【水無月 昼前】
[高木くん家]
「利守、なんで人為的って言い切るんだ?」
高木くんが不思議そうに尋ねた。
僕は静かに頷き、答える。
「実は、例の十字路から僕が今まで一度も感じた
ことのない残留思念が残っていたんだ」
「残留思念って、場所や物への付着する強い感情
のことだよな?」
「うん、うまく言えないんだけど、あの十字路に
残っていた思念は、人や妖怪、まして、神のと
違う・・・・・・本当に異なる世界と言える感覚だっ
た」
僕の言葉に、黒木くんたちは顔を見合わせた。
その瞬間――。
「その通り」
突然、窓の外から声が聞こえ、僕たちは一斉に
窓のほうを振り向く。
「「「「「!?」」」」」
窓の外に浮かぶ人物の姿を見た瞬間、僕は思わ
ず息をのんだ。
「あ、あんたは!?」
「久しぶりだな、墨村の三男坊」
黒木くんが不思議そうに尋ねる。
「なに、利守くんの知り合い?」
「いや、その・・・・・・・・・昔、うちの家族に言いがか
りをつけてきたクレーマーだよ」
僕がそう言い返すと、男は「ケケケッ」と不気
味に笑った。
「クレーマーじゃねぇ、扇六郎だ」
そう、こいつを忘れるはずがない。
扇六郎・・・・・・。お母さんに難癖をつけてきた男
「ケケケッ・・・・・・あん時は悪かったよ」
扇六郎は肩をすくめながら続ける。
「お前の親父さんは相当キレてたなぁ」
そう言うと、口元をゆがめて不敵な笑みを浮か
べた。
「だが、そのおかげであの苦労人と縁ができた」
く、苦労人?
あ、もしかして正兄のことか?
た、確かに苦労の連続だったけど・・・・・・。
この人にだけは言われたくないな。
「まあ、オレにとっちゃ儲けもんだった」
「儲け?」
僕が眉をひそめる。
「ケケッ。今じゃ、てめーの兄貴とはれっきとし
たビジネスパートナーってわけよ」
不機嫌そうな表情を浮かべ、窓を開けた。
「あんた・・・・・・なぜ、ここにいるんだ?」
「・・・・・・・・・だいたい察しはついているだろう
結界師」
その言葉に、黒木くんが身を乗り出した。
「まさか、神隠しですか!?」
扇六郎は黒木くんをじろりと見て、眉をひそめ
る。
「・・・・・・なんだ、てめーは?」
「あ、すみません。黒木誠司といいます。あの神
隠しの目撃者です」
黒木くんが名乗ると、扇六郎は「ああ」と小さ
く頷いた。
「そうか、お前が・・・・・・そういや、裏会の資料に
書いてあったな」
そして、黒木くんを値踏みするように眺めなが
ら、口の端を吊り上げる。
「お前・・・・・・運がよかったな」
「え?」
「普通なら、神隠しを目撃して、生きて帰ってく
るなんてありえねぇ」
扇六郎は「ケケケッ」と不気味に笑いながら
黒木くんをじっと見つめる。
「ほとんどの奴は巻き込まれて、そのままこの世
から消えちまうからな」
その言葉を聞いて、黒木くんの額に冷や汗が浮
かんだ。
「それでも、お前は生きて帰ってこられた。
つまり・・・・・・運がよかったってことだ」
扇六郎の笑みが、さらに深くなる。
黒木くんは何も言い返せず、ただ黙って扇六郎
を見つめていた。
「ともかく、中に入って」
「えっ!?」
「そこだと目立ちすぎるよ。話も聞きたいし」
僕はこの男の話を聞くため、部屋に招いた。
「ケケケッ、そんじゃ、お邪魔するぜ」
扇六郎が部屋へ入ると、辺りを見回したあと、
空いているベッドに腰を下ろした。
「ケケケッ。ま、立ち話もなんだしな」
そう言って足を組むと、扇六郎は利守へ視線を
向ける。
「お前も、もう気づいてるんだろ?」
「・・・・・・何を?」
利守が警戒するように尋ねると、扇六郎は口の
端を吊り上げた。
「あの十字路はよ、異世界に繋がってるってこと
よ」
「・・・・・・やはり、そうか」
利守は静かに呟いた。
自分が感じ取った残留思念。
そして、あの場所に漂っていた異様な空気。
それらを考えれば、扇二郎の言葉は腑に落ちる。
「やっぱり、あの十字路は異世界に・・・・・・」
黒木くんたちも息をのむ。
「でも・・・・・・」
利守は眉をひそめ、扇六郎を見つめた。
「なぜ、そんなことに?」
「ケケケッ。そこが問題なんだよ」
扇六郎は意味ありげに笑った。
「別次元の世界に繋がる道なんざ、そう簡単にで
きるもんじゃねぇ」
「・・・・・・つまり?」
「誰かが意図的に、あそこを繋げた可能性がある
ってことさ」
その言葉に、部屋の空気が一気に張り詰めた。
ーto be continuedー
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