結界師 〜墨村利守は六面世界で奔走する〜   作:rOOd

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異世界転移

       【水無月 夜中】

   

       [神隠しの十字路]  

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・ぷっ」

「・・・・・・おい・・・・・・・・・川田」

「・・・・・・笑いたいなら、笑っていいよ」 

 

 僕と黒木くんたちは、例の十字路へ再び調査の

ため、向かっている。

 道中、僕のリュックを背負っている黒木くんと

高木たちが必死に笑いを堪えている理由は

――僕の格好だった。

 結界師としての伝統的な服装、「結界師装束」

に着替えたのだが、動きやすさを重視した黒や濃

紺を 基調とした和洋折衷の忍装束に、修行僧を思

わせる ような装飾が加わった、なんとも独特な姿

であった。

 

 どうやら僕の結界師装束が、思っていた以上に

黒木くんたちのツボに入ったらしい。

 笑いを堪えている高木は僕に質問した。

 

「なあ、トショ」

「・・・・・・なに、タカン?」

 

 高木が思わず小学校時代のあだ名で僕を呼ぶか

ら、僕もつい、あだ名で呼んだ。

 

「なんで、そんなスタイルなの?」

「うちのおじいちゃんが、この服装にこだわって

 いるんだよ」

 

 高木たちは「そうか」という顔を浮かべ、頷い

た。

 

「おいおい、一族の伝統装束を笑うな」

 

 扇六郎は、たしなめるように高木たちを見た。

 

「す、すみません」

「で、でも・・・・・・」

「う、うん・・・・・・・・・」

「伝統をバカにすると、後で痛い目に遭うぜ」

 

 真剣な顔で告げる扇六郎を見て、高木たちは口

を閉ざした。

 

「・・・・・・・・・意外ですね」

 

 僕がそう呟くと、扇六郎がこちらに視線を向け

た。

 

「何がだよ、利守」

「あんたって、伝統とかを毛嫌いしていると思っ

 ていました」

「・・・・・・・・・毛嫌いか。ああ、嫌いだよ。伝統なん

 て大嫌いだ!」

 

 何かを思い出したかのように、扇六郎は僕を睨

みつける。

 

「お前の二番目の兄貴のようにな・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・良兄を本当に嫌悪していますね」

「最初に出会った時、あいつの頭の中がお花畑だ

 からな。心底ムカついたんだ」

 

 僕は少し考えてから、頷いた。

 

「まあ確かに・・・・・・・・・あんたが言いたいことは

 少しだけ分かります」

「・・・・・・・・・なに?」

 

 意外だったのか、扇六郎が目を瞬かせる。

 

「良兄が甘いって言いたいんでしょう?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「その通りですよ。良兄は甘いです」

 

 あっさり肯定した僕に、扇六郎はしばらく呆気

に取られたような顔をしていた。

 僕は苦笑しながら続けた。

 

「でも、そこが良兄の良いところでもあるんです

 ・・・・・・それだけは否定できません」

「・・・・・・・・・・・・ケッ」

 

 扇六郎は吐き捨てるように唾を吐いた。

 

「あんなやつがいるから、日陰者をできちまうん

 だよ・・・・・・・・・俺やお前みたいな」

 

 その言葉には、良兄への苛立ちだけではない、

どこか自嘲するような・・・・・・僕に対しての憐れみ

のような響きが混じっていた。

 

「・・・・・・着きましたね」

「ああ・・・・・・。ーーッ!!?」

 

 話をしながら歩いているうちに、僕たちはあの

十字路へと到着した。

 その瞬間――僕と扇六郎は、同時に異変に気づ

いた。

 

「お、おい、ヤベーぞ!?」

 

 扇六郎の表情が険しくなる。

 昼間には感じなかった、穢れにも似た強烈な負

の念。

 それが、この十字路一帯から漂っていた。

 

「ええ。マズイですね」

 

 僕も額に冷や汗を浮かべながら、周囲を見回す

 

 昼間に感じたものとは、比べものにならない。

 この場所に漂う負の念は、明らかに昼間よりも

濃く、そして強くなっていた。

 

「・・・・・・マズいな」

 

 扇六郎が低く呟いた。

 

 次の瞬間――。

 

