吾輩は魔王である。実は魔王と側近は全員兄弟である。
大魔王ルシフェル。現存する原初の魔王の片割れ。
数万年の時を生き、最も多くの人間を死に追いやった魔王の中の魔王である
魔王が操る固有魔法の大半は彼が作り出した物であり、龍脈を通じた魔王同士のコミュニティも彼が考案者である。
《私は今とても感動しているよ。数えるのが億劫になる程の年月を生きてきたけれど、龍脈を通じた念話で配下の名前を相談されたのなんて初めてだ》
「ふむ、いかに魔王といえど停滞は衰退と同義であるぞ、大魔王ルシフェル。世界に置いていかれぬよう、常に新しい事に挑戦しなくてはな。吾輩の様に」
《あぁ、うん。そうだね。肝に銘じておくよ》
一度魔力を繋いでしまえば、龍脈から離れたとしても念話は使える。
この念話によって、魔王は世界中の情報を瞬時に他の魔王に共有する事ができ、勇者や古代竜の動きに直ぐ対応する事が出来るのである。
《配下の名前も大事だけれど、人間達の動きにも気を配っているかい?信者達からの情報も不確定だけど、帝国は思ったよりティノール連峰の攻略に本気な様だよ》
「竜種の邪魔さえ入らなければ人間共など恐るるに足らん。・・・モヒカンというのは如何であるか?」
《あぁ、良い名前だと思うよ。・・・まぁ、勇者達に動きは無いらしいし大丈夫か。ティノール連峰には古代竜は何匹いるんだい?》
「年若いコキュートスが一匹だけである。急いて殺しに行く必要はあるまい。・・・・面倒だな。ゾーマで良いか」
《危ない。その名前は危ないよ》
竜種に寿命は無い。故に放置すれば殺した相手の魂を溜め込み続け、魂の循環を滞らせる。特に上位竜以上ともなれば碌な天敵もおらぬ故、定期的に間引く必要がある。
我々魔王の重要な仕事の一つであるな。
「文句を言うのであれば貴殿も意見を出せ。何のために念話をしているのかわからぬでは無いか」
《はぁ・・・、そうだね。マステマ、なんてどうだい?神の御使いたる魔王の配下に相応しい名前だと思うけど》
「ダサいな」
《君って奴は本当に・・・・》
大魔王ルシフェルとの念話を打ち切り、新しく進化したオーガ達を焚火の前に並ばせる。
「マステマ、サマエル。モヒカンにアフロ。これが貴様等の名前である。その名に恥じぬ様、励めよ。オーガ共」
「ぶびゃぁあ!」
「おーがにっく」
「ぱっびっぶぺっぽおっ!」
「オガァ!??」
進化して更に騒がしくなったオーガ共の鳴き声を聞き流しつつ、明日以降の探索の組分けを思案する。
遠距離攻撃が可能な、吾輩と二号は分けるとして残りをどうするか。ホブゴブリン共は吾