結界師 〜墨村利守は六面世界で奔走する〜   作:rOOd

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黒狼

     【甲龍暦412年 夕方】 

 

    [中央大陸南部 とある樹海]  

 

 

 

〜ギレーヌ 視点〜

 

「ハァッ! ハァッ! ハァッ!」

 

 い、急げ!!

 

 くそ!このままでは、フィリップ様とヒルダ様

が・・・・・・・・・!!

 ヒルダ様の香水を頼りに着いた場所には、確か

にフィリップ様とヒルダ様の匂いが残っていた。

 だが、それは別に血が混じった男の匂いもたく

さん残っていた。

 おそらく、フィリップ様たちは、傭兵どもに捕

らえられた。

 

 紛争地帯の傭兵どもは、回し者には一切の容赦

がない。

 たとえ、身分を証明するものを持っていたとし

ても、無意味だ。

 

 ヤツらは人を殺すことに慣れすぎている。  

 感覚そのものが、どこかおかしくなっているんだ

 

 そう、疑わしければ殺す。  

 それが、あいつらの信条なんだ。

 

「くそっ・・・・・・!くそ・・・・・・!!」 

 

 なぜだ。なぜ、あのお二人がこんな戦場に・・・

・・・・・・・・・!

 

 ・・・・・・ええい、考えるな!

 今は一刻も早く、二人のもとへ向かうんだ!!

 

 足をもっと動かせ!

 速く・・・・・・・・・もっと速く走れ!!

 

「どうか・・・・・・どうか、ご無事でいてくれ・・・・・・

 !」

 

〜墨村利守 視点〜

 

「てめー、魔法使いだったのか!?」

 

 ゴロツキのカシラは、見たこともない術に驚愕

し、思わず後ずさった。

 

「魔法使いではなく、結界師さ」

「ええい、どっちでもいいわい!あ〜くそっ。

 おい野郎ども、何やってやがる!!早く、小僧

 に攻撃しろ!!!」

「「「「「えっ!?」」」」」

 

 カシラは、僕たちを取り囲んでいる部下たちへ

怒鳴りつける。

 

「この手の魔法はな、持続時間が短いんだよ」

「ほう・・・・・・」

 

 僕は、ただ静かに聞いていた。

 

「それに、あの術をやっている間は他の魔法は使

 えねぇはずだ。

 攻撃し続けりゃ、小僧の魔力はいずれ底を尽く

 そこで仕留めろ!」

 

 カシラは口角を吊り上げる。

 

「やれぇぇぇ!!」

「「「「「「おお~~!!!」」」」」」

 

 号令と同時に、ゴロツキどもが一斉に結界へと

襲いかかった。

 

 ――ガンッ!

 ――ガキィンッ!

 ――ドゴッ!

 

 剣や斧、棍棒が次々と結界へ叩きつけられる。

 

「ひっ・・・・・・!」

 

 フィリップさんが恐怖に耐えきれず、僕の肩を

強く掴んだ。

 

「トシモリくん! このままでは・・・・・・!」

 

 けれど――

 僕には、その声が届いていなかった。

 意識が静かに研ぎ澄まされていく。

 

 周囲の怒号も。  

 武器が結界を叩く音も。  

 フィリップさんの声さえも。

 

 すべてが遠のいていく。

 ただ、目の前の敵だけが見えていた。

 ――カシラ。

 

 僕は静かに縛られた両手の縄を解き、右手の印

を結び、指先をカシラに向けた。

 

「――間流結界術」 

「な、なんだ・・・・・・?」 

「結ッ!!」

 

 瞬間。

 

 ――ゴォンッ!!

 

 カシラの頭部に透明な正六面体の結界が生成さ

れ、頭部を包み込む。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

 カシラの表情が凍りついた。

 

 その瞬間、周囲のゴロツキたちの動きも止まる

 静寂の中、僕は結界越しにカシラの顔を見つめ

た。

 

「あんたの懺悔は聞かない」

「えっ!? ま、待って!!?」

 

 カシラは慌てて手のひらを僕へ向ける。

 

「滅ッ!!」

 

 次の瞬間――

 

 結界が、瞬間的に内側へ収縮した。

 次の瞬間――カシラの首が、そこから消えた。

 

 ――ドサッ!!

