モルタデロとフィレモン よう実スパイ大作戦   作:蒼牙王

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宇都宮比瑪よ。サッカーは激しい戦いとなったけど、ここからどうなるのか気になるところ。私たちも負けられないし、やるからには本気出さないとね。
さあ、今回も盛り上がりましょう!

OP:モルタデロとフィレモンのテーマ


第38話 サッカーバトル(後編)

 電光掲示板の数字が「40」を指し示し、試合はいよいよクライマックスへと突入する。

 スタジアムを埋め尽くす9万人の観客の熱気は最高潮に達し、ピッチの脇で控えるサポーターたちのチャント(応援歌)は地鳴りのように響き渡っていた。

 

「さぁ、残り時間はあとわずか……! どちらが勝ち越し点を奪うか、一瞬たりとも気が抜けないわね!」

「最後の最後まで、鉄壁の守りを固めないと!」

 

 マドリードのゴールマウスを守る鈴音が、額の汗を拭いながら鋭くピッチ全体を見据える。その背後では、美雨が気合を入れ、恵や麻耶も息を整えながら前線へとポジションを押し上げていく。

 対するバルセロナ側では、帆波が息を弾ませながらも満面の笑みを浮かべ、チームメイトの比瑪や愛里たちに声をかけていた。

 

「みんな、ここが踏ん張りどころだよ! 最後まで全力で楽しもう!」

「うん、帆波ちゃん! 私の足で一気にサイドを駆け抜けてみせる!」

 

 試合再開のホイッスルとともに、バルセロナの猛攻が始まった。波留加が驚異的なスピードで中盤を切り裂き、相手ディフェンスを引きつけてから絶妙なスルーパスをひよりへと通す。ひよりはノートを片手に……ではなく、しっかりと状況を冷静に分析し、フリーになっていた比瑪へとダイレクトパス!

 

「そこよ――!」

 

 比瑪が強烈なミドルシュートを放つ。ボールは矢のようなスピードでマドリードのゴールへと直撃するが、ここで立ちはだかったのは――驚異的な動体視力を誇る鈴音だった。

 

「――甘いわね!」

 

 鈴音が見事な横っ飛びでボールをパンチングし、ゴールを守り抜く。その跳ね返り球を、すかさず前線にいた桔梗が拾った。

 

「もらった……!」

 

 桔梗が華麗な足技でマドリードのDFをかわし、一気にドリブルで駆け上がる。かつては裏の顔を隠していた彼女が、今は世界最高峰のピッチの上で、仲間たちと心を通わせながら真っ直ぐにゴールに向かって走っている。

 しかし、バルセロナ側も負けてはいない。帆波が猛然と追いすがり、激しいボール奪還の競り合いが展開される。

 

「おっと、そう簡単には通さないよ、桔梗ちゃん!」

「ふふ、帆波ちゃん、簡単には諦めないんだから!」

 

 敵味方に分かれていながらも、二人の表情は最高に輝いていた。激しいボディコンタクトの末、桔梗がわずかに体勢を崩しながらも、執念でゴール前の恵へとパスを通す。

 

「恵ちゃん、お願い……っ!」

「任せて!」

 

 パスを受けた恵が、迷うことなくシュートモーションに入る。相手キーパーが飛び出してくるが、恵は直前で絶妙なループシュートを選択した。

 

 ボールは美しい弧を描き、キーパーの頭上を越えて――。

 

 ――ポスン!

 

 静寂のコンマ数秒ののち、ゴールネットが揺れた。

 

「――ゴーーールッ!! 試合終了間際の劇的な勝ち越しゴール!!」

 

 実況席のアナウンサーが絶叫し、スタジアム全体がこの日一番の、爆発的な歓声とどよめきに包まれた。

 

「やったぁぁぁ――っ!!」

 恵が両手を突き上げて飛び跳ねると、ゴールを決めた彼女の元へ桔梗や美雨、麻耶が一斉に駆け寄り、満面の笑みで抱きしめ合う。

 マドリード側で劇的なゴールを許したバルセロナ側の帆波や比瑪たちも、悔しがりながら爽やかな笑顔を浮かべ、遠くから拍手を送ってくれた。

 ピッチの中央で、敵味方の垣根を越えて集まったSクラスの全員が、互いの健闘をたたえ合ってハイタッチを交わす。

 世界最高峰の舞台で、ただの留学生やスパイ候補生に留まらず、完全に試合の主役として輝きを放ち切った彼女たちの姿は、スタンドで見守るモルタデロとフィレモン、佐枝の目にも眩しく映っていた。

