モルタデロとフィレモン よう実スパイ大作戦   作:蒼牙王

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長谷部波留加よ。Dクラスの調査をしていたけど、まさかバレるなんてね……。こうなったら逃げ切れるしか方法はないみたいね。
さあ、今日も物語が始まるわ! 皆、準備は良いかしら?

OP:モルタデロとフィレモンのテーマ


第10話 Dクラスから逃げ切れ!

 Sクラスのメンバー全員は麻耶とDクラスの男子(綾小路、平田、高円寺以外)に追いかけられていた。まさか彼女によってバレてしまうのは予想外であり、こうなるとSクラスに戻って逃げ切るしか方法はない。

 

「まさかバレるとは思わなかったな。モルタデロ、対策はあるのか?」

「ご心配なく。我々が通過したと同時にトラップが設置されるシステムを起動させました。逃げ切るだけでなく、Sクラスに入る事ができる特別試験もこのまま行います」

「まさか新メンバーを増やすつもりなのか!?」

 

 佐枝の質問に対し、モルタデロは平然と説明。その内容にフィレモンたちが驚くのも無理はない。

 

「そうです。後何人かぐらいは欲しいと思いましたので。因みにこの試験の合格者は一人のみとなりますが」

「うわっ、厳しすぎるじゃん……」

 

 モルタデロの説明に恵が苦笑いしたその時、彼らの通り過ぎた場所に自動的でトラップが設置される。この場所を越えない限り、追いつく事は不可能だ。

 

「うわっ、トラップが設置されるとはね。けど、恵に真相を吐かせる為にも、負けられない!」

 

 麻耶は驚異的な運動神経を発揮し、床から突如として飛び出すバネ仕掛けの巨大クッションや、足元で勢いよく膨らむタコ型風船トラップを、まるで障害物競走のように軽快な身のこなしですり抜けていく。素人とは思えないその俊敏さに、逃げるSクラスの面々も思わず目を丸くした。

 

「なっ、あいつ……ただの女子生徒の割に、めちゃくちゃ運動神経よくない!?」

「待ちなさいよ恵――!」

 

 恵が冷や汗を流しながら振り返ると、麻耶は執念の形相でさらにスピードを上げる。こうなると追いつくのも時間の問題だ。

 だが、その麻耶のすぐ後ろを必死に追いかけていた須藤や池たちDクラスの男子グループは、そう上手くいかなかった。

 

「うわっ、なんだこれ――っ!?」

「足元が勝手に動くぞ――ぎゃああっ!?」

 

 モルタデロが設置した最新型トラップ(床一面に塗られた超強力なスーパー滑り止め&ジェット噴射ワックス)に足をとられた須藤たちは、盛大にすっ転んでしまう。挙句、天井から降ってきた爆弾に直撃してしまい、爆発に巻き込まれて倒れてしまった。しかも黒焦げアフロで。

 

「す、凄まじい巻き込み率ね……! 男子たちの自業自得感が凄いけど」

「なんで追っ手のほうが次々と自滅していくんだよ!! しかもあの佐藤とかいう女子高生、一人だけ完全に罠を攻略してやがるぞ!!」

 

 帆波が青ざめながら呟くと、フィレモンは頭を抱えて絶叫する。彼の言う通り、麻耶は男子たちの悲鳴を一切気に留めず、ひたすら恵を問い詰める執念だけで猛追を続けていた。

 

「あの驚異的な回避能力、そして我が要塞の鉄壁の防衛網を自力で突破してくるそのガッツ……! まさに、Sクラスの新メンバーにふさわしい猛者(もさ)ではありませんか!」

「ちょっとモルタデロさん、勝手に新メンバーの選考会にしないで!」

 

 モルタデロがチーターに変装したまま振り返り、麻耶の実力を大絶賛する。鈴音が鋭いジト目を向けるが、彼は聞く耳を持たず、エントランスの巨大自動ドアへと急接近する。

 

