モルタデロとフィレモン よう実スパイ大作戦   作:蒼牙王

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みーちやんだよ。私たちはマドリードの美術館に着たけど、ゲルニカの凄さに驚いたの。バクテリオ博士がそれを利用して発明品を作ろうとしたけど、まさか事前に阻止されるとはね……。私たちとしては助かるけど。
さて、今回も張り切っていこう! 準備は良いかな?

OP:モルタデロとフィレモンのテーマ


第31話 盗まれた美術品

 鈴音たちはゲルニカの歴史を知る為、展示コーナーへと移動する。ゲルニカはどの様な経緯で誕生したのかを知る必要があるのだ。

 

「あったわ。あれがゲルニカの展示コーナーね」

「日本語で書いているから分かりやすいよ」

 

 鈴音が指差す方を見ると、ゲルニカの歴史がパネルで展示されている場所があった。更に桔梗は日本語で書かれている文章も発見。これなら誰でも分かりやすいだろう。

 

「どれどれ……『1937年、スペイン内戦中の4月25日。バスク地方の古都ゲルニカが、フランコ軍を支援するナチス・ドイツ空軍およびイタリア空軍によって無差別爆撃を受けた。この歴史的悲劇に激しい怒りとショックを受けたパブロ・ピカソが、同年パリ万国博覧会のスペイン共和国館のために描き上げたのが、この「ゲルニカ」である』……なるほどね」

 

 鈴音がパネルの文章を目で追いながら、静かに内容を噛みしめるように呟く。

 その横でひよりがうなずき、さらに詳しく解説を付け加えた。

 

「そうなの。当時のゲルニカは軍事的な重要拠点というわけではなく、多くの一般市民が暮らす平和な街だったのよ。そんな場所に対して予告なしの空襲が行われ、無数の命が奪われた……。ピカソは、その残酷な現実と戦争の不条理を告発するために、あえて色彩を削ぎ落としてモノクロームでこの巨大な絵を描き上げたんだわ」

「戦争の悲惨さを伝えるために描かれた絵……だからあんなにも、胸を締め付けられるような圧倒的な迫力があったんだね」

「うん……ただの絵画っていうより、当時の人たちの叫びがそのまま形になっているみたいで、なんだか直視するのが怖いくらいだったけど、すごく心に残るよ」

 

 ひよりの文学的で真摯な解説に、恵や愛里も神妙な面持ちでパネルの文字を見つめた。

 普段のドタバタとしたスパイ任務や学校の試験とは違う、重く深い歴史の現実。Sクラスの面々も、スペインという土地が背負ってきた過去の傷跡に、静かに思いを馳せていた。

 

「ふむ……戦争の愚かさと、芸術が持つ告発の力か。私たちも日々、特殊な環境でスパイとしての訓練やサバイバルを行っているが、本当の戦禍の恐ろしさを目の当たりにすると、身が引き締まる思いだな」

 

 佐枝が腕を組みながら真剣なトーンで呟く。その言葉に生徒たちも無言で大きくうなずいた。

 すると、美術館の警備員がモルタデロたちの元に駆けつけてきた。恐らく何かあったのだろう。

 

「すみません。T.I.A.の皆様ですね。急で申し訳ないですが、美術品が盗まれる事件が起きました」

「美術品の盗難だって……!? この厳重なソフィア王妃芸術センターで、一体何が盗まれたというのよ!」

 

 鈴音が鋭い視線を警備員に向けながら問い詰める。警備員は冷や汗を拭いながら、早口で事情を説明した。

 

「それがですね、ゲルニカの展示室のすぐ近くに保管されていた、ピカソの未公開スケッチであり――実は我がT.I.A.が極秘裏に管理していた『特殊暗号化データ』が隠されている額縁ごと、忽然と姿を消したのです!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、モルタデロとフィレモンは顔を見合わせた。まさかここで二度目の事件が起きたのは予想外だ。

