バイトをクビになった貧乏大学生の俺、ゴミ置場で口癖が(のじゃ)な巨乳金髪美少女龍を拾って育てられる 作:冰藍雷夏
警察署を出てから俺たちは無言だった。
お互《たが》いに適切な距離を取りながら、必中必殺の攻撃をいつでも放てるように用心深く観察し合っている。
「警察署を出た途端にその殺意は止めてくんないか? これでも俺はあんたの恩人だろう?」
「つっ! な、何が恩人? 貴方に負けたせいで私は組織をクビになった! 毎月ブランド物の魔女服を買い揃えていたせいで貯金もないし。今頃は組織に部屋を処分されてるから帰る場所がなくなったのは全部貴方のせい! 責任取って!」
うるさい。あまりにもうるさい。この魔女っ子。
「お前さぁ、人から超わがままとか言われない? 俺、お前に半殺しにされかけたの? なんでそんな女の子を俺が養わないといけないわけよ?」
「……行くところがなくなったの」
「それはもう聞いた。勤めていた会社をクビになったんだろう? ドンマイそれじゃあな」
これ以上変な女の子の知り合いは増やしたくない、ただでさえ俺の部屋にはいつもテンション高めなドラゴン娘が駐屯してんだかんな。
「そ、それじゃあな、じゃない! 養って! 貴方のせいで″秘匿管理局″をクビになった私を養って!」
「手を掴むな! ていうか、クビになったんなら俺を半殺しにしなくてもいいってことだよな? それなら今後は金輪際会わないようにしてくれ」
「やだ! 貴方、私のダーリンだよ。別れたくない、離れたくないの」
「誰がダーリンだ! 赤の他人だろうが!」
あー、この感じ。完璧にあれだ関わっちゃいけないタイプの魔女っ子コスプレイヤーだわ。
このタイプはめんどくさい。
うちのアルビオンはここまでしつこくなかったぞ。毎日、ドラゴンテールなる自傷料理で俺の腹を自給自足で賄ってくれるしな。
「……あ、俺思ったよりもアルのこと好きになってるな」
「は? 浮気? 彼女の前で別の女の子の名前言うとかあり得ないよ。ダーリン」
「誰がダーリンだ! 魔女っ子。つうかさぁ、お前どこの会社クビになったんだよ? どんだけブラックな職場…」
「秘匿管理局」
「秘匿……?」
その組織の名を聞いた時、俺は一瞬だけ思考が停止した。
『秘匿管理局』
世界のあらゆる黒歴史を調べ、時には隠匿する闇の組織。表の顔はたしか世界的な財閥だっただろうか?
かつてお爺様が所属し、組織最高位である元帥の地位にまで出世したと自慢していたのを今でも覚えている。
そしてその組織は俺が入ることを希望し、右肩の深傷を負ったせいで入ることを断念した組織だった。
「そんなすごい組織にこんなアホ魔女が所属できるのか? あり得ないだろう」
「……それって私を馬鹿にしてる?」
「いや、これまでの全ての行動がアホの子だろう」
「な! それがこれからも自分の家で養う彼女に対する言い方なの? ダ〜リン!」
俺の服を掴むと顔を近づけてプンスカ怒り始めたアホ魔女。とりあえず、再会した時の殺気は消えているので無害だと判断。
何かしてくるようなら龍爪で喉元に爪を突き立てようとしたが止めた。
「……少し待ってろ。色々と呼ぶから、それでなんとかお前の養い先を探してやる」
「いや、それはダーリンが私を養って……え?」
俺はスマホで悪友をとある場所に呼び出し、アホの使い魔アルビオンをボロアパートに迎えに行き、ファミリーレストランのカストに人を集めた。
ちなみにアホ魔女……蒼い魔女の名前は
「蒼い流星と呼んで、ダーリン」
ごちんっ!
「……うぅ、ごめんなさい。本名はフルー・ブルームーン。組織に所属していた時のコードネームは「蒼月」」
らしい。
アルと遭遇した時は、両方から「誰じゃ、この魔女っ子は?」ごちんっ! 「ダーリン! この龍姫が全ての原因なの! 許せない」ごちんっ!