「さあ、要塞のメインゲートまであと少しです! 佐藤君がこのまま見事に追いつき、最後の難関を突破できれば――晴れて我がT.I.A.特別Sクラスへの合格となりますよ!」

「誰が合格するかってのよ!」

 

 恵が叫ぶ中、要塞の重厚な自動ドアが勢いよく開き、Sクラスのメンバーが次々と飛び込んでいく。それを見た麻耶は真剣な表情をしながら、必ず追いつこうとスピードを上げ始めた。

 

「そーれ!」

 

 麻耶はそのまま勢いよく跳躍し、宙回転しながら扉の中へと入っていく。ようやく恵に追いついたが、その前にモルタデロが彼女に近づいてきた。

 

「おめでとうございます! 佐藤麻耶さん。あなたは今日から晴れてSクラス入りです!」

「Sクラス!? 私が!?」

 

 突然の展開に麻耶が驚いたその時、恵が苦笑いしながら事情を説明する。バレてしまった以上、報告するしか方法はない。

 

「じ、実は……」

 

 恵は観念したと同時に、これまで起きた事を麻耶に説明し始める。この様子を見た桔梗たちは苦笑いしていて、鈴音はため息をつくしかなかった。

 

 ※

 

「なるほど……モルタデロさんという人にスカウトされて今に至る……苦労していたのね……」

「まあね……」

 

 恵から説明を聞いた麻耶は、納得しながら頷いていた。まさか彼女がスカウトされているとは予想外だが、今の話を聞いた以上、疑う事は無くなっていた。今の話が事実なら、放って置く事は出来ないだろう。

 

「仕方がないわ。私もSクラスに入る。恵が頑張っていると聞いた時点で、放って置く理由にはいかないからね」

 

 麻耶が力強くそう宣言した瞬間、モルタデロの背後からパーンと華麗にクラッカーが鳴り響いた。これでようやく仲間が増えた事に喜んでいるのも無理はない。

 

「ブラボー! 素晴らしい決断です、佐藤君! 我がT.I.A.特別Sクラスへようこそ!」

「って、いつの間にクラッカーを用意してたのよ!」

 

 恵が盛大にツッコミを入れる横で、麻耶はふっと笑いながら自分の制服の裾を整えた。

 

「だって、恵がこんな怪しげで……でも、すごく生き生きした顔で毎日過ごしてるなんて知ったら、親友として確かめに来るでしょ。それに、この要塞の設備、外から見た以上にすごそうだしね」

 

 その麻耶の肝の据わった様子に、帆波やひよりたちも温かい拍手を送る。彼女の意志は本物であり、仲間が増えた事に喜んでいるのだ。

 

「すごいよ! 麻耶さん、あんな激しいトラップを全部自力で突破してきたからね。即戦力間違いなしだよ!」

「ふふっ、賑やかな仲間が増えて嬉しいですね」

「よろしくね、麻耶ちゃん!」

「一緒にこの要塞を満喫しようよ!」

 

 帆波、ひより、美雨、桔梗が次々と麻耶の周りに集まり、笑顔で迎え入れる。先ほどまで追いかけっこを繰り広げていたとは思えないほどの和やかな雰囲気に、麻耶も少し照れくさそうに頬を緩めた。

 しかし、その横でフィレモンだけは頭を抱えて崩れ落ちていた。

 

「おいおい……ちょっと待て! 勝手に一般の女子生徒をテスト合格にして、そのままスパイ組織の一員にしちまっていいのかよ!? 学校側や他のクラスにバレたら大問題だぞ!」

「ご心配なくボス。麻耶君の優れた運動神経と精神力は、すでに我がT.I.A.の極秘レーダーにキャッチされていたのです。それに、この要塞のセキュリティを通った時点で、彼女も立派な我がクラスの一員です」

 

