因みに今回は前編だ。では、行くぞ!
OP:モルタデロとフィレモンのテーマ
マドリードとバルセロナのサッカーの試合の後半が始まり、バルセロナのキックオフでスタート。すると、フォワードについている桔梗が、勢いよくボールを奪いに来た。
「そこ!」
「うおっ!?」
桔梗は素早い動きでボールを奪った後、後方にいる恵にボールを渡す。彼女はパスを受け取ると、驚くほど軽やかな足取りでドリブルを進める。
「桔梗ちゃん、ナイスパス!」
「ふふ、いっちゃって、恵ちゃん!」
かつては他人の目を気にし、笑顔の裏に冷めた本音や裏の顔を隠して生きていた桔梗。だが、この奇妙で騒がしいSクラスに身を置き、モルタデロやフィレモン、そして鈴音たちと数々の大騒動や命がけの任務を乗り越えていくうちに、彼女の心にあった澱(おり)のようなものはすっかり消え去っていた。
他者を欺くことでも、罠にはめることでもない。純粋に仲間と心を通わせ、全力でバカをやり、全力で笑い合えるこの日々こそが、今の彼女にとって何よりもかけがえのない宝物だった。
「――っ! そこは通さないわよ!」
立ちはだかるのは、対戦相手として立ちはだかるバルセロナ側の守備陣、波留加と比瑪だ。彼女たちも本気で立ち向かっている。
「波留加ちゃん、止めて!」
「任せてください、隙だらけだよ!」
しかし、恵からパスを受けた美雨が絶妙なタイミングでヒールパスを繰り出し、麻耶がそれを素早くトラップしてサイドを駆け抜ける。
「みんな、すごいコンビネーション……! 私も負けてられない!」
麻耶が放った精度の高いクロスボールが、ゴール前へと美しく放り込まれる。
そこへ一気に走り込んだのは――他でもない、桔梗だった。
「私の居場所は、もう隠し事だらけの仮面の下じゃない……!」
桔梗は瞳を強く輝かせ、迷いのない美しいフォームでダイレクトボレーを振り抜く。
捉えたボールは鮮やかな放物線を描き、相手キーパーの懸命な横っ飛びをあざ笑うかのように、ゴールネットの隅へと突き刺さっていく。
「――ゴーーールッ!!!」
実況アナウンサーの絶叫と同時に、スタジアム全体を揺るがすような大歓声が爆発する。
桔梗の放ったあまりに鮮やかなスーパーゴールに、マドリード側のチームメイトたちが一斉に駆け寄り、彼女を笑顔の輪で包み込んだ。
「桔梗ちゃん、すごすぎだよ! まるでプロの本物のストライカーだったよ!」
「うんうん! あんな綺麗なシュート、初めて見た!」
恵や麻耶、美雨たちが満面の笑みで飛びつき、鈴音も遠くから頼もしそうに頷きながら拍手を送る。
ピッチの真ん中で、桔梗は仲間たちと笑顔でハイタッチを交わしながら、これまでの人生で一度も感じたことのないほど、晴れやかで嘘偽りのない温かな幸福感に包まれていた。
「……ふふ、本当に、このクラスに入ってよかったな」
心からの本音がこぼれたその瞬間、スタンドからモルタデロとフィレモンが猛烈な勢いで旗を振って叫ぶ。
「素晴らしいシュートですよ、桔梗さん! 次はバック転しながらのゴールパフォーマンスを希望します!」
「余計なことを言うな、モルタデロ!」
相変わらずのドタバタとしたやり取りが響き渡る中、桔梗は楽しそうに声を上げて笑った。しかし、試合はまだまだこれから。後半は始まったばかりだ。
※
――そして、わずか数分後。
今度はバルセロナ側へと攻め上がった帆波が、相手ディフェンスの裏をかく芸術的な動き出しからクロスボールに反応する。背後から迫るプレッシャーを一切気にせず、彼女は驚くほど優美でダイナミックな空中姿勢へと身を翻した。
「――っ! いけえっ!」
ズドンッ!!