「えっ!?」

「うわっ!?」

「な、なんだ!?」

「身体が浮いた?!」

 

 突如として強烈な風が吹き抜け、高木たちの身

体が大きく後方へ押し流される。

 

「ちょ、六郎さん!?」

「お前ら、そこで大人しくしてろ!」

 

 扇六郎は風を操り、高木たちを十字路から遠ざ

ける。

 

 そして、僕へ鋭い視線を向けた。

 

「利守、ここを離れるぞ!」

「・・・・・・でも」

 

 僕は十字路を見つめた。

 このまま放っておけば、何かが起こる。

 

「僕が何とかします」

 

 そう告げると、扇六郎は険しい顔で首を横に振

った。

 

「無理だ!」

「え?」

「これはお前の手でおえるものじゃねぇ!!」

 

 その言葉には、冗談や脅しの気配など一切なか

った。

 扇六郎は、これまでに見たことがないほど真剣

な表情を浮かべていた。

 

「おそらく・・・・・・次元が裂ける寸前だ!?」

「えっ!ということは・・・・・・!?」

「ああ、次元ゲートが開いちまう!?」

 

――次の瞬間。

 

 空間が大きく歪んだ。

 

 ゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・!

 

 十字路の中央に、黒い渦が発生し始める。

 

「な、なんだ、あれは!?」

 

 黒い渦は瞬く間に拡大し、やがて人ひとりが通

過できるほどの巨大な裂け目へと変貌した。

 

「次元ゲートだ!」

 

 扇六郎が鋭く叫ぶ。

 

「くっ・・・・・・・・・!」

 

 僕は即座にゲートへと駆け寄った。

 

「これ以上、開かせるわけにはいかない!」

 

 霊い力を集中させ、ゲートの封鎖を試みる。

 

 しかし――。

 

「やめろ、利守!」

「えっ!?」

 

 扇六郎が僕の腕を強く掴んだ。

 

「何をするんですか、六郎さん!?」

「今、無理に閉じれば危険だ!」

「ですが、このままでは・・・・・・・・・!」

「分かっている!だが、見てみろ!あのゲートは

 あまりにも不安定だ!」

 

 僕たちが言い争っていた・・・・・・そのときだった

 僕たちの横を、一つの人影が通り過ぎた。

 

「えっ、黒木くん!?」

 

 気づけば、黒木くんはすでにゲートの直前まで

歩み寄っていた。

 

「・・・・・・・・・俺が行く」

「待て、黒木!」

 

 扇六郎が制止の声を上げる。

 しかし――間に合わなかった。

 

「く、黒木くん!」

 

 黒木くんは一切の躊躇もなく、黒い渦の中へと

身を投じた。

 僕は咄嗟に手を伸ばし、黒木くんの手を掴む。

 

「うわっ!?」

 

 次の瞬間――

 僕の身体まで、ゲートの中へと引き込まれた。

 

「利守!」

 

 扇六郎が叫んだ。

 しかし、二人の姿はすでに黒い渦の向こうへと

消えていた。

 

「チッ・・・・・・甘ちゃんが」

 

 扇六郎は舌打ちし、すぐさま高木たちへと向き

直った。

 

「お前ら、そこから動くな!」

「で、でも・・・・・・・・・黒木と利守が!」

「だからこそだ。お前たちまで巻き込まれたらよ

 誰がこの状況を伝える」

 

 高木たちは息を呑み、黙って頷いた。

 

「いいか――『夜行へ緊急要請を出せ』と墨村に

 伝えろ」

「夜行・・・・・・?緊急要請・・・・・・?」

「そうだ。事態は俺だけで対処できる段階じゃね

 ぇ!ヤツラの力が必要だと!!」

 

 扇六郎は消えかけている次元ゲートを睨みつけ

る。

 

「それと『三人が異世界へ転移した』と伝えろ」

「え?三人・・・・・・?」

「俺も行く」

「「「えっ!?」」」

 

 扇六郎は拳を握り締めた。

 

「このまま放っておけるか」

 

 そして、扇六郎は、黒木たちの後を追うように

ゲートへ向かって飛んでいった。 

 

 

ーto be continuedー

 

 




次回 樹林
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