さて、物語が始まるわ。遅れないで張り切りましょう!
OP:モルタデロとフィレモンのテーマ
モルタデロたちはマドリードの街を歩きながら、彼によるスペイン語講座を行なっていた。まずは街を歩きながら、基本的な言葉を覚える事だ。
「モルタデロ、変な教え方はするなよ?」
「了解です、ボス。ちゃんと教えますので」
フィレモンからの忠告に、モルタデロは頷きながら応える。しかし、彼の事だから、変な教え方をするのではないかと思うだろう。
「まずは基本中の基本ですぞ! スペインを訪れたスパイが一番最初に覚えるべき言葉――それは『こんにちは』を意味する『Hola(オラ)』です!」
モルタデロが両手を大きく広げ、まるでオペラ歌手のように朗々と声を張り上げる。青空が広がるマドリードの通りに、通行人たちが何事かと振り返った。
「ふむ、挨拶なら普通の授業っぽくてまともじゃない。これなら安心ね……」
「そう思わせといて、絶対に何か裏があるはずよ」
恵が納得するが、鈴音が腕を組んで疑いの目を向ける。それを見たモルタデロはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「ふふふ、堀北さん、鋭いですね! ただの挨拶ではスパイの教養としては物足りません。例えば、敵のボスに囲まれた時にこう使うのです――『オラァ! そこから一歩も動くんじゃねぇ!』と!」
「それ、『オラ』じゃなくてただの日本のヤンキーの威嚇でしょ! スペイン語の挨拶と全然違うじゃない!」
「ぐふっ、さすがスパイ候補生、聞き逃しませんな!」
鈴音の鋭いツッコミが炸裂し、モルタデロは頭を抱えてオーバーにのけぞる。その隣で、フィレモンはすでにこめかみを押さえて深々とため息をついていた。
「だから言っただろ、こいつにまともな教育などできるわけがないと……。じゃあ、次は俺が教えてやるよ」
「では、お願いします」
フィレモンが交代して教える事になり、美雨が一礼しながら応える。彼なら問題なく教えられるだろう。
「現場で最も必要とされるスペイン語――それは状況把握だ。例えば、敵に追われて不慣れな街で逃げ道を確保するときに使う必須フレーズ……。『¿Dónde está la salida de emergencia?(ドンデ・エスタ・ラ・サリーダ・デ・エメルヘンシア)』。意味は『非常口はどこですか?』だな」
流暢かつ正確な発音で言い放つフィレモンに、鈴音は深くうなずいて納得の表情を浮かべる。
「お、それならスパイとしても、万が一のトラブルに巻き込まれた観光客としてもすごく実用的ね。これなら合格だわ」
「うんうん! よし、みんなで声に出して練習してみようよ!」
帆波の呼びかけに、恵や麻耶たちも「『ドンデ・エスタ……』っと、よし、覚えた!」と熱心に復唱し始める。ひよりは早速手帳にそのフレーズと発音をメモに書き留めた。
「さすがフィレモンさん、さっきのヤンキー挨拶とは違って、ちゃんとタメになる授業をしてくれますね!」
「そうだろう。基本がなってこそ――」
美雨の称賛にフィレモンが満足げに鼻を高くした、その瞬間。モルタデロがある事を思い出して説明する。
「ですがボス! もし非常口の代わりに屈強なマタドール(闘牛士)と怒った闘牛が待ち構えていたらどうするんです? 」
「いや、そこまでは……」
「そのときは慌てずに赤い布を……いや、自分の着ている派手な赤ジャージを振り回して『¡Toro!(トロ!/雄牛だ!)』と叫びながら華麗にかわすテクニックが必須です!」
モルタデロがいつの間にか闘牛士の帽子(カルトレホ)をどこからか取り出してかぶり、両手をヒラヒラさせながら奇妙なステップを踏み始めた。いくら何でもこんな街中でやるのはどうかと思う。
「誰がマドリードの街中で闘牛士をやる羽目になるんだ! それに雄牛なんて……って、来たー!!」
なんと雄牛がいつの間にか街中を走り回り、モルタデロたちに向かい出す。それを見た鈴音たちは急いで逃げるが、何故か雄牛たちは彼女たちを追いかける。モルタデロ、フィレモン、佐枝、帆波、ひより、比瑪は巻き込まれずに済んでいるが。
「なんで本当に出てくるのよ、このトラブルメーカーーーっ!!」
「ひゃあぁぁ!?」
「嘘でしょ、何で本物の牛がここにいるのよ!」
鈴音が耳を劈くような絶叫を上げながら、猛スピードで突っ込んくる巨大な雄牛の鼻先から文字通り紙一重で跳び退く。その後ろを、美雨、恵、麻耶、愛里、そして普段は涼しい顔をしている桔梗までもが文字通り目を回しながら逃げ惑っていた。
「くっ、冗談で言った予言が的中するとは、私のスパイ的インスピレーションもいよいよ神がかっています!」
「得意げに言ってる場合か、この大馬鹿野郎があぁっ!!」
安全なテラス席の柵の上から見物していたフィレモンが、持っていたガイドブックで再びモルタデロの頭を激しく叩きつける。しかし、牛の暴走を止めるにはそれだけでは足りない。
「きゃあ、鈴音ちゃん、危ない!」
「くっ……! こうなったら、正面から受けて立つしかないわね……!」
鈴音が身構え、瞬時に戦闘態勢に入ろうとしたその時――比瑪と帆波、そしてひよりがパッと動き出した。
「ここは私たちが! 帆波ちゃん、あそこの看板を使って足を引っ掛けて!」
「任せて、ひよりちゃん!」
帆波が鮮やかな身のこなしで周囲の小道具を巧みに操り、ひよりが手帳を片手に「ふむふむ、これが本場の闘牛回避ルートね……!」と謎の分析をしている間に、比瑪がスパイ用の特殊ガジェットである『高圧スタンネットガン』を構えた。
「それっ、おとなしくしなさい!」
バシュッ!!
比瑪が放ったネットと微弱な電撃が雄牛の足元を捉え、ガクンと巨大な体がバランスを崩して地面にズザーッと滑り込む。
「い、今だ……っ!」
美雨がすかさず足元に『バナナの皮トラップ(なぜか常備している)』を滑り込ませたことで、勢い余った雄牛は華麗に一回転し、そのまま綺麗に気絶して白目を剥いた。
――シーンと静まり返るマドリードの通り。
息を整えながら、鈴音はその場に膝をつき、ぐったりと肩を揺らした。
「はぁ、はぁ……っ……。なんでスペインを歩くだけで、毎回命がけのサバイバルになるわけ……?」
呆れと疲労で顔を引きつらせる鈴音に、モルタデロは彼女たちに近づく。今の現状を見て、ある事を伝えようとしているのだ。
「言い忘れましたが、スペインではドタバタが多いのです。雄牛が出たりする事もありますが、これだけではありませんので」
「ああ。お約束の展開もある理由ね。けど、考えてみたら他クラスの企みを阻止する為の対策もあるみたいだし」
「普通じゃない事もあり得るからね……」
モルタデロの説明に桔梗と恵は納得せざるを得なかった。ここは日本ではない。この様な事件もあるので要注意だ。
「気を取り直して次へ向かいましょう。確かサッカーの試合があるから、そこに行くのもありかもね」
「確かマドリードとバルセロナの試合だったな。そこで試合を見ながらスペイン語を学んでみるか」
鈴音の提案にフィレモンたちも了承し、すぐにサッカースタジアムへ。果たしてどうなるのか見所だ。
ED:SUMMER EYES(王バージョン)
スペインでは普通にその様な事はあり得ませんので。
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