 

「素晴らしい……! 我がT.I.A.が誇るスパイ候補生たちが、スペインの歴史に残る名勝負を演じてくれました!」

「あぁ……全く、とんでもない連中を預かったものだが、悪くない気分だな」

「そうだな。私としても嬉しい事だ」

 

 フィレモンが腕を組みながら、珍しく心からの誇らしい笑みを浮かべる。佐枝も同感しながらウンウンと頷く。

 太陽が照らし出すマドリードの空の下、熱狂と感動に包まれたサッカーの試合は、Sクラスの面々にとって忘れられない最高の思い出として幕を閉じたのだった。

 

 ※

 

 一方の高度育成高等学校の地下室。

 試合を最後まで見ていた須藤たちは、唖然とした表情で見つめていた。最高のプレーに度肝を抜かれてしまい、こうなってしまうと返り討ちは確定としか言えない。

 

「最後まで見たが、とても凄かったな」

「けど、俺たちが束になっても、返り討ちがオチだな」

「今日の特訓も殆どがけが人だし、自信無くしてしまいそうだ……」

 

 須藤、池、山内の落ち込みに、伊吹たちも自信を無くしかけていた。あの様な試合を見ればそうなるのも無理はない。

 しかし、有栖は平然としながらモニターの方を向いていた。その様子だと何か考えがあるのだろう。

 

「ですが、サッカーの試合でゴールキーパーの練習は特訓にもなります。動体視力を鍛えて罠を回避する為には必要不可欠ですので」

「キーパーの練習って、まさかさっき言ってた『爆弾付きサッカーボールをキャッチ&リターンする訓練』を本気でやるつもりか……!? そんなの、一歩間違えたら俺たちの高校生活が文字通り木端微塵に爆発して終わりだぞ!」

「もうやだ、帰りたい……! あんな化け物どもの相手をするくらいなら、自主退学した方がマシだぁ!」

「くっ……! あんな世界レベルのスーパープレイを見せつけられた後で、自分たちがボロボロになりながら爆弾ボールを避ける訓練をするなんて、正直心が折れそうになるが……ここで逃げたら、二学期に始まった瞬間、奴らに完全に踏み潰される……!」

 

 池が恐怖のあまり頭を抱えて絶叫し、山内も半泣きになりながら床にへたり込む。須藤も額に冷や汗を流しながら、悔しそうに拳を握りしめた。

 確かにあんなプレイを見てしまえば、そうなるのも無理はない。だが、こうなってしまえば、もう後戻りはできないだろう。

 

「……ふっ、冗談じゃないさ。あいつらが勝手に格上の舞台で無双してるからって、私たちがここで尻尾を巻いて逃げ出すなんてまっぴらごめんね」

「伊吹の言う通りだ。絶望している暇があるなら、坂柳の言う通り、あの予測不能なカオスに対応するための最低限の武器を身につけなければ生き残れない」

 

 伊吹も腕を組みながら悔しそうに唇を噛み締め、神崎も小さくうなずいて険しい表情を引き締める。各クラスのエースたちが次々と闘志を立て直していく中、平田も優しい笑みを浮かべて全員に声をかけた。

 

「そうだね。怖いかもしれないけれど、みんなで協力すれば、きっと乗り越えられるはずだよ。――ね、綾小路くん?」

 

 平田の問いかけに、綾小路は静かに窓の外の青空を見つめながら、淡々と答えた。財布の紐を締め直すように、静かに思考をまとめる。

 

「ああ、平田の言う通りだ。モルタデロたちの異常性と、スペインで培われた彼らの実力は脅威だが……逆に言えば、奴らの行動パターンや適応力の高ささえデータとして分析できれば、対策の糸口は見えてくる。坂柳の用意したこの訓練も、無駄ではないはずだ」

 

 綾小路の冷静な分析に、有栖はふっと満足げに微笑んだ。その様子だと心配無用だ。

 

「さすがは綾小路くんですわ。――さぁ、泣き言はここまでです。明日も『対モルタデロ用・特製過酷サバイバル訓練』、一歩たりとも遅れることは許しませんのよ!」

 

 有栖の凛とした号令の下、A〜Dクラスの連合軍は、恐るべきSクラスを迎え撃つための最終防衛体制へと本格的に動き出した。その前に死人が出るのか気になるが。




ED:SUMMER EYES(王バージョン)

夏休みはまだまだ続きます。様々な事件に遭遇しますので。

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