結界師 墨村 利守〜六面世界で奔走する〜   作:rOOd

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異世界召喚

       【水無月 昼前】

   

       [高木くん家]  

 

「意図的に?」

 

 僕が聞き返すと、扇六郎は口の端を吊り上げた 

 

「推察するに、これは――『異世界召喚』だ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、僕は妙に納得してしま

った。

 あの十字路で感じた、これまでにない残留思念

 そして、人為的な感覚。

 すべてを考え合わせれば、扇六郎の推察は筋が

通っていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 黒木くんが慌てて扇六郎を制止した。 

 

「異世界召喚って・・・・・・七瀬と秋人は、あんたた

 ちみたいに特殊な力なんて持っていない普通の

 高校生ですよ!?」

 

 息を荒げながら、黒木くんは続ける。

 

「そんな二人を召喚して、一体どうなるっていう

 んですか?」

 

 扇二郎は少し考えるように顎へ手を当てた。

 

「さあな。考えられる可能性としては・・・・・・・・・

 『因果率』ってところか」

「・・・・・・因果率?」

 

 黒木くんが聞き返す。

 扇六郎は天井を見上げながら、言葉を続けた。

 

「これも俺の推察だが、お前のダチを召喚した

 奴は、たぶん未来視を持っていんだろ」

「未来視?」

「そ。未来を見るだけの能力さ」

 

 扇六郎はニカッと笑う。

 そして、ひとつの結論を口にした。

 

「そいつには、変えたい未来がある。

 だから――異世界から、適当な奴を召喚した

 ってわけだ」

 

 黒木くんは思わず反論する。

 

「いやいや、未来を変える!?

 仮にそうだったしたら、なんで、そんな面倒な

 ことをするんですか!?

 自分の未来なんて、自分の手で変えていけばい

 い話でしょう!」

「お前の言う通り、未来は確かに変わる。けどな

 大きくは変わらねぇんだよ」

「変わるのに、変わらない?矛盾してるでしょ」

 

 黒木くんが眉をひそめる。

 扇六郎は肩をすくめると、ふっと悲しい表情に

変わった。

 

「時間っていうのは、細かいところはいくらでも

 変わる。

 だが――大きな流れってやつは、そう簡単には

 変わらねぇよ」

「大きな流れ・・・・・・?」

「ああ、宿命だの、時代のうねりだのは、大きな

 流れだろ? 

 そんな大きな運河は、たとえ何をしようが、結

 局は同じ未来へ収束していく。

 だからこそ、そいつは考えたんだろうよ」

 

 扇六郎は天井を見上げ、無表情となった。

 

「だったら、自分の世界の人間じゃない奴を呼べ

 ばいい。未来の流れそのものに、外から異物を

 叩きつければいい――ってな」

 

 黒木くんは首を横に振り続けた。

 

「む、無茶苦茶だ。仮にそうだったとしても・・・

 ・・・そんな方法で、本当に変わらない未来が変わ

 るんですか?」 

「さあな。だが、どんな世界にも理不尽がある」

 

 この男の言葉には、重みがあった。

 そう――。  あの扇一族で異形の者へと変わり

果てながらも、それでも生き抜いてきた、この男

だからこそ分かる世界の真理なのだろう。

 

「そいつが、人の道を外れてでも・・・・・・世界その

 ものを消すことになってでも・・・・・・絶望の未来

 を絶対に変えたいんだよ」

 

 扇六郎は、まるで絶望を抱いた者の代弁者であ

るかのように、そう語り終えた。 

 

 僕たちは、その言葉に打ちのめされた。

 それは、あまりにも身勝手な願いなのかもしれ

ない。

 

 それでも――。

 抗うことこそ、人間の本質なのだ。

 そう言われたような気がした。

 僕は扇六郎に声をかけた。

 

「扇六郎さん」

「なんだよ、三男坊」

「三男坊ではありません。墨村利守です・・・・・・。

 お願いがあります」

「・・・・・・・・・何だよ?」

 

