さて、体育祭が終わり、本格的な日常へ。では、どうぞ!
OP:モルタデロとフィレモンのテーマ
屋内プールに響き渡る、規則正しい水の音と冷やりとした塩素の香り。
運動会の余韻が冷めやらぬ中、Sクラスの面々は一階に新設された特設水泳ルームに集合していた。もっとも、一般の生徒が行うようなのんびりとした泳ぎの練習であるはずがない。
「いいですか、皆さん! 陸上での戦闘能力だけでは、真のエージェントとは言えません。水中、とりわけ水圧や視界不良の極限状態における機動性と戦闘技術の習得は不可欠です!」
プールの縁に立ったモルタデロが、なぜか本格的なウェットスーツと水中眼鏡を装着したフル装備の姿で熱弁を振るう。その隣で、フィレモンがすでに疲れたような顔で頭を抱えていた。
「おいおい、体育祭の翌日にいきなり水中サバイバル訓練とは、相変わらずスパルタだな……ってか、その妙にリアルな水中スクーターは何だ?」
「ふふっ、これは最新型の『T.I.A.特製・水中超高速魚雷スクーター』です! 水中での機動力を何倍にも引き上げてくれる優れものです!」
モルタデロが誇らしげに指し示した先には、どう見ても暴走しそうな危険なオーラを放つ魚雷型のガジェットがプカプカと浮かんでいた。下手したらお約束の騒動展開になるだろう。
「ここはスクーターを使わず、美雨ちゃんが開発した機雷型ボールを使いましょう。触れたらブザーが鳴る仕組みとなっているから」
帆波の提案に鈴音たちも同意しながら頷く。確かにこの方が安心な訓練であるだけでなく、爆発事故が起こる事はない。
「そうだね。じゃあ、訓練を開始するよ! ルールはシンプル、この機雷型ボールを一切刺激せずに、反対側のゴールまでたどり着くこと。もちろん、ブザーが鳴ったらその時点で失格&美雨特製の『ペナルティ水流ジェット』がお出迎えだからね!」
美雨が不敵に笑いながら手元の遠隔スイッチを掲げると、プールの中に沈められた色とりどりの機雷型ボールが、水中でピカピカと妖しく赤く明滅し始めた。見た目はどこかコミカルだが、センサーの感度は抜群らしい。
「ほうほう、美雨さんの開発した機雷ですか。見た目は可愛らしいですが、T.I.A.の技術者としてもその感度、実に気になりますぞ!」
「モルタデロ、余計なフラグを立てるなよ……。どうせお前から盛大に引っかかるんだからな」
フィレモンの冷ややかなツッコミを尻目に、まずは第1組として帆波と桔梗が水中へと滑り込む。スパイ訓練の積み重ねが、どう活かせるかだ。
「いくよ、帆波ちゃん!」
「うん、任せて!」
二人は見事なシンクロナイズド・スイミングのようなしなやかな動きで水に溶け込み、水流を極限まで乱さないように進んでいく。水中で赤く光る機雷の間を、まるで小魚のように縫うように回避していく姿は、まさにプロのエージェントそのものだ。
「さすがは二人とも、見事な潜行スキルね……!」
「ふふ、これくらい基本の『き』よ」
余裕の表情で反対側のゴール壁にタッチし、帆波と桔梗が鮮やかにクリアを果たす。プールサイドから鈴音が「合格ね。無駄な水流を発生させない動き、他の見習いも見習いなさい」と小さく頷いた。
「おや、次は私たちの番ですね。見せてやりましょう、華麗なる水中のエージェント・ダンスを!」
「やれやれ、足を引っ張るなよ、モルタデロ……」
豪語したモルタデロが意気揚々と水面に飛び込んだ――その瞬間。
モルタデロの足が水中の排水口のフチに引っかかり、見事にバランスを崩して盛大に「バシャァッ!!」と派手な水飛沫を上げて転倒。その勢いのままバタつかせた腕が、目の前にぽっかりと浮かんでいた機雷型ボールをモロに直撃させてしまった。
――ピーーーーッ!!
屋内プール全体に響き渡る、けたたましい電子ブザーの警告音。やっちまったと誰もが思っているだろう。
「あ――」
「ほら言わんこっちゃない……!!」
美雨が「お待たせしましたぁ!」と嬉しそうに別のボタンを押し込むと、プールの底から轟音と共に特製・極太水流ジェットが凄まじい勢いで噴出。モルタデロと巻き添えを食らったフィレモンをまとめて、遥か彼方のゴールまで一気に急発進(暴走)させてしまった。
プールの端でびしょ濡れになりながらボケッと浮かぶ二人の姿に、周囲からどっと笑いが起こる。
「……いやぁ、実にスリリングで素晴らしい推進力でした!」
「爽快じゃねぇよ、鼻からプール水が入って溺れかけたわ……!」
賑やかな笑い声と水飛沫が塩素の香る空間に弾け飛び、Sクラスの過酷かつ愉快な水中特訓は、こうして大盛り上がりの中で続いていた。
※
「……というわけで、この二次関数の頂点を求める公式に代入すれば、どんな複雑なグラフも一発で――」
静まり返ったCクラスの教室に、数学教師の単調な声とチョークが黒板を叩く乾いた音だけが響いていた。
かつての彼であれば、この時間帯はもれなく机に突っ伏して深い眠りに落ちていたはずの男――須藤健は、今や別人のような気迫をまとっていた。
「……なるほど、ここにあの数値を当てはめればいいのか。よし、完璧に理解したぞ……!」
須藤は目を血走らせるほどの熱量でノートにペンを走らせ、サラサラと猛烈な勢いで数式を解いていく。そのあまりの真剣さに、隣の席に座るクラスメイトが思わずドン引きしながら引くほどの集中ぶりだ。
体育祭での大暴れ(そしてその後の一年クラスを巻き込んだ大ドタバタ)の疲労などどこ吹く風、須藤は熱心に話を聞きながらノートにまとめていた。
クラスの雰囲気も、かつてのギスギスした足の引っ張り合いから一変し、お互いに教え合いながら高め合う空気が定着しつつあった。
「おい須藤、そこんとこの因数分解、どうやって解いたんだ? ちょっと教えてくれよ」
「おっ、池か! ここはな、こうやって共通因数を括り出してから……」
かつての劣等生たちが自発的に学び、クラス全体の底上げを図ろうとする姿に、Cクラスの空気は確実に変わり始めていた。このまま行けば、Aクラスに昇格も時間の問題。果たして期末テストであるペーパーシャッフルにどう結びつくのか。
ED:淋しい熱帯魚(恵&麻耶バージョン)
Cクラスは変わり始めています。果たしてどうなるのか?
次回から毎週月曜日に投稿しますので、宜しくお願いします!
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