よし! 物語の始まりだ!
OP:モルタデロとフィレモンのテーマ
モルタデロとフィレモンは牢獄の部屋に入れ込まれたが、黙ったままでは終わらないのがこの二人である。すると、モルタデロは懐からスプレーを用意し、檻の外にいる蜘蛛に掛けようとする。
「私たちはここで止まりませんので」
モルタデロはスプレーを蜘蛛にかけると、蜘蛛は巨大化。そのまま看守の上に落下してきた。
「ギャーッ!」
看守は悲鳴を上げながら鍵を落としてしまい、気絶。その隙にモルタデロは釣り竿で鍵を拾い、見事脱出に成功したのだ。
「よし! 脱出成功です!」
「まあ、このぐらいなら……って、おい、さっきの蜘蛛はどうするんだ! まだ天井裏でモソモソ動いてるぞ!」
フィレモンが冷や汗を流しながら頭上を指さすと、天井のパイプにしがみついている先ほどの巨大蜘蛛が、不気味に8本の足をピクピクと動かしていた。
「ふふ、あいつは私たちの頼もしい『特製ペット』です。さぁ、ボス、ぐずぐずしている暇はありません。この要塞の奥底にある『巨大化の薬』を回収し、外で待っている鈴音さんたちと合流しましょう!」
モルタデロが調子よく親指を立てて廊下を走り出すと、フィレモンはやれやれと頭を抱えながらもその後を追う。いつもの事なので仕方がないが。
※
その頃、要塞の外壁に張り付いていた鈴音たちは、美雨が仕掛けたハッキングによってセキュリティを無効化し、静かに内部へと潜入を果たしていた。
「よし、監視カメラの映像はすべてループに切り替えたわ。これなら私たちの姿は映らないはずよ」
「さすが美雨ちゃん! じゃあ、モルタデロさんたちが捕まったという最深部の牢獄エリアに向かおうか」
帆波がニッコリと微笑みながら進路を示し、桔梗や恵、ひよりたちもスパイ用の特殊装備を手に続いていく。佐枝は一歩引いた位置から周囲を警戒しつつ、静かに生徒たちを引率していた。
しかし、要塞の廊下に足を踏み入れた瞬間、異様な雰囲気が彼女たちを包み込む。
「……ねえ、なんかすごく変な音がしない?」
「うん……それに、なんだか廊下の奥からドタバタと凄い足音が……」
波留加と愛里が不安そうに足を止めると、次の瞬間、廊下の曲がり角からものすごい勢いで逃走してくる私設軍隊の兵士たちが飛び込んできた。
「ひぃぃっ! 化けグモだぁーーっ!!」
「逃げろ、あの青いアフロの男が狂ったぞ!!」
兵士たちが文字通り泡を吹いて逃げ去っていくのを見送り、鈴音たちは完全にフリーズしてしまった。この事を聞いた以上、お約束と言えるが。
「……いま、『化けグモ』って言わなかった? しかもアフロの男って……」
「ってことは、モルタデロさんたち、もう自力で脱出したどころか、要塞全体を大パニックに陥れてない……!?」
麻耶の質問に恵が絶句しながら額に手を当てると、ちょうどその角から、モルタデロとフィレモンが満面の笑みで走ってきた。その様子だと無事である事には違いない。
「おや、みなさん! ちょうどいいところに! 我々はすでに牢獄を脱出し、敵の心臓部へ突入する準備が整いました!」
「勝手に脱出するのはいいけど、なんで廊下に車サイズの本物の蜘蛛が天井からぶら下がってるわけ!?」
鈴音の怒号が要塞の冷たいコンクリートの壁に反響する中、ひよりが鎧の後にある薬を見つける。間違いなく目的の薬だ。
「見つかったよ! 後は脱出するだけ!」
「よし! ずらかるぞ!」
ひよりは薬を回収して報告した後、佐枝の合図で全員が逃げ始めるを。目的の物は回収した以上、ここに長居は無用だ。
※
「大佐! 侵入者たちが我が軍の誇る『巨大化の薬』を持ち去り、おまけに監獄の看守を気絶させ、兵士たちをパニックに陥れて逃走しています!」
