美術品が盗まれる事件は解決したけど、その絵がまさかの恐怖の風刺画だとは驚いたわ。けど、おかげでミステリー小説の良いネタになったけどね。
さあ、今日も始まるわ。楽しんでね!
OP:モルタデロとフィレモンのテーマ
日本の高度育成高等学校。その中にある地下の会議室前で、葛城がドアをノックしていた。すると、カーテンから有栖が姿を現す。
「合言葉を。Sクラスは……」
「敵に回すな」
「入りなさい」
有栖の指示に葛城が入っていく。それ程重大な会議である事は間違いない。
※
「全員揃いましたね」
有栖は現在いるメンバーを、真顔で正確に確認していた。Aクラスからは彼女と葛城。Bクラスからは神崎。Dクラスからは伊吹。Cクラスからは綾小路、平田、高円寺、須藤、池、山内だ。
「今回お呼びしたのはSクラスについてと、二学期から彼らの妨害に遭ってもどう生き抜くかです。二学期は体育祭とシャッフルペーパーテストがありますが、彼らなら絶対にやらかしそうです。それ以外は要塞に近づけなければ大丈夫ですが」
「Sクラスと言ったらモルタデロがいるからな……奴らにやられた恐怖が身体に染みているし、近づいたら死ぬ恐れもあるからな……」
有栖の話を聞いた須藤はガタガタと身体を震わせながら、冷や汗を流してしまう。奴らに近づけばやられるのは確実で、下手したら死ぬ恐れもある。
「おまけに、あの可愛い女子たちを引き連れて海外研修だの生ハムの原木だのって……! 俺たちの高校生活の青春はどこに行ったんだよ! クソッ、不公平すぎるだろ!!」
「本当にそれな! 謎の外国人たちとつるんでるだけで反則なのに、美女たちに囲まれてハーレム状態とか神様はどうかしてるぜ!」
池が床をバタバタと叩いて地団駄を踏み、山内も絶叫に近い声を上げる。そのあまりに情けない(しかしある意味で核心を突いた)叫びに、平田が苦笑いを浮かべながらやれやれと首を横に振った。
「い、池くん、落ち着いて……。確かに彼らの環境は特殊すぎるかもしれないけど、僕たちは僕たちで二学期の試験にしっかり備えないと……」
「落ち着けるかよ、平田! 奴らが二学期にこっちのクラスに牙を向けてきたら、俺たちは一たまりもないんだぞ!」
須藤が頭を抱えてガックリと机に突っ伏し、ガタガタと震えてしまう。その様子を見た神崎が、腕を組んだまま冷ややかに吐き捨てた。
「……嘆いていても状況は変わらない。坂柳がこうして各クラスの主要なメンバーを集めたのも、単なる愚痴大会を開くためではないはずだ。具体的な対抗策はあるのか?」
神崎の鋭い問いかけに、有栖はふっと優雅な笑みを浮かべ、紅茶のカップをソーサーに置いた。その様子だと何かを考えているに違いない。
「ええ、その通りよ、神崎くん。泣き言を言っている暇があったら、あの予測不能なカオス――モルタデロたちが容赦なく私たちの日常を粉砕しにやってくる日に備えるべきですのよ」
有栖の青い瞳が、会議室の全員を再び見据える。後ろにあるホワイトボードには要点がずらりと書き並んでいた。
二学期に向けた防衛策の要点
・ 予測不能な妨害への警戒:物理法則を無視したモルタデロたちの奇行や発明品によるかく乱を想定する。
・ 各クラス間の情報共有:体育祭やシャッフルペーパーテストにおいて、Sクラスが仕掛けてくるであろう不規則なルール破りへの共同防衛網を敷く。
・要塞の死守:個別の小競り合いを避け、全体として彼らを近づけないための連携を強化する。
「二学期初頭に待ち受ける『体育祭』、そして個人の実力と運が交差する『シャッフルペーパーテスト』。彼らがどのような手段で妨害を仕掛けてきても耐えうる、盤石な体制を構築する――それが今日の会議の真の目的ですわ」
その言葉を聞いた伊吹は、ふんっと鼻を鳴らしながらも、どこか闘志を宿した鋭い視線を向けた。
「……で、具体的にどうやってあのバカどもを抑え込むってんだよ?」
伊吹の問いに有栖は満足げにうなずくと、一枚の極秘資料をテーブルの中央へと滑らせる。その内容は身体強化とカオスな日常に耐える訓練だ。
