さあ、今回から新たな試験。皆、準備は良いかしら?
OP:モルタデロとフィレモンのテーマ
一足先に学校のクルーザーの元に移動し、そのままSクラス専用のルームへと直行したモルタデロたち。無事逃げ切れた事に安堵するが、これでは終わらないのがSクラスの任務だ。
「無事に任務を果たしたが、まさか須藤たちがブチ切れてしまうとは驚いたな。今回の件は流石にやり過ぎたな……」
「あれだけ罠を仕掛ければ、そうなりますからね……にしても、Dクラスの皆はあれだけ怪我しているにも関わらず動くとは……」
佐枝のため息に美雨たちも苦笑いしてしまう。罠を多く仕掛けたり、ジャージズボンとスポブラでの大ダメージ、更にはモルタデロのイタズラも出ていた。この場合はやり過ぎだとと言えるが。
「まあ、Dクラスは大丈夫だな。では、次の任務だ。次も監視任務だが、混合合宿の干支試験となる」
「何でしょうか、それは?」
佐枝からの次の任務に、モルタデロは疑問に感じる。この様な試験は初耳だ。
「干支試験――正式名称『船上特別試験(ゾディアック・グループ試験)』だ」
佐枝は腕を組み、冷ややかな視線を生徒たちに向けながら説明を続ける。誰もが皆、真剣に話を聞いているのは明らかだ。
「次の舞台は、この豪華客船そのものだ。全学年の生徒を十二支――つまり『子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥』の十二のグループに強制的に振り分ける。それぞれのグループには学年やクラスを問わずバラバラの人間が混ざり合い、共同生活を送ることになる。今回は一年のみだ」
「なっ……! クラスの垣根を越えて、完全にシャッフルされるっていうの……?」
恵がスポブラの裾をパタパタさせながら、信じられないといった表情で声を上げる。他のメンバーも、予想外のシステムの複雑さに顔を引き締めた。
「そういうことだ。しかも、この試験の最も厄介な点は――各グループの中に『標的(ターゲット)』が隠されていることだな。誰がどのグループのターゲットなのかを見つけ出すか、あるいは隠し通すかが鍵となる」
「ほうほう……! 他クラスの人間と強制的に一つ屋根の下で共同生活を送りつつ、スパイ活動の如く正体を暴き合うというわけですな! これはまた、潜入捜査官の血が騒ぎますな!」
モルタデロが目を輝かせ、なぜか背筋を伸ばして敬礼のポーズをとる。その姿に鈴音は深い溜息をついて頭を抱えるのも無理ない。
「ちょっとモルタデロ、あなたねぇ……。さっきの無人島で散々引っかき回したのに、まだ懲りてないわけ? 今度の試験は個人戦やグループの協調性が試される繊細なものよ。あなたのその変な奇行を持ち込まれたら、こっちまで連帯責任で干されかねないんだけど!」
「ふふ、鈴音ちゃん、そんなに怒らなくてもいいじゃない。モルタデロさんなりの気合の入れ方なんだからさ」
桔梗がいつもの爽やかな笑顔で鈴音を宥めるが、その瞳の奥には冷ややかな光が宿っている。恐らく何か考えがあるのだろう。
「それにしても、干支グループか……。私は何組になるのかしらね」
「うふふ、面白そうね! 異なるクラスの友人やライバルと、どんな化学反応が起きるのか今からワクワクしちゃうな。ミステリーの登場人物が一堂に会する密室劇みたいだわ」
「ひよりちゃん、それもう事件が起きるフラグでしかないからね……?」
「確かにそうね。これは油断ならないかも」
波瑠加が腕組みをしながら呟くと、ひよりはパチパチと手を叩いて楽しそうに微笑む。帆波が苦笑いを浮かべつつツッコミを入れ、比瑪も次の試験への警戒心を強めていた。
「で、俺たちSクラスの役割は何なんだ?」
フィレモンが静かに問いかけると、佐枝はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ふっ、Sクラスの役割は引き続き『特異な監視者』および『試験の攪乱役』だ。お前たちには、それぞれの干支グループに潜り込み、全体の動向を監視してもらう。――ただし、今度はモルタデロ、お前の過剰なイタズラには一定の制限をかける。これ以上学校側に目を付けられたら、私の給料に関わるからな」