窓から見える中庭を、モルタデロたちと鈴音たちがものすごい勢いで駆け抜けていく背中を見据えながら、参謀の男が青ざめた顔で報告する。
私設軍の大佐は、顔面を真っ赤に怒らせ、持っていた葉巻を噛み砕いた。
「なに……!? 我々が世界を支配するための切り札であるあの薬品を、あの不気味なアフロ頭の男と、ただの高校生どもにだと……!」
大佐の怒号が指令室の壁をビリビリと震わせる。まさかあの様な連中に薬を奪われるとは前代未聞。こうなると捕まえなければ意味がない。
「許さんぞ……! あのガキどもとスパイ崩れの組織を一人残らず捕らえ、その薬の効き目を実験台として試してやるわ!」
大佐は参謀と共に部屋から出て行き、外にあるジープへとダッシュで向かう。一刻もモルタデロたちを早く捕まえ、薬を取り戻す為に。
※
モルタデロたちは荒れた道を進みながら、高原で一休み。鈴音たちが持ってきたチョコレートを食べながら落ち着いていた。
「ふぅ……。とりあえず逃げ切れたわね」
「はい、鈴音ちゃん、みんなもどうぞ。糖分補給して落ち着こ?」
鈴音が額の汗を拭いながら、大きく息をつく。無事に追いかけられずに逃げられた事を、安堵していた。
隣では、恵がリュックから取り出したチョコレートの包みを開け、優しく差し出していた。
「ありがとう、恵。……にしても、あのバカ二人のおかげで、最初の潜入から最後までドタバタすぎたわよ」
「いやぁ、スパイたるもの、常に臨機応変なアドリブが肝心ですからね!」
「アドリブじゃなくて単なる自爆だろ……」
「でも、スペインの風を感じながら食べるチョコ、なんだか特別な味がして美味しいね!」
鈴音にジト目を向けられたモルタデロとフィレモンは、チョコレートを美味しそうに頬張りながら呑気に軽妙なやり取りを繰り広げる。帆波や比瑪たちも笑顔を見せていた。
張り詰めた空気が少しだけ和らぎ、束の間の穏やかなひとときが流れる――が、もちろん、これで終わるような甘い世界ではない。
※
その頃、要塞の指令室を飛び出した私設軍の大佐は、側近の参謀を引き連れて最新型の装甲ジープの助手席に荒々しく飛び乗った。顔面を真っ赤に染め上げた大佐は、無線機のマイクをひったくるように掴むと、怒りの限界を超えた絶叫を全軍に向けて放った。
「全軍に通達する!! 我が軍の心臓部を荒らし、『巨大化の薬』を強奪していったあの不届き者どもは、まだ遠くへは逃げ切っていないはずだ!」
大佐の怒号交じりの声が、要塞中のスピーカー、そして全戦闘員の無線機を通じて轟音と共に響き渡る。
「周辺の全エリアを徹底的に封鎖せよ! 偵察ヘリを飛ばせ! 装甲車で山狩りを行え!! あのアフロの男と、生意気な高校生どもを一人残らず捕らえ、我が軍の実験室へと引きずり戻すのだ――ッ!!」
その大佐の怒りに満ちた絶叫は、風に乗って、奇しくもモルタデロたちが一休みしていた高原の空にまで微かに響き渡った。
チョコレートを口に運んでいた鈴音たちの手が、ピタリと止まる。
「……いまの、聞こえた?」
「うん……なんだか、ものすごく怒ったおじさんの声が山全体に響き渡ったような……」
ひよりが首を傾げたその瞬間、遠くの地平線の向こうから、ブォオオオッと地鳴りのような軍用車両の数台のエンジン音が、凄まじい勢いでこちらに向かって近づいてくるのが見えた。
「――っ! どうやら、のんびりお茶してる暇はなくなったみたいね!」
鈴音が素早く立ち上がり、スパイ用ガジェットを構え直す。ここまで敵が来る以上は、のんびりしてはいられない。
奪還した「巨大化の薬」を抱え、スペインの荒野を舞台にしたさらなる大逃走劇が、再び激しく幕を開けようとしていた――!
ED:SUMMER EYES(王バージョン)
逃走劇はここから!果たしてどうなるのか!
感想等よろしくお願いします!