さあ、お話の始まりよ!
OP:モルタデロとフィレモンのテーマ
麻耶がSクラスに入ってから数日後。要塞の広大なロッカールームにて、新メンバーである彼女が自慢げに胸を張りながら、特製のスパイ衣装を皆の前に披露した。
「じゃーん! 似合ってるかしら?」
麻耶がくるりと一回転してみせる。その身に纏っているのは、身体のラインにぴったりとフィットしたスタイリッシュなチューブトップと、クールな色合いのインディゴデニムジーンズ。さらに、両膝や太もも部分には絶妙なバランスでダメージ加工が施されており、動きやすさとファッション性を両立させた抜群の仕上がりになっていた。
「おお。とても似合うじゃん!」
恵は麻耶の姿に感心し、ニッコリと微笑んでいる。鈴音や波瑠加、愛里たちも彼女の姿をしげしげと眺めていた。
「うん、なかなか様になってるわね」
「カッコいい!」
「すごく似合ってます! スパイの任務にもぴったりですね」
「ふふ、ありがとう! 動きやすいし、なんだか本当に秘密組織の一員って感じでテンション上がるなぁ」
皆から絶賛された麻耶が嬉しそうにはにかんだその時、要塞のメインリビングルームに設置された巨大モニターが突如としてけたたましい警告音を鳴り響かせた。
「――緊急警報。Dクラスエリアにおいて、重大なセキュリティアラートを受信。繰り返します、Dクラスの須藤健による『暴力事件』の発生を確認」
「暴力事件……? 須藤くんが?」
モニターの電子音声に、リビングの空気が一瞬で凍りついた。
麻耶が目を見開くと、鈴音は鋭い視線をモニターに向ける。そこには、特別棟の裏手でCクラスの生徒たちともみ合いになり、激高して掴みかかっている須藤の姿が映し出されていた。
「あっ、本当だ……! なんかCクラスの奴らにからかわれて、キレちゃって暴力を振るったって騒ぎになってるよ!」
映像の音声が鮮明に拾い上げられる中、Cクラスの石崎たちが痛みを大げさにアピールしながら、周囲に大声で言いふらしている様子がハッキリと確認できた。
「ふむ……これは明らかな罠の臭いがプンプンしますね。あんなあからさまな被害者アピール、三流のスパイ映画でも使わないベタな手口です」
「間違いねぇな。あいつらのことだ、どうせポイントを削るか退学に追い込むためのハメ技ってところだろ」
モルタデロが顎に手を当てながら冷静に分析し、フィレモンも腕を組んで険しい表情を浮かべる。誰もがどう考えても下手な手口であり、バレるのも時間の問題だ。
かつての仲間である須藤のピンチに、恵や麻耶たちも表情を曇らせる。
「このままじゃ、須藤くんが本当に処分されちゃうよ……! どうしよう、鈴音!」
「……ええ。放置するわけにはいかないわね」
鈴音は冷徹な光を宿した瞳でモニターを見据え、スパイ衣装のジーンズのポケットに手を突っ込んだ。
「Dクラスのバカな男子とはいえ、このまま嵌められたままで終わるのは面白くないわ。それに、本当に須藤が一方的に悪かったのか、真実がどこにあるのかをハッキリさせないとね」
「ですね! では、さっそく我がT.I.A.特別Sクラスの総力を挙げて、今回の暴力事件の真相究明および証拠集めの極秘調査を開始します!」
「おい、勝手に仕切るな!」
モルタデロの高らかな宣言とフィレモンのツッコミを合図に、新体制となったSクラスの面々は事件の真相を暴くため、一斉に出動準備へと取りかかった。
※
スパイ衣装に着替えた鈴音たちは、事件の起きた場所に移動。そこで須藤が暴力事件を起こしていたが、石崎はアピールしていただけで細工をしたに違いない。因みに佐枝もスパイ衣装を着ながら同行している。
「恐らく証拠がある筈だ。徹底的に洗い出すぞ」
佐枝の鋭い号令の下、スパイ衣装に身を包んだSクラスの面々は、事件現場となった特別棟の裏手へと静かに散らばった。
チューブトップとダメージデニムに身を包んだ麻耶は、軽快なフットワークで草むらや壁の隙間を覗き込みながら、相棒の恵と共に周囲を警戒する。
「あんなあからさまに大声でアピールしてたら、逆に裏があるってバレバレだし」
「うん、それに石崎くんたちの演技、ちょっとオーバーすぎたもんね。絶対になんか証拠が隠してあるはず!」
恵が周囲を探ると、茂みの陰から怪しげな光を放つ小さな物体を見つけた。
「あっ、これって……!」