 モルタデロが涼しい顔で言い放つと、鈴音は小さくため息をつきながらも、どこか呆れたような、しかし納得したような笑みを浮かべた。やり方はどうかと思うが、仲間が増えたのは良い事だ。

 

「やれやれ……。あなたに巻き込まれたら、どんな常識も通用しなくなるわね。……まあいいわ。佐藤さん、歓迎するわよ。これからよろしくね」

「あ、鈴音……! こちらこそよろしく!」

「これでまた賑やかになるね」

「よろしくね、麻耶ちゃん」

 

 波瑠加や愛里も声をかけ、佐枝は腕を組みながらやれやれといった風に呟く。

 

「……まったく、私の元クラスの生徒が次々とここに引き抜かれていく。だが、ここまで来たらもうどうにでもしてくれという気分だな」

 

 こうして、Dクラスからの追跡劇から始まった波乱の特別試験は、佐藤麻耶のSクラス加入という予想外の結末を迎えたのだった。

 

 ※

 

 それから翌日。Dクラスでは須藤たちが再びやる気を出し、懸命に朝からランニングを行っていた。この様子を見た飛山はポカンとした後、隣にいる平田に声を掛ける。

 

「彼らは一体何があった?」

 

 飛山は教師としての威厳も忘れてポカンと口を開けたまま、血走った目でグラウンドを爆走していく須藤たちの背中を見つめた。昨日まで中間テストの絶望で完全に腐っていたはずの男子たちが、まるで別の生き物のように猛烈な気合を入れ直して走っている。

 隣に立つ平田は、そんな彼らの青春めいた暑苦しい姿を眺めながら、どこか苦笑いを浮かべて答えた。

 

「昨日の放課後のことなんですけどね……佐藤さんが軽井沢さんたちを追いかけて、あの『Sクラスの要塞』まで走り込んでしまったんです。その結果、彼女もあそこの新メンバーとしてスカウトされてしまって……」

「はぁっ!? 佐藤がSクラスに……って、またうちのクラスの女子があの謎の要塞に引き抜かれたのか!?」

 

 飛山が頭を抱えて盛大に絶叫する。新担任として赴任して早々、優秀な生徒たちが次々と怪しげなスパイ組織(?)に寝返っていく現状に、教師としての胃が限界突破でマッハを刻んでいた。

 ちょうどその時、ものすごい形相で走りながら通り過ぎた須藤が、拳を突き上げて絶叫する。

 

「ふざけんなよぉ――! 俺たちがうだうだ落ち込んでる間に、謎の超ハイテク要塞で青春を謳歌してやがるなんて……男として絶対に許せねぇ――っ!! 次のテストでは絶対に見返してやるんだからな――っ!!」

「そうだ! 俺たちだって負けてられねぇんだよ――っ!!」

「負けてたまるかー!!」

「「「うおおおおおおおお!!」」」

 

 池や山内もそれに続いて泥臭く声を張り上げ、ものすごい勢いでグラウンドの周回を重ねていく。どうやら昨日のドタバタ劇と、麻耶が自力で要塞の防衛網を突破してSクラス入りを果たしたという衝撃が、彼らのプライドと闘争心に火をつけたらしい。

 

「なるほどね……。女子たちに置いていかれたショックと、ハンパない嫉妬がいい起爆剤になったってわけか」

 

 飛山がやれやれといった風にため息をつくと、平田は爽やかに微笑みながらうなずいた。

 

「はい。形はどうあれ、クラス全体が前向きになったのは良いことだと思いますよ。……まあ、あそこにうかつに近づくと、またモルタデロさんたちの変なトラップに引っかかりそうですけどね」

「だな……」

 

 飛山が苦笑いをしながら天を仰ぐ中、今日もDクラスの男子たちは、よく分からない方向へと全力で走り続けていくのだった。




ED:Rock'n Rouge(一之瀬バージョン) 

佐藤麻耶が仲間に!須藤たちもやる気を上げました。

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