周囲に人が居るのに騒がしかったので鉄拳制裁。その後はカストでフルーツジャンボパフェを2人に食べさせたら大人しくなった。
◇
先にカストに着いたのは俺たち。
そして少ししてから悪友が姿を現した。
「ハロ、ハロ~! 竜籠君。お待たせ~!」
「な! なんじゃ、わらわ以上に整えられた艶やかロングな金髪。包容力をくすぐる華奢な身体。完璧過ぎる化粧をする可愛らしいおなごは何者じゃ? ご主人様よう! 新しいご主人様のメイドなのじゃ? そんなのすでにわらわがおるじゃろう! 新米メイドはいらんのじゃ…」
ごちんっ!
「う、浮気? ダーリンまた浮気なの? フルーって言う養うべき彼女がいながらに浮気なんて絶対に許せない! ダーリン、床に正座を…」
ごちんっ!
「「痛い……」のじゃ」
「うるさい。食事している人たちに迷惑だろう。2人とも大人しくパフェ食ってろ」
「「……あい、ごめんなさいなのじゃ」ごめんなさい」
「アハハハ、相変わらず賑やかだね。竜籠君。何かのお祭り?」
「違う。それよりも電話で頼んでたのできたか?」
「あ、うん! できてるよ。それよりも先に自己紹介し合わないと駄目じゃない? こんにちは~!
「び、美少女なのじゃ」
「私のダーリンがすでに浮気していた?」
何言ってんだこいつら?
「違う。愛莉は男だ。学生をやりながら……えっとなんだ? 今は何のアルバイトしてんだ?」
「この容姿で男の子じゃとおぉ!?」
「男の子なの? ダーリンの男? ダーリンにそっちの趣味があったの?」
あー、うるさい。だから店内で静かにしてくれ。
「表のお仕事は情報屋さんと探偵、裏のお仕事は結婚詐欺師かな? うちは家が貧乏だからボクが稼がないといけないからね大変なんだ」
「お、おぉ、家が、か。それは大変じゃのう。頑張るのじゃぞ。愛莉」
「……そうなの。家が、それは大変なのね。頑張って愛莉さん」
「え? う、うん。ありがとう~! それでこの人たち誰なの? 竜籠君。君の新しいセフ…」
ごちんっ!
これ以上は話が脱線すると思い、悪友に食事を奢ることで黙らせた。
「えーとね。奥多摩の辺境にある「龍人の里」から龍姫が脱走したんだって」
「ギクッなのじゃ!」
奥多摩? アルの故郷東京内じゃねえか。
「後ね。秘匿管理局の平社員枠が昨日から空いて、アルバイト数名募集の求人票が裏サイトに張られてたよ。なんでだろうね?」
「ギクッ!」
……このアホの魔女。マジで秘匿管理局クビになってんのかよ。ということは――――
「フルー、お前マジもんの失業者だったのか? やばいな」
「……うん。だから私に居住地を提供してよ、ダーリン」
俺はこの日初めて、アホの魔女に同情した。
◇
都内某所・秘匿管理局第一師団局室。
「教授、良かったですか? フルーちゃんを勝手にクビにしちゃって?」
「ええ、わっちのテリトリーで暴れたんです。当然の報い。それよりも、昨日新発見された「水晶虎」の素材はいずこに?」
「調査中ですよ。なんでも、見つけた人間の許可が取れ次第にどこぞかの大学に運び込んで加工するって、情報屋君が」
「へ~! それは欲しいどすな~! 未知なる宝石はわっちの大好物でありんす」
◎ここまでお読み頂きありがとうございます!
「エヘヘ、竜籠君の奢りで食べるお料理美味しいね」
「おう、そうか。可愛く言ってもお代わりはでないぞ。来週暮らすための金が底をつく」
「え~! いいじゃん! すみません~! フルーツジャンボパフェお代わり2つお願いします~!」
「あ! こら! 止めろ! 俺が破産するわ!」