恵が拾い上げたのは、小型のボイスレコーダー、そしてCクラスの生徒が落としたと思われるメモ書きだった。そこには『ここで叫んで被害者をアピールする』『須藤をキレさせるためのセリフ一覧』といった、計画的なハメ技の全貌が赤裸々に記されていた。
「見事ですね、恵さん! まさに決定的な証拠(スモーク・ガンならぬスモーク・シークレット)の確保です!」
「お前その格好で忍び足すな、逆に目立つだろ!」
モルタデロが犬の姿のまま忍者のようなすり足で近づいてきて親指を立てると、フィレモンがすかさずツッコミを入れる。その様子を見た佐枝は、相変わらずふっと不敵な笑みを浮かべた。
「……まったく、Cクラスの連中も浅はかな真似をしたものだな。これだけの証拠が揃えば、学校側への抗議も覆しようがない」
「ええ。須藤の短気な性格につけ込んだ悪質な罠……これで彼を救い出す材料は十分に揃ったわね」
「これで一安心だね」
「須藤くん、きっとびっくりするだろうな」
鈴音が証拠のメモとレコーダーを恵から受け取り、冷徹ながらも確信に満ちた瞳を光らせる。波瑠加たちも安堵の表情を浮かべ、本格的な作戦に取り掛かろうとしているのだ。
「さあ、証拠集めは完了です! 我がT.I.A.特別Sクラスの威信にかけて、Cクラスの陰謀を木端微塵に粉砕しに行きますよ――!」
モルタデロの高らかな宣言を合図に、事件の真相を握ったSクラスの面々は、須藤の無実を証明するための次の作戦へと動き出す。すると、そこに須藤が姿を現し、彼らを見つけていた。
「あっ、堀北じゃないか! こんなところで何しているんだ?」
「あなたの無実の証拠を集めたのよ。今からCクラスの陰謀を終わらせようと動かすところ」
「因みにCクラスの該当者には、厳しい仕置きを用意しますので」
「そこまでやるのか!?」
モルタデロの発言を聞いた須藤は驚いてしまう。無実を証明してくれるのはありがたいが、真犯人をここまで痛めつけるのはやり過ぎである。
「そうだね。私もあの犯人たちにはお灸を据えないと」
「一之瀬も参加するのか!?」
普段は穏やかな一之瀬帆波が爽やかな笑顔を浮かべたままで恐ろしい一言を放ったため、須藤は思わず仰け反って後ずさった。
「い、いや、証拠を出してくれるだけで十分ありがたいって! さすがにやり過ぎたら俺たちまで処分されちまうかもしれないだろ……!」
「ふっ、甘いですね須藤君。我がT.I.A.特別Sクラスにおいて、慈悲とは敵の不意をつくためのフェイクに過ぎません!」
「どの口が言ってやがるんだこの変態は!」
モルタデロがなぜか刑事ドラマのベテラン風なトレンチコートとサングラスを装着しながら胸を張ると、フィレモンがすかさず強烈なツッコミを浴びせる。
「まあ、モルタデロの過激なやり方はともかくとして……」
鈴音は冷徹に光る証拠のボイスレコーダーを指先でクルクルと回しながら、やれやれといった風にため息をついた。
「須藤君、あなたももう少し自分の短気を直したらどうなの。あんな見え透いた挑発に簡単に乗るから、こういう罠にハメられるのよ」
「ぐっ……! それは、その……悪かったよ。けど、あいつらが鈴音の悪口を言いやがったから、つい頭に血が上っちまって……」
「あら、意外と鈴音ちゃん想いなんだ?」
「青春だねぇ」
須藤がバツが悪そうにボリボリと頭をかきむしると、そばにいた麻耶や恵たちがとニヤニヤしながら冷かす。新たな恋の展開に興味があるだろう。
「ば、馬鹿なこと言ってないで、行くわよ!」
「ですね! では、証拠品も揃いましたし、Cクラスの連中が待ち構える特別棟へ突撃です!」
「……教師として、生徒のトラブルを放置するわけにはいかないからな。私も同行して、学校側に正式な抗議とCクラスの不正を突きつけてやろう」
鈴音は少しだけ頬を赤らめつつ、素早くそっぽを向いた。それにモルタデロが号令をかけると、佐枝も同行する事を決意して一歩前に出た。
こうして、無実の罪を着せられた須藤を救い出し、Cクラスの狡猾な陰謀を木端微塵に粉砕するため、Sクラスの面々は一丸となって敵陣へと踏み込んでいくのだった。
ED:Rock'n Rouge(一之瀬バージョン)
Cクラスの陰謀破壊へ。果たして?
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