 扇六郎は目を細め、僕を品定めするようにじっ

と見つめる。

 その視線に、僕はわずかに身構えた。

 

「今回の神隠しの件・・・・・・ご協力いただけません

 か?」

 

 扇六郎はしばらく黙り込んでいた。

 やがて、静かに口を開く。

 

「俺は、お前の母親の名誉を汚した男だぞ?」

「・・・・・・昔のことだからと、割り切るつもりはあ

 りません」

 

 僕は六郎をまっすぐ見据えた。

 

「正直に言えば、あなたのことをよく思っていま

 せん」

 

 一拍置いて、僕は続ける。

 

「でも、僕もこちらには仕事で来ています」

 

 そして、六郎の目をまっすぐ見つめる。

 

「今回の件、あなたの力と経験が必要なんです。

 だから――力を貸してください」

 

 僕は深々と頭を下げた。

 しばらくして、六郎が小さく息を吐く。

 

「・・・・・・いいぜ。協力してやるよ」

「えっ?」

 

 思わず顔を上げる。

 六郎は口の端を吊り上げ、ニヤリと笑った。

 

「勘違いするな。罪悪感とか、そういう話じゃ

 ねぇ」

 

 そして、僕を見据える。

 

「お前は、あの墨村の次男坊とは違う。

 過去に何があったかを忘れたわけじゃねぇ。

 それでも、自分の目的のために俺を頼った」

 

 六郎は肩をすくめた。 

 

「そういう大人の対応ができる奴なら、俺も力を

 貸してやる・・・・・・それだけのことだ」

 

 扇六郎は、黒木くんたちを一人ずつ見渡した。

 

「お前らも、それでいいな?」

 

 高木くんたちは扇六郎に尊敬の視線を向け、一

人一人頭を下げた。

 

「は、はい。お願いします」

「もちろんです。なんだか、心強くなりました」

「あんたの言葉・・・・・心に響きました。

 今、ものすごく大切なことを教わりました」

 

 最後に、黒木くんが扇六郎の前で深々と土下座を

した。

 

「扇六郎さん。あなたの力を貸してください!」

 

 扇六郎は、土下座する黒木くんをじっと見つめた

 

「友達が今、どうなっているのか・・・・・・・・・

 俺にはわかりません」

 

 黒木くんは一度顔を上げると、扇六郎の目を

まっすぐ見つめた。 

 

「けど、俺は真実を知りたいんです。お願いしま

 す!」

 

 そう言い!再び土下座をした。

 しばらく黒木くんを見つめていた扇六郎は、頭

を掻きながら小さくため息を吐いた。

 

「・・・・・・ったく」

 

 そして、少しだけ苦笑を浮かべる。

 

「そこの利守にも言ったが・・・・・・手を貸してやる

 よ」

「えっ・・・・・・」

「黒木・・・・・・お前の覚悟は、十分わかったよ」

 

 扇六郎は目を閉じ、静かに自分のことを語った

 

「俺はロクデナシの人外者だが、人の善意を食い

 物にするほど腐っちゃいねぇよ」

 

 そう言って立ち上がると、扇六郎は黒木くんの

肩に手を置いた。

 

「黒木、お前がダチの生存を一番信じなくて、ど

 うするよ?」

 扇六郎は、顔を上げた黒木くんに喝を入れる。

 

「この先、何があろうとな――お前は希望を捨て

 るな!絶望を踏み越えろ!!」

 

 一拍置いて、力強く言い放った。

 

「ダチを絶対に取り戻せ。自分の手でな!!」

 

 黒木くんは大粒の涙を流しながら、扇六郎にし

がみついた。

 

「・・・・・・はい・・・・・・!」

 

 その声は涙で震えていた。

 それでも、その目には確かな光が戻っていた。

 

ーto be continuedー

 

 




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