まさに絵画のように完璧なフォームから放たれたオーバーヘッドキックは、彗星の如き弾道を描いてゴールネットの天井へと猛烈に突き刺さる。
スタジアムを埋め尽くした数万人の観客が、一瞬の静寂ののち、地鳴りのような大歓声へと変わった。
「やったぁ……! 決まった……!」
ピッチに着地した帆波が満面の笑みを浮かべ、比瑪や愛里、波留加、ひよりたちと抱き合って飛び跳ねる。マドリード側でゴールを決めた桔梗たちも、遠くから「帆波ちゃん、すごい!」と手を振って称え合った。
これでスコアは同点。世界最高峰のピッチで、日本の高校生(しかもSクラスの女子たち)が完全に主役として試合を支配していた。
※
その頃、地球の裏側――日本の高度育成高等学校。
地下の会議室で、A〜Dクラスの主要メンバーたちが「対Sクラス防衛要塞」の打ち合わせを続けていたはずの場所で、全員が言葉を失い、巨大なモニターに釘付けになっていた。
「な……っ、なんだこれ……!?」
池が目玉を飛び出させ、叫ぶように声を張り上げる。モニターに映し出されているのは、スペインで行われているマドリード対バルセロナの生中継。そして、つい今しがた見事なオーバーヘッドキックを決めて眩しい笑顔を咲かせた帆波の姿だった。
「おいおいおい……嘘だろ!? あいつら、スペインに行って何やってんだよ……! サッカーの試合で世界最高峰のプロとガチで渡り合って、しかも得点まで決めてるぞ……!」
「おまけに櫛田までストライカーとしてゴール決めてやがる……! 俺たち、あんな化け物どもを相手にサバイバル訓練とか本気でやってる場合なのか……!?」
山内が頭を抱えてガタガタと震え、須藤も完全に戦意を喪失しかけている。あんな光景を見せられたら、たまった物じゃない。
「……これが、坂柳の言っていた『予測不能なカオス』の意味か。奴らは学園の枠組みどころか、世界の表舞台ですら平然と自分たちのペースに巻き込んでいる……」
「ふっ……冗談だろ。あんな連中と二学期にまともにやり合って、本当に勝てるわけないじゃないか……」
神崎は腕を組んだまま、冷や汗を流しながら呟いた。伊吹は悔しそうに歯噛みしながらも、どこか引きつった笑いを漏らす。
すると、平田がある事を思いつき、皆に提案する。
「けど、サッカーなら僕たちもできると思うよ。色々教えてあげるから」
「ちょっと待て平田! サッカーなら確かに俺もスポーツ推薦レベルで得意だけど、あいつらがピッチでやってたのはどう見ても殺人シュートか何かだろ!? あんなのまともに受け止めたら、俺の顔面ごとゴールネットに突き刺さっちまうぞ!」
「そうそう! 画面の向こうであんな人間離れしたオーバーヘッドとか決めてる奴らと、俺たちがサッカーで戦うとか無理ゲーすぎるって!」
須藤が冷や汗をダラダラと流しながら叫ぶと、池や山内も猛反対する。
しかし、有栖は上品に微笑みながら、手元のタブレットでスペインの生中継映像をビシッと一時停止した。
「ふふ、心配しなくても大丈夫ですわ、須藤くん。私たちはただのサッカーをするわけではありませんのよ。彼女たちがスペインのピッチで培ったという『圧倒的なフィジカルと予測不能な弾道への適応力』――それを私たちの防衛網に逆輸入するのです」
有栖がパチンと指を鳴らすと、ホワイトボードに書かれていた「対モルタデロ用防衛策」の端に、新しく『特製・超音速サッカー弾丸回避&キャッチ訓練』という項目が追加された。
「……まて坂柳。その訓練、具体的にはどんな内容なんだ?」
綾小路が嫌な予感をヒシヒシと漂わせながら問いかけると、有栖はどこか嬉しそうな光を瞳に宿しながら答えた。
「簡単なことよ。――『時速150キロで飛んでくる時限爆弾付きサッカーボールを、AからDクラスの全員でパス回ししながらノーミスでゴールに叩き込む訓練』ですわ」
「「「爆弾付きって言ったぞ、おい……!!」」」
池と山内が同時に絶叫し、頭を抱えて床に崩れ落ちる。伊吹たちも冷や汗を流しながら、恐怖を感じてしまった。
高度育成高等学校の明日はどっちだ? それはやってみなければ分からない。
ED:SUMMER EYES(王バージョン)
激しい試合ですが、結果はどうなるのか?
感想等よろしくお願いします!