 

「 我々が先ほどアタッシュケースを回収したばかりだというのに、今度はピカソの美術品に隠されたデータが狙われたとは!」

「間違いない。先ほどのスリ・盗聴グループの残党か、あるいは別の国際的なアート窃盗団の仕業だな……!」

 

 フィレモンが険しい表情を浮かべ、真剣な表情で考え始める。

 Sクラスの生徒たちも、一瞬にして緊張感を漂わせた。ただの観光や研修ではなく、再び本格的な極秘任務へと切り替わる。

 

「のんきにゲルニカの歴史を勉強している場合じゃなかったわね。……茶柱先生、私たちも動きます」

「あぁ、当然だ。T.I.A.の協力者として、そして生徒たちを預かる教師としても、このまま見過ごすわけにはいかないからな」

 

 佐枝がサングラスを取ったと同時に、真剣な表情で覚悟を決める。事件に巻き込まれた以上はやるしか方法はない。

 ひよりは目を輝かせながらワクワクした様子だが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 

「犯人の足取りは私に任せて! こう見えても敵の足取りを見つけるのは得意だから!」

「波留加ちゃん、お願い!」

 

 波留加は真剣な表情で集中しながら、犯人の足取りを探し始める。

 彼女は目的の人物を探すスキルを習得しているので、どんな離れた場所でもすぐに見つけられる。スパイの基礎訓練が役に立っているのだ。

 波留加はピクリと眉を寄せ、微動だにせず周囲の空気の流れや床に残された微かな足跡の気配、そして犯人が残したわずかな残留エネルギーを研ぎ澄まされた五感で捉えていく。

 

「……見つけたわ。微かな足跡の残り香、それと慌てて逃げたときの風の乱れ……。犯人は、この美術館の地下メンテナンス用通路を通って、北側の古い出口へ向かってる!」

 

 波留加が鋭く指し示したその先には、一般客が立ち入ることのできない裏手へと続く重厚なスタッフ用の扉がわずかに開いていた。

 その的確かつスピーディな分析に、鈴音も力強くうなずく。

 

「さすがね、波留加。無人島や船上試験を潜り抜けてきただけのことはあるわ。……よし、逃がすわけにはいかないわね」

「任せて! データの隠された額縁を取り返して、あの泥棒たちに反省させてやるんだから!」

「波留加ちゃん、すごい……!」

「私たちも続くよ!」

 

 波留加の瞳に闘志の炎が宿り、その頼もしい姿に愛里や麻耶もと心強い声を上げる。仲間が頑張っている以上、自分たちも負ける理由にはいかない。

 

「よおし、それではこれより『地下迷宮アート泥棒追跡作戦』を開始しますぞ! 先陣を切るのは、このモルタデロの――」

「お前は先頭に立つな、また自爆して道連れにされるのがオチだ。俺が先導する、ついて来い」

「ボス、落ち着いてください……」

 

 モルタデロが勢いよく飛び出そうとした瞬間、フィレモンがその襟首をガッチリと掴んで引き戻す。相変わらずの絶妙なコンビネーション(?)に、美雨が苦笑いを漏らした。

 

「茶柱先生、私たちはどう動けばいいですか?」

「あぁ。波留加の誘導に従い、地下通路と北側出口の二手に分かれて退路を塞ぐ。生徒たちは私と比瑪、一之瀬がしっかりとサポートするから、堀北はモルタデロたちと共に前線を頼む」

「はい!」

 

 佐枝の的確な指示のもと、Sクラスの面々は一糸乱れぬ動きで班を再編成し、地下通路へと足を踏み入れていく。

 美術品に隠された極秘データを守るため、そしてスペインの静かなる美術館を取り戻すため、一味違ったスパイ追跡劇が地下の暗がりへと続いていくのだった――!




ED:SUMMER EYES

美術品奪還へ。果たしてうまくいくのか?

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