 

 そして、カシラの身体は倒れ伏せた。

 

「え? カ、カシラ・・・・・・?」

 

 ゴロツキの兄貴分が、呆然とした声で呼びかけ

る。

 だが、僕はそれを無視し、ゆっくりと周囲を見

渡した。

 そこにいるゴロツキたちは、誰一人として動け

ずにいる。

 僕は再び、右手で印を結んだ。

 

「――結」

 

 次の瞬間。

 

 その場にいたゴロツキ一人ひとりの頭部を、透

明な結界が一斉に包み込んだ。

 

「「「なっ……!?」」」

 

 恐怖に染まった声が重なる。

 僕は、淡々と告げた。

 

「次は、お前たちだ」

 

 ゴロツキたちの顔が、一斉に引きつる。

 

「血で血を洗うお前たちにも――痛みなき死を」

 

 そう告げた瞬間、ゴロツキたちは我に返ったよ

うに結界を叩き始めた。

 

「や、やめろ!!」

「は、はずせ!!」

「ちくしょう、ぶっ壊してやる!!」

 

 だが、結界は揺らぐことすらない。

 僕は、その様子を静かに見つめる。

 そして――

 

「――滅」

 

 結界が、一斉に収縮した。

 その場にいたゴロツキたちは、声を上げる間も

なく首が消え、一人残らず倒れ伏した。

 静寂が戻る。

 僕は右手を下ろし、何事もなかったかのように

周囲を見渡した。

 

「フィリップさん」

「え?な、なんだい?」

「ゴロツキ全員の駆除が終わりました」

 

 僕は淡々と告げた。

 フィリップさんはしばらく呆然としていたが、

やがて小さく頷く。

 

「あ、ありがとう、トシモリくん・・・・・・・・・」

 

 小屋の中に、重い静寂が落ちていた。

 僕は周囲を見渡す。

 ――これで終わった。

 そう思った、そのときだった。

 

「・・・・・・ん?」

 

 小屋の外から、何やら騒がしい声が聞こえてき

た。

 

「・・・・・・何だ?」

 

 僕は耳を澄ませる。

 外の見張りのゴロツキたちが何かを叫んでいる

ようだ。

 どうやら、小屋の外で何かが起きているらしい

 

「・・・・・・確認してみよう・・・・・・『解』」

 

 僕は右手で印を結び、僕たちの周囲に張ってい

た結界を解除する。

 

 ――スッ。

 

 透明な壁が消え去った。

 僕はそのまま小屋の扉へ歩み寄り、ゆっくりと

扉を開ける。

 

 ギィィ・・・・・・。

 

 扉の向こうから、外の空気が流れ込んできた。

 

「・・・・・・・・・え?」

 

 僕は思わず目を見開いた。

  小屋の外の光景は――

数体の遺体と、その傍らに立つ灰色の毛並みを持

つ右眼に眼帯をした女性の獣人だった。

 

「・・・・・・貴様!?」

 

 その獣人は、何の躊躇いもなく、とてつもない

殺気を放つ。

 次の瞬間、彼女は剣を抜き放ち、一気にこちら

へ襲いかかってきた。

 

「なっ・・・・・・!?」

 

 僕は咄嗟に右手で印を結ぶ。

 

「――結」

 

 瞬時に、僕と彼女の間に透明な結界が展開され

た。

 

 ギィンッ!!

 

「――ッ!」

 

 彼女の剣が結界を斬りつける。

 しかし――

 

「・・・・・・効かない?」

 

 結界には傷一つついていない。

 彼女は構わず、二度、三度と斬りつける。

 

 ガギィンッ!  

 

 ガギィンッ!!

 

 凄まじい斬撃が結界を襲う。

 それでも、結界は微動だにしない。

 

「待ってください!」

 

 僕は声を張り上げた。

 

「僕は敵じゃありません! 話を――」

「黙れッ!!」

 

 彼女は聞く耳を持たない。

 再び剣を振り上げ、結界へと叩きつける。

 

「だから、話をしましょう!」

 

 僕は結界を維持したまま、必死に呼びかける。

 

「僕は、ゴロツキたちに連れてこられただけです

 だから、話を――」

「――問答無用ッ!!」

 

 彼女の殺気がさらに膨れ上がる。

 その目には、僕の言葉を聞く余裕など一切なか

った。

 

「・・・・・・困ったな」

 

 僕は小さく息を吐く。

 どうやら今は――話し合いに応じてもらえそう

にない。

 

 凄まじい攻撃を繰り出していた彼女は、僕から

一気に距離を取った。

 その動きに、僕は思わず目を細める。

 

「・・・・・・?」

 

