花ちゃん先輩に『逆さまの歌』を探して欲しいと頼んでから、僕はなるべく吟と一緒に行動していた。
「はぁ…」
吟はあの日から、ずっとため息を吐く日を過ごしていた。
「吟」
「…綾羽…何か用…?」
「おお…随分とやつれてるなぁ…」
明らかに元気がないのが分かった。
「だって…逆さまの歌が無かった…だから、私があそこに居る意味なんてない…はぁ…」
花ちゃん先輩…本当にお願いしますよ…今の吟をなんとか出来るのは花ちゃん先輩だけ…だと思うから…
それから数日後。花ちゃん先輩から連絡が入った。
『逆さまの歌』を見つけたという物だった。
そして、吟を連れて部室に来て欲しいというメッセージも付けて。
「吟」
「今日は何…」
「花ちゃん先輩が吟と話がしたいって」
僕はそう言って、吟に花ちゃん先輩とのメッセージを見せる。
「分かった」
そして、吟を引き連れて部室までやってきた。
吟が先に部室に入り、続けて僕も入った。
「吟子ちゃん!来てくれたんだ」
「…話がしたいと言われたら、私も、いろいろと迷惑をかけたし」
「迷惑なんて、そんなことないよ、でも、ありがとうね」
「…それで、なんの話?スクールアイドルのことなら、もうきっぱり言ったはずだけど」
「あのね、見つかったんだ。吟子ちゃんのおばあちゃんが……吟子ちゃんが、大好きだった曲が」
花ちゃん先輩がそう言うと、吟は驚きの表情を浮かべた。
「吟子ちゃんのおばあちゃんが…吟子ちゃんが、大好きだった曲が」
やっぱりあったんだ。50年経っている今でも
「『逆さまの歌』、今に伝わってる名前は、こう。あたしが、スリーズブーケになれた後、初めて歌った曲。あたしの大好きな歌。50年の月日の中で、歌詞やメロディ、タイトルを少しずつ変えながら、でも、たしかに今に続いてた。そのタイトルは――『
花ちゃん先輩はそう言って、先輩本人も言っていたが、キーボードで慣れない手つきながらもその曲を演奏してくれた。そして、花ちゃん先輩が歌い終わると。
でも、その曲は僕や吟が知ってる曲とは全然違うものだった。
「そんな…そんなの…ぜんぜん違う!歌詞も違う、メロディも違う、タイトルも違う。おばあちゃんの愛した曲じゃない!別物だよ!」
「……そうかもね」
花ちゃん先輩がそう言うと、吟は戸惑いを隠せなかった。
「最初にあった曲が、長い年月をかけて、少しずつ変わっていって、今じゃタイトルも違う。残ってる部分のほうが少ないかも。あたしは同じ曲だと思うけど…吟子ちゃん、綾羽君にとっては、違うかもしれない」
「だったら……」
「でも、思うんだ。それでもこの曲が今も伝わってるのは、みんな、この曲が大好きだったからだ、って」
花ちゃん先輩がそう言うと、吟はハッとした。
「最初に逆さまの歌を変えた子は、この曲をもっと素敵な歌にしようと。がんばったんだよ。頭を悩ませて、一生懸命。次の子も、その次の子も、ずっとずっと、この曲は、ただ変わったんじゃない。スクールアイドルの、積み重なった想いで、姿と形を変えていったんだ!」
花ちゃん先輩は、吟の目をまっすぐ見てそう言った。
「吟子ちゃんのおばあちゃんが愛した曲は、誰も忘れてなんかいない。こんなにもたくさんの人に愛されて、今に繋がってるんだよ」
「おばあちゃん……」
花ちゃん先輩の言葉を聞いて、吟もだと思うが。吟のおばあちゃんが話してくれた当時の話を思い出した。
「スクールアイドルだって、おんなじ。あたしはそう思う。時代が変わっても、人が変わってもね。蓮ノ空で過ごすみんなの気持ちは、一緒だよ。あたしがセンパイから教わって、センパイがそのまたセンパイから教わって………。泣いたり笑ったりを繰り返して、みんな、今を駆け抜けてきたんだ!」
「それが、芸楽部の魂ってことじゃないかな!」
「…なんで、なんでですか、先輩…どうして私に、ここまでしてくれるんですか…ただの、知り合ったばかりの後輩のために、こんなに……」
吟は花ちゃん先輩にそう聞いた。
「ある人にお願いされたんだ、『逆さまの歌』を探して欲しいって、それに、あたし、先輩だもん!」
花ちゃん先輩は僕の事を見てそう言った。
先輩…こっち見ながら言われるとバレちゃうよ…
「それに、吟子ちゃんみたいな子を笑顔にしたくて、あたしはスクールアイドルをしてるんだよ。それがあたしにとっての。花咲くってことだから。……ね、吟子ちゃん。ここは、ちゃんと吟子ちゃんの知ってる芸楽部だよ。だからもう、大丈夫。心配いらないよ。なんだって、できるんだよ! だから……その上で、もし吟子ちゃんがスクールアイドルをしたいんだったら、一緒にやろうよ! スリーズブーケ!ぜったい、楽しませてみせるから!」
花ちゃん先輩はそう言って、吟に手を差し伸べてくれた。
「一緒に、想いを未来に届けよう!吟子ちゃん!」
そして、吟は花ちゃん先輩の手を取った。
「はい。よろしくお願いします…………私の、先輩」
吟はそのまま花ちゃん先輩に抱き着いた。
-幕間-
「めぐちゃん居るのか…」
「あれっ?嬉しくないの?」
「ルリちゃん先輩…そういう訳じゃないんですけど…昔、作曲を頼まれた事があって…色々とあって断った事が_」
「あーなるほど。めぐちゃん多分気にしてないよ」
「だと良いんですけど…」
翌日
「綾羽!!あの時はよくも、めぐちゃんのお願いを断りやがって!!」
「やっぱり根に持ってた!!」