さっ、新章となる夏休み編が始まるわよ。皆、準備は良いかしら?
OP:モルタデロとフィレモンのテーマ
第25話 スペインへの旅
夏休みの試験が終わり、学園は本格的な夏休みへ。生徒の中ではプールに行ったり、部活で精一杯頑張っている者もいるだろう。
しかし、Sクラスのメンバーは学園を飛び出し、T.I.A.本部のあるスペインへ向かう事に。本格的な実習がメインとなる為、休まずには居られないのだ。
※
国際空港の広大なロビーの一角。周囲の一般客が行き交う中、一際異彩を放つ一団がぽつんと陣取っていた。
そう、それはいつもの見慣れたスパイ衣装に身を包んだSクラスの面々である。
その中央で、モルタデロはなぜか闘牛士の赤いマントをひらひらと揺らしながら、大真面目な顔でパンフレットを広げていた。
「皆さま、よくぞ集合してくださいました! これより我々は、日本の空を飛び立ち、世界のエージェントたちが集う伝説の地――スペイン・マドリードにあるT.I.A.(トータル・インテリジェンス・エージェンシー)本部へと向かいます!」
その高らかな宣言に、鈴音はこめかみをピクピクとさせ、呆れ果てたため息を盛大についた。まさかこんな事になるとは予想外だ。
「ちょっと待ってよ、モルタデロ。夏休みといえば、普通は海に行ったり、涼しい部屋でまったり過ごしたりするものじゃないの? なんでいきなり私たちの意思も確認せずに、海外の秘密組織の本部行きが決まっているわけよ!」
「本当だよ! せっかくの高校生活初の夏休みが、海外でのスパルタ訓練なんて聞いてないって! 水着だって新しく買ったのに……!」
恵が不満タラタラといった様子で抗議の声を上げる。愛里や麻耶も、不安そうに小さくうなずいている。折角の夏休みがこんな事になるなんて予想外だ。
「甘い、甘いですよ恵さん! 本物のスパイに『夏休み』という甘美な響きは存在しません! 現地では、スペインの伝統あるウシ追い祭りや、スパイ任務などが目白押しです!」
「「「それ、ただの命がけの処刑台でしょ……!」」」
鈴音、恵、波留加のツッコミが綺麗にハモる。桔梗、愛里、麻耶に至ってはため息をつくしかない。
その傍らでひよりは目を輝かせてパチパチと拍手していた。
「うふふ、スペインの本部なんて、まるで海外のスパイミステリー小説の導入みたいで最高じゃない! 現地の美味しいパエリアも食べられるし、私、すごく楽しみだなぁ」
「私としてはスペインに行くのは久々だけどね」
「えっ? 行った事あるの?」
帆波の発言を聞いた美雨は、彼女に視線を移しながら驚いてしまう。まさかスペインに行った事があるとは驚きだ。
「モルタデロさんのスパイ訓練でスペインに来たからね。その時は楽しかったな」
「そうなんだ。私も罠を学ぶ為に頑張らないと!」
帆波の話を聞いた美雨は、気合を入れながら張り切る。彼女に負けず、自分も頑張るのみだ。
「私とブレンたちとしてはモルタデロさんとフィレモンさんと同じく、スペインに戻るけどね。その時は色々案内するから!」
「「「お願いします!」」」
比瑪の笑顔のアドバイスに、桔梗たちは一礼しながら応える。先輩である彼女がいるのなら、スペインでの任務と旅行も安心するだろう。
すると、佐枝がスパイ衣装の姿をしながら、この場に姿を現した。サングラスと麦わら帽子を着用、さらにスーツケースも持っている。
「茶柱先生も行くのですね……」
「私も同行する事になるからな。それに本場のスペインに行くのは、前から興味あるのでな」
「多分、他のクラスは嫉妬しそうですが」
佐枝の説明を聞いた鈴音は、唖然としながらため息をついてしまう。この事を須藤たちが聞いていたら、嫉妬の涙でとんでもない事になるだろう。まあ、この場合は知らんぷりするのが一番だが。
「そうね。あの包帯まみれの男子たちがこの話を聞いたら、間違いなく嫉妬の炎で学校ごと燃え尽きかねないからね……。まあ、向こうは向こうで静かに夏のサバイバルを楽しんでもらいましょう」
麻耶がやれやれと頭を振ると、モルタデロは大きなトランクを肩に担ぎながらビシッとポーズを決める。今から出発の合図だ。
「さあ、搭乗手続きの時間です! フライト中も油断することなく、雲の上での極秘スパイミーティングを挙行しますぞ!」
「飛行機の中くらい、おとなしく寝かせてよ……」
恵がぐったりとした様子で呟く中、Sクラスの一行はサングラス姿の佐枝を引き連れて、出国ゲートへと歩みを進めていく。ここから旅も始まりを告げられるのだ。
※
その頃の学園内では、綾小路、平田、須藤、池、山内の五人がプールへ遊びに来ていた。野郎ばかりのメンバーである為、須藤、池、山内の三人がやる気が下がったのも無理はない。
「なんとかCクラスに上がったのは良いが、干支試験もSクラスが絡んでいたとはな……」
「お陰で全体がCクラスに上がったのは良いけど、そのSクラスは夏休みでスペインに向かうってさ」
「スペインかよ……! あんな得体の知れない外国人のせいで散々な目に遭ったってのに、本場のスペインでバカンスだか訓練だかしてやがるなんて、不公平すぎだろ!」
山内がプールサイドのコンクリートを足蹴にしながら、悔しそうに地団駄を踏む。隣で池も、タオルを肩にかけながら大きく同意した。
「本当にな! しかも野郎ばかりのプールなんて、目の保養にも何にもなりゃしないぜ……! 恵ちゃんたちや、可愛い女子グループとキャッキャウフフする夏休みはどこに行っちまったんだよ!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて。こうして無事にCクラスへ上がれたんだし、まずは体を休めてリフレッシュすることが大事だよ」
平田が爽やかな笑顔でなだめるが、その表情にはどこか疲労の色が隠しきれない。それも無理はない。無人島でのトラウマ級のドッキリから、船上試験での奇問ラッシュまで、彼らも精神的にすり減っていたのだ。
そんな中、須藤は自身の腕に残るうっすらとした包帯の痕をさすりながら、ブルっと身震いさせる。
「……思い出すだけでもゾッとするぜ。あの巨大な象に踏み潰されそうになったり、爆弾でアフロにされたり……。あいつらがスペインに行ったってことは、当分あの変態モルタデロの顔を見なくて済むってことだろ? それだけでも天国だと思わねぇとやってられねぇよ」
「「確かに……」」
須藤の言葉に、池や山内もしみじみと納得し、ようやく愚痴の勢いも収まってきた。
そんな荒ぶる男子たちを尻目に、綾小路は冷たいプールの水を眺めながら、静かに思考を巡らせていた。
(モルタデロやフィレモン、そしてあの謎の組織T.I.A.……。彼らが本格的な実習のためにスペインへ向かったということは、二学期以降、学校の勢力図や特別試験のルールにもさらなるイレギュラーが持ち込まれる可能性が高い。……はたして、これは束の間の静けさか、それとも嵐の前の静けさか)
水面にパシャリと水飛沫が上がり、青空の下で夏の日差しがまぶしく照りつける。
遠く離れた情熱の国スペインでモルタデロたちが大暴れしている頃、日本に残された生徒たちもまた、それぞれの思いを胸に新たな季節の波へと足を踏み出していくのだった――。
ED:SUMMER EYES(王美雨バージョン)
次回はスペインに到着です!
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