 何かがおかしい。

 これは、ただ距離を取っただけじゃない。

 彼女は剣を構え直し、全身から凄まじいオーラ

と殺気を滲ませている。

 その姿を見た瞬間――僕の中で警鐘が鳴った。

 

「・・・・・・ヤバいな。なんか、とんでもない大技が

 来そうだな」

 

 直感だった。

 

 そして、その予感は的中する。

 

「――光の太刀」

 

 彼女の剣が、眩い光を纏った。

 

「ッ!?」

 

 僕は反射的に身構える。

 

 あれは――まともに受けたらまずい。

 

「・・・・・・仕方ない」

 

 僕は右手で印を結ぶ。

 

「――間流結界術」

 

 一瞬で意識を切り替える。

 

「絶――」

 

 周囲の空間が、静かに歪んだ。

 

「――『絶界』」

 

 僕を中心として、黒い球状の結界を展開される

 

 直後――

 

 彼女が踏み込んだ。

 

「――ッ!!」

 

 眩い光を纏った太刀が、凄まじい勢いで振り下

ろされる。

 

 ――ズドォォォンッ!!

 

 轟音が森を震わせた。

 

 次の瞬間、ギレーヌの身体だけが利守を通り過

ぎていた。

 

 遅れて――

 

 ――キィンッ!!

 

 剣が空気を斬り裂く音が、背後から響く。

 

「なっ!?」

 

 ギレーヌは咄嗟に足を止め、振り返った。

 利守は、無傷だった。

 

「・・・・・・なんだ、あれは!?」

 

 その周囲には、黒い球状の膜が展開されている

 先ほど、自分の剣が触れたのも――あれだ。

 

「・・・・・・私の剣が・・・・・・」

 

 ギレーヌは手元の剣へ視線を落とす。

 剣身が、まるで何かに呑み込まれたかのように

消えている。

「バカな、こんな風になる?」

 

 そんなはずはない。

 私は確かに、ヤツを斬った。 

 

 なのに――斬ったはずの剣が、途中から存在し

なくなっている。

 

「・・・・・・ありえない」

 

 ギレーヌは剣を構え直し、黒い球体を睨みつけ

る。

 

「どんな魔法でも・・・・・・こんな風になるなど、

 ありえない・・・・・・!」

 

 あの黒い膜。

 あれはいったい、何なのだ――。

 

「・・・・・・触れてはいけない」

 

 直感がそう告げている。

 あれは、危険だ。

 あの黒い膜には、決して触れてはいけない。

 

「ギレーヌ、待て!」

 

 僕が、ギレーヌの前へ出る。

 

「彼は敵ではない。僕たちの恩人だ」

「・・・・・・フィリップ様?」

 

 状況をつかめないギレーヌは警戒を解かないま

ま、彼の周囲に展開された黒い球状の膜へ視線を

向ける。

 

「しかし、あの術は――」

「わかっている。だが、彼が僕たちを守ってくれ

 たことは事実だ」

 

 その言葉に、ギレーヌは剣を下ろした。

 

「・・・・・・承知しました」

 

 

 僕は、冷静さを取り戻したギレーヌに再度命令

する。

 

「もう一度言う。彼らに手を出してはいけない。

 いいね?」

「・・・・・・承知しました」

 

 ギレーヌは静かに頷き、その場に跪いた。

 

「トシモリくん。部下が済まなかった」

 

 フィリップさんは、深々と頭を下げる。

 

「いえ。誤解が解けて良かったです」

 

 トシモリくんはそう答えると、彼は周囲を覆っ

ていた黒い球体を解除する。

 

「解」

 

 その言葉とともに、彼を包んでいた黒いオーラ

が消えていく。

 

 トシモリくんは周囲を見回し、状況を確認する

 

「とりあえず、ここを離れましょう」

「えっ?」

「フィリップさん、ここに留まると、傭兵の残党

 が戻ってくるかもしれません。

 それに、一刻も早く紛争地帯から脱出しないと

 命がいくつあっても足りませんよ」

 

 彼の言葉に、僕たちは静かに頷いた。

 

 トシモリくんは小屋の中から自分の荷物を拾い

上げる。

 

 ヒルダは何も言わず、目を閉じたままの彼の友

人へ近づく。

 

「立って」

『はい』

 

 そっと彼の手を掴み、立たせた。

 彼の友人は、相変わらず目を閉じたままだった

が、抵抗することなくヒルダに引かれて歩き出し

た。

 

「さあ、外へ出ましょう」

 