「なんと! 一流のスパイに手足を縛れと……! しかし、ルール無用のドッキリがダメな時の為に、私がこの試験の問題を用意しました」
「お前の事だからスパイ問題の事だな。どれどれ?」
佐枝はモルタデロが考えた問題を見て、納得の表情をする。その表情は興味深く、これはありだと思えるだろう。
「良い問題ばかりだ。よし、問題はこれで行こう。なお、ここからはそれぞれの私服であるスパイ衣装に着替える様に」
佐枝から「合格」の太鼓判を押されたモルタデロは、鼻を誇らしげに高くして胸を張る。自分の考えた問題が認められた事に嬉しさを感じているだろう。
「ふふん、一流スパイの思考回路を甘く見てもらっては困ります。この問題があれば、船上のエリートどもを完璧に翻弄できるはずですから!」
「やれやれ……。変にやる気を出されるとこっちがハラハラするんだけど」
鈴音はやれやれと頭を抱えつつも、指示に従って指定された更衣室へと足を向ける。今回の試験で着用が義務付けられているのは、各々が普段から着用している「スパイ衣装」だ。スポブラジャージズボンは運動用にしか使わないので、恥をかく事はないだろう。
※
数分後、鈴音、桔梗、帆波、美雨、恵、麻耶、ひより、愛里、波留加の九人がスパイ衣装に身を包んだ。因みに全員ズボンスタイルとなっているので、動きやすさが特徴だ。
因みにモルタデロ、フィレモン、佐枝、比瑪は無人島と同じスタイルとなっている。まあ、これらが彼らの普段の服であるが。
「にしても、美雨はオーバーオールがお気に入りみたいね。てっきりクロップドパンツかと思ったけど……」
「道具が色々詰め込み安いので」
比瑪は笑顔で美雨に声をかけ、彼女も同じ表情で返している。
美雨のオーバーオールの胸ポケットは四次元機能がある為、様々な道具を取り出すことが出来る。まるで某アニメのロボットにそっくりであるが。
他の皆も久々のスパイ衣装に袖を通し、笑顔を見せながら感触を実感する。
「まあ、衣装については大丈夫そうだな。だが、モルタデロ。この問題で生徒たちから怒りの声が上がりそうだぞ。無人島と同じ展開になるんじゃないか?」
「ご心配なく、ボス。こんな事もあろうかと対策を練っていますので」
フィレモンの質問に対し、モルタデロが余裕の笑みで答える。恐らく追いかけ防止用の罠が仕掛けてある可能性が高いだろう。
「万が一、前回の無人島のように若者たちが怒りに任せて追いかけてきた場合の『非常用テレポート装置』や、追跡者を一時的に足止めする『特製バナナピール地雷』など、船の廊下をアトラクション会場に変える準備は万全です!」
「それ、完全に試験の妨害行為かテロの準備でしょ……! 絶対に学校側にバレないようにしてよね!」
鈴音の鋭いツッコミが飛ぶ中、船内の一斉アナウンスがピロリロリーンと心地よい電子音を鳴らして響き渡る。
『――生徒の皆さんに告げます。これより「船上特別試験」の各グループへの集合および移動を開始します。指定されたエリアへ速やかに移動してください』
アナウンスの響きと共に、豪華客船の広大なロビーや通路がざわめき始める。他クラスの生徒たちが、緊張と戸惑いの入り混じった表情で自身の割り振られたグループの部屋へと歩き出していくのだ。
「おっ、いよいよ時間のようですね。では、各スパイ班の皆さん、それぞれの潜入先へと散りましょう!」
「「「了解!」」」
モルタデロの号令を皮切りに、Sクラスの面々はそれぞれの干支グループへと動き出す。
果たして、シャッフルされた船内の人間関係の中で、モルタデロの作った「特製スパイ問題」と彼らの監視任務はどのような波乱を巻き起こすのか――。
豪華客船の重厚な扉の向こうで、新たな頭脳戦とドタバタ劇の幕が静かに、そして盛大に上がろうとしていた。
ED:Rock'n Rouge(一之瀬バージョン)
船上試験はどうなるのか。嫌な予感しかしませんが。
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