では、これより物語の始まりだ。スタート!
OP:モルタデロとフィレモンのテーマ
豪華客船の各所に設けられたグループルームでは、今まさに阿鼻叫喚の渦が巻き起こっていた。
各干支グループに強制的に配布された『特別追加問題用紙』。そこに記されていたのは、学校側が用意した本来の試験問題に混じり込む形で、モルタデロが勝手にねじ込んだ奇抜すぎる難問・奇問の数々だった。
「なんだこれ……!? 『敵の裏をかくため、今すぐ全力で変顔をしながら「私はスパイではない!」と3回叫べ。正解者にはボーナスポイント』って……ふざけてるのか!?」
とあるグループの部屋で、男子生徒が信じられないものを見る目で紙面を睨みつけ、頭を抱えて絶叫する。
さらに、その隣のページをめくった別の生徒が、青ざめた顔で震え声を漏らした。
「こっちはもっとヤバいぞ……。『一流のスパイになるため、部屋にある一番地味な物を頭に載せて10分間直立不動で過ごせ。ただし、モルタデロ監督官に見つかった場合はツッコミを入れなければならない』……って、これ何の罰ゲームだよ!」
真面目な顔をして思考を巡らせていたエリートたちも、この予測不能なお馬鹿問題の連発に完全にペースを乱されていた。スパイに関する本格的な暗号解読問題が混じっているかと思いきや、急に「バナナの皮の正しい滑り方を図解せよ」といったシュールな設問が挟まるため、脳の処理が追いつかないのだ。
※
そんな混乱の様子を、別室のモニターや廊下の物陰からニヤニヤと眺めている人物がいた。もちろん、モルタデロその人である。
「ふふふ、素晴らしい反応ですぞ! 知識だけでなく、柔軟なユーモアとシュールな状況対応力こそが、真のスパイに求められる資質なのですからな!」
「……あのねぇ、あんなアホみたいな問題を全グループにばら撒いて、本当に後で怒られないわけ? 特にAクラスの連中とか、真面目すぎてブチ切れてる子もいるんだけど」
恵が呆れ果てた表情でモルタデロを横目で見るが、モルタデロは意に介さずに様子見している。自身がピンチになっても問題ないと感じているのだろう。
美雨たちも唖然とした表情で、モニターを見つめている。
「大丈夫です、恵さん! 苦難の先にある笑いこそが、青春のスパイスというものです!」
「絶対に後で面倒なことになるパターンだわ……」
頭を押さえて天を仰ぐ鈴音の横で、ひよりは本を読みながら楽しそうにクスクスと笑っていた。こんな状況でも慣れているのが一番怖い。
「うふふ、面白いわね。これ、よく見ると心理戦と大喜利が混ざった高度な心理テストみたいになってるわ。みんながどんな答えを書くのか、回収するのが今から楽しみだなぁ」
「ひよりちゃん、あなたもそっち側に染まりつつあるから気をつけた方がいいよ……」
帆波が苦笑いを浮かべながらひよりにツッコミを入れる中、船内のあちこちで生徒たちの頭を悩ませる奇妙な試験は、さらにカオスな方向へと加速していく事に。これでは全員最悪の結果になってしまうが、数名だけは違っていた事をこの時は誰もが知らなかった。
※
まず動いたのは、とあるグループの端で優雅に髪をかき上げていた高円寺。彼は余裕の表情で問題を見つめていた。
「ふっ、面白い。他愛のない子供の戯言かと思いきや、自己の解放を促す素晴らしい芸術的課題じゃないか」
高円寺は「敵の裏をかくため、全力で変顔をしながら……」の設問に対し、周囲が驚愕するほどの完璧かつ一瞬で終わる完璧な(しかし誰もが納得せざるを得ない)変顔を披露。さらに「一番地味な物を頭に載せて直立不動」という課題では、自分の消しゴムを誇らしげに頭頂部に乗せ、堂々たるポーズで10秒でクリアしてしまった。あまりの堂々たる振る舞いに、監督官すらツッコミを入れる隙がなかったのだ。
※
一方、別のグループでは、平田が真摯な表情でペンを走らせていた。
「バナナの皮の正しい滑り方……? いや、これは単なるギャグじゃなくて、物理的な摩擦係数と重心の移動をユーモアに交えて図解しろっていう意図なのかな……?」
平田はモルタデロの突飛な出題の裏にある意図を誠実に汲み取り、あえて真面目に、かつ綺麗で完璧なイラスト付きで回答を作成していく。そのあまりの真面目さと的確さに、採点基準すらねじ伏せるほどの説得力を持たせていた。
※
さらに、静まり返った一角では、綾小路清隆が淡々と無表情で問題用紙を眺めていた。
(……この一連の問題は、常識的な思考を一度リセットさせることが目的だ。スパイとしての偽装工作、心理的な撹乱、そして突発的な状況への適応力……すべてモルタデロという男の奇行に見せかけた、高度な心理誘導テストだな)
綾小路は思考の迷うことなく、お馬鹿問題のテンプレートを瞬時に看破。求められている「模範解答(あるいは最もシュールで面白い回答)」を冷静に書き上げ、周囲の生徒が頭を抱えている間に、あっさりと全ての設問を埋め終えていた。
※
そして、最も苦しみながらもプライドでねじ伏せたのが、葛城だった。
「くっ……! この下らない問いの数々、一体何の意味が……いや、待て。よく読めば、これらは極限状態における柔軟な精神力を試すものか……!」
葛城は額に青筋を立て、真面目すぎるがゆえに真剣に悩みつつも、その卓越した知性と分析力で次々と奇問を論理的に紐解いていく。最終的には「一流のスパイたるもの、いかなる状況でも動じてはならない」という結論に達し、見事に全ての難問を突破してみせたのだ。
※
そして試験が終了し、クラス順位はDクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラスという順番に。因みにCクラスは無人島試験で全員リタイアしていて動けないので、不参加で最下位に。当然Dクラスに陥落してしまい、綾小路たちがCクラスに繰り上げの結果に。
「やはりこうなったか。無理もないよね」
モニターに映されている順位表を見ていた波留加は苦笑い。Cクラスの不幸は無人島試験だけでは終わらないと感じていたのだろう。
「無人島に続いて、今回の船上試験でもCクラスは完全に出遅れていたからね……。これでクラスの入れ替わりが起きるとなると、学校全体にまた大きな激震が走るはずだわ」
鈴音は腕を組みながら、モニターに映し出された最終順位を冷静に分析する。無人島での壊滅的な敗北に加え、今回の特別試験でも動けなかったCクラスの転落は、もはや覆しようのない事実となっていた。
「まあ、自業自得といえばそうだな。あっ、そうそう。さっき総監から連絡があった。今後の夏休み、Sクラスは全員スペインへ向かう事になる。つまり、スパイ研修だ」
「言っておくが、二学期が始まるまでスペインで生活する事になる。その事を忘れるな」
「「「ええーっ!?」」」
フィレモンと佐枝の説明を聞いた鈴音たちは、予想外の展開に驚いてしまう。まさか残りの夏休みをスペインで過ごすとは予想外だ。
「さて、これからが本番ですね」
この様子を見たモルタデロはうんうんと頷きながら、Sクラスのこれからを楽しみにしていた。自分たちの故郷であるスペインで、鈴音たちがどう成長するのか楽しみにしながら。
ED:Rock'n Rouge(一之瀬バージョン)
一学期はこれにて終了。次回から新章の夏休み編です!
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