 ヒルダは彼の友人を小屋の外へと誘導していく

 

『黒いくん、目を開けていいよ』

『うん、うわっ。ま、まぶしい〜』

 

 彼は、友人に荷物を頼むと渡した。

 

『黒木くん。悪いけど、リュックを持っていてく

 れる?この先、僕は戦闘で手いっぱいだから』

『え? ああ、わかった』

 

 彼の友人は素直に荷物を受け取る。 

 

 その一方で、ギレーヌは、こう叫んだ。

 

「旅の準備をしてくる!」

 

 そう言うと、ギレーヌは小屋の中を手早く確認

していく。

 水や食料、それに旅に使えそうな道具や武器を

見つけると、次々と小屋の外にあった荷車に乗せ

ていく。

 

 フィリップさんは、その様子を見ながら小さく

息を吐く。

 

「・・・・・・助かるよ、ギレーヌ」

「これくらい、朝飯前だ。それより、一刻も早く

 ここを離れるぞ」

「そうですね、ギレーヌさん」

 

 ギレーヌはトシモリくんをちらりと見てから、

口を開いた。

 

「トシ・・・・・・モリ、と言ったか」

 

「ああ、そういえば自己紹介がまだでしたね。

 改めまして、墨村利守と申します」

「スミ・・・・・・ムラ」

「えーと、言いづらいのでしたら、トショでいい

 ですよ」

「トショ?」

「あだ名です。そちらのほうが言いやすいでしょ

 う?」

「わかった、トショ。・・・・・・一つ、頼みがある」

「何ですか?」 

 

 ギレーヌは一拍置き、真剣な表情で告げた。

 

「ここから先の敵は、全てトショ一人で戦ってほ

 しいのだ」

「え? 僕一人で?」

「ああ」

 

 ギレーヌは深々と頭を下げる。

 そして頭を上げると、トシモリくんをまっすぐ

に見据えた。

 

「今の私は、フィリップ様やヒルダ様の護衛に集 

 中したい」

 

 ギレーヌは僕たちに視線を向けた。

 

「もしも私が戦えば、二人を危険に巻き込む可能

 性がある。

 だが、お前の魔法ならば・・・・・・多勢を蹴散らす

 ことができるはずだ」

 「その方がいいですね」

 

 その言葉に、トシモリくんは少しだけ考えるよ

うに顎へ手を当てた。

 すると、ギレーヌはトシモリくんへ鋭い視線を

向ける。

 

「それに貴様の魔法は、正直言って恐ろしい」

 

 ギレーヌの表情が、畏怖を滲ませたものへと変

わった。

 

「トショが先ほど戦いで使った黒い膜の球体」

 

 ギレーヌは使い物にならない剣を見せた。

 

「そして、フィリップ様から聞いた傭兵たちの殲

 滅の状況・・・・・・」

 

 小屋の中にいた傭兵たちの亡骸には、すべて首

がない。

 その首が、その場に転がっているわけでもない。

 本当に、消えてしまっているのだから。

 

「魔大陸出身の私ですら、あのような魔法は見た

 こと も聞いたこともない」

「まあ・・・・・・そうでしょうね」

 

 ギレーヌは小屋の中へ視線を向ける。

 

「だが、それ以上に驚いたのは、その精度だ」

 

 その声には、先ほどまでの警戒とは違う、確か

な評価が込められていた。

 

「貴様の魔法は広範囲を一瞬で制圧しつつ、標的

 だけを正確に仕留める。

 あの小屋の中に残された亡骸を見れば、それは

 明らかだ」

 

 流石、ギレーヌ。 

 失礼だけど、戦闘以外は人並み以下だが、戦場

で彼女の才能は最大に活かすな。

 

「だからこそ、お前に任せたい」

 

 ギレーヌはそう言って、再びトシモリくんに頭

を下げた。

 

「わかりました。僕ができるだけ多くの敵を仕留

 めます」

 

 頭を上げたギレーヌさんは、優しい笑みで浮か

べた。

 

「ありがとう」

 

 ギレーヌは僕とヒルダも荷車に乗ると、荷車を

引きながら歩き出した。

 トシモリ、いや、トショくんは周囲を確認する

 

「準備はできましたか?」

「ああ」

「では、行きましょう」

 

 僕たちは互いに頷き合い、小屋を後にする。

 こうして僕たちは、一刻も早く紛争地帯から脱

出するため、歩き始めた。

 

ーto be continuedー

 

 

 

 

 




次回 帰郷
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