さあ、気を取り直して今日も張り切ってみよう! 準備は良いかな?
ランチを終えたモルタデロたちは、マドリードにある美術館へ行く事に。そこには有名な絵であるゲルニカがあるので、必ず見に行かなくてはならない。
「あそこだよ! あのソフィア王妃芸術センターの中に、ピカソの描いた『ゲルニカ』が展示されているの!」
ひよりが目を輝かせながら、石造りの立派な美術館の建物を指差す。
それに続くように、比瑪と帆波は少しだけ顔を引きつらせつつ、足取りを重くして門をくぐった。
「うう……、名前を聞くだけで、あの時のモノクロの巨大な悲劇が脳裏によみがえってくるよ……」
「そうだよね。初めて見た時、あまりの迫力と生々しさに魂が抜かれそうになったもん……」
二人が過去のトラウマを思い出してブルッと身震いするのを見た鈴音は、小さく首を傾げる。その様子だとまだゲルニカの怖さを知らないみたいだ。
「そこまで言うなんて、大げさじゃないの? ただの有名な絵画でしょう?」
「ふふ、鈴音ちゃんはまだ実物を見たことがないからそんな事が言えるんだよ。あれはね、ただ鑑賞するっていうより、まるで絵画そのものがこっちに襲いかかってくるような、すごい圧があるんだから……!」
帆波が少し怯えたように腕を抱える中、一足先に館内に入っていたモルタデロが、大きな声で仲間たちを手招きしている。
「おーい、皆さん! 早く来てください! ここに、現代アートの極致とも言える素晴らしい(そして少し不気味な)大作が鎮座しています!」
モルタデロの呼び声に導かれ、一行は館内の厳かな雰囲気が漂う展示ホールへと足を踏み入れた。
そして――目の前に広がる、壁一面を覆うほどの巨大なモノクロの絵画、『ゲルニカ』の圧倒的な実物を目の当たりにする。
「……っ!」
その歪んだ人間たちの姿、泣き叫ぶ母、血を流して倒れる兵士、そして不気味に燃え盛る炎と突き刺さるような光。戦争の悲惨さと恐怖を具現化したかのようなその巨大な絵を前にした瞬間、鈴音や桔梗、佐枝までもが、思わず息を呑んで立ち止まった。恵、麻耶、愛里、美雨、波留加に至っては抱き合いながら怯えているが、ひよりに至っては興味深そうに見つめていた。
「これが……パブロ・ピカソの『ゲルニカ』……。画面全体から放たれるこの得体の知れないエネルギー、ただ者ではないわね……」
「う、うん……」
鈴音が鋭い瞳をわずかに揺らしながら呟き、桔梗もいつも通りの不敵な笑みを少し引っ込め、真剣な表情で絵を見上げる。誰もがゲルニカの凄さを肌で実感しているのだ。
「すごいな……。色彩がないからこそ、かえって痛みが直接心に突き刺さってくるみたいだ……」
「おや、先生もそう思われますか? 実はこの絵、見れば見るほど奇妙なインスピレーションが湧いてきます……!」
佐枝の呟きを聞いたモルタデロがどこから取り出したのか、スケッチブックと奇妙な形のクレヨンを手に取る。そのままゲルニカのタッチを真似て絵を描き始めたのだ。
「おい、モルタデロ。まさかその絵をモチーフにして、またロクでもない発明品のアイデアでも練るつもりじゃないだろうな……?」
フィレモンが冷ややかな視線を送りながら警戒すると、バクテリオ教授が後ろからニヤリと不敵な笑みを浮かべて割って入ってきた。まさかの展開に誰もが驚くのも無理はない。
「ほう! ゲルニカの歪んだ幾何学模様を応用すれば、相手の視覚を狂わせて『全員がピカソの絵の住人のようになってしまう不思議なサングラス』がつくれるかもしれないぞ……!」
「絶対に作り出さないでください。そんなもの迷惑でしかないわよ!」
鈴音の鋭いツッコミが美術館の静寂なホールに響き渡り、周囲にいた他の観光客が一斉にギョッとした視線をこちらに向ける。今の物騒な会話を聞いて、嫌な予感を感じていた。
「あ、みなさん! ここに日本語の説明書きがありますよ!」
すると美雨が指差した先には、作品の傍らに掲示された解説プレートがあった。なぜかスペインの主要な美術館であるはずのここソフィア王妃芸術センターに、不自然なほど綺麗な日本語で注意書きが添えられている。
「ええと……。『※本作品は非常に強い衝撃を与えるため、精神的未熟なエージェントや危険な科学者による悪用を禁止します。また、バクテリオ教授による模倣・発明品の素材としての使用を固く禁じます。 T.I.A.総監部』……って、これ、完全にうちの組織向けじゃないですか!」
美雨がスラスラと読み上げると、館内の静寂が一瞬にして凍りついた。まさかここにこの注意書きが書いてあるのは予想外だ。
「な、なんだと……!? 私の革新的な発明のアイデアが、すでに組織の上層部に先回りして封じられているというのか……!」
バクテリオが頭を抱えて悔しそうに地団駄を踏む。それを見たフィレモンは、やれやれと盛大なため息をついた。
「当たり前だ。お前がマドリードに来るたびに名画や歴史的建造物を変な発明品の実験台にしてきたからな。総監が事前に手を回しておいたに決まっているだろう」
「さすがヴィセンテ総監、目の付け所が違うわね……」
鈴音も思わず納得の表情を浮かべる。あれだけ破天荒なバクテリオの行動を熟知しているからこそ、こうした先手の対策が講じられているのだろう。
「ふふ、なんだか美術館全体が壮大なミステリーの舞台みたいになってきたね。それにゲルニカの誕生の経緯も書いてあるから、見逃せなくなってきたわ!」
「じゃあ、次はその歴史を辿っていきましょう!」
ひよりの提案に恵たちも頷き、ゲルニカの歴史展示コーナーへと移動する。何故ゲルニカが誕生したのかを、この目で確かめる必要があるからだ。
「ゲルニカは奥深いからな。我々も見直す必要がある」
「そうですね。では、向かいましょうか」
バクテリオの意見にモルタデロも同意し、彼らも帆波たちの後に続く。今いる彼女たちにゲルニカの事実を伝える為だけでなく、戦争の悲惨さを教える為に。
ED:SUMMER EYES(王バージョン)
ゲルニカで変な事をするのは止めましょう。トラウマになるので。
感想等よろしくお願いします!