう考えるのが自然じゃろう」

 

 俺たちは繁守さんの考察を聞き、ひとまず胸を

なで下ろした。

 しかし、繁守さんはすぐに利守へ視線を向け

表情を引き締める。

 

「だが、利守。油断するでないぞ」

「わかっているよ、おじいちゃん」

「明日は念のため、一週間分の野営ができる装備

 を持っていけ」

「え? あ、明日!? 明日、調査に行くの!?」

「当然じゃろ。この程度のこと、本来なら今日中

 に片付けるべき案件じゃ」

 

 その言葉に、俺たちは思わず顔を見合わせた。

 

「きょ、今日中って・・・・・・」

「いやいや、それ無茶でしょう・・・・・・」

 

 繁守さんのあまりにも常識外れな一言に、俺た

ちはそろって呆然とする。

 

「おじいちゃんにとっては、それが普通なんだよ

 ・・・・・・・・・」

 

 利守だけは苦笑いを浮かべながら肩をすくめた

 

ーto be continuedー

 

 

 




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