「明日からこのトレーニングを実行します。AからDクラス全員で」
「理事長には許可を得たのか?」
「勿論ですわ。理事長も、『生徒たちの主体的な危機管理能力の向上につながるならば、学園としても全面的にバックアップしよう』と、快く――というよりは、どこか面白がるような笑みを浮かべながら認可してくださりましたわ」
有栖が優雅にティーカップを置きながらそう告げると、会議室にいた面々から一斉にどよめきが起きた。まさかあっさりと許可を得るとは予想外だ。
「おいおい。絶対に裏で何か企んでやがるぞ……!」
「当たり前だろ! そもそも、あんな変な外国人たちを特例で入学させたのも、上層部の仕業に違いねぇんだからな!」
池と山内が顔色を真っ青にしてガタガタと震える。
確かに、ただでさえ特殊な高育成高等学校において、物理法則を完全に無視した変人が「Sクラス」として我が物顔で闊歩している時点で、学校の上層部が何らかの裏の意図を持っているのは明白だった。
「ふん、誰が裏で糸を引いていようと関係ないね。要するに、その『カオスな訓練』を乗り越えれば、あのバカどもを叩きのめす力が手に入るってことだろ?」
伊吹が不敵な笑みを浮かべ、机に置かれた極秘資料を力強く掴み取る。その気負った様子に、神崎も小さくうなずいた。
「伊吹の言う通りだ。不条理なルールや妨害を仕掛けられるのを待つより、こちらから主導権を握るための準備をしておく方が生存率は上がる。……俺は、この合同トレーニングへの参加に異存はない」
「みんなが安全に二学期を乗り越えられるなら、僕も協力するよ」
Bクラスの頭脳である神崎が賛同したことで、部屋の空気が少し引き締まる。平田も穏やかに微笑みながら頷いた。
「ハッ! 面白い! 凡百の者たちが足掻く姿こそ、美しきこの私の引き立て役というものだね! すべて受けて立とうじゃないか!」
高円寺が自信満々に胸を張り、まったく動じる気配を見せない。この様子だと自信満々は明らかだ。
そんな中、会議室の一角で静かに腕を組んでいた綾小路清隆が、ゆっくりと言葉を発した。
「坂柳の言う通り、事前の備えがなければ二学期の体育祭やシャッフルペーパーテストは致命傷になりかねない。……ただ、一つだけ確認しておきたいことがある」
綾小路の静かで冷徹な声に、有栖の視線がスッと向けられる。
「なにかしら、綾小路くん?」
「モルタデロたちが仕掛けてくる『予測不能な妨害』に対して、このトレーニングが本当に有効に機能するのかどうかだ。彼らの行動原理は常軌を逸している。マドリードの美術館で起きた一件を見ても、論理的な予測の範疇を軽々と超えてくる相手に、ただの身体強化や回避訓練だけで対抗しきれるとは思えないが」
綾小路の鋭すぎる指摘に、会議室の空気が再びピリッと張り詰める。確かに訓練だけでは物足りず、やられてしまう事もあり得るだろう。
しかし、有栖はその美しい唇に不敵な笑みを湛えたまま、微動だにしなかった。
「ふふ……さすがは綾小路くんですね。その通り。通常の対策だけでは、あのカオスを完全に防ぐことは不可能ですわ。だからこそ――」
有栖がパチンと指を鳴らすと、ホワイトボードの裏から、さらに分厚い「第二の極秘資料」がスライドして現れた。
「――この合同訓練の最終プログラムには、各クラスの知略の粋を集めた『対モルタデロ用・特製トラップ破りシミュレーション』が組み込まれていますの。これを完遂できた時初めて、私たちは奴らの暴走を食い止める盾を手に入れることができるのです」
有栖の説明を聞いた綾小路は納得の表情をする。確かにこれなら問題なく取り組めるだろう。
※
スペインに赴いているSクラスの研修は始まったばかり。彼らが帰るまでの期間、その猛威から日常とクラスポイントを守るため、A〜Dクラスの生徒たちによる前代未聞の「サバイバル防衛訓練」が、明日から幕を開けようとしていた――!
ED:SUMMER EYES(王バージョン)
有栖指導の訓練はどうなるのか。
感想等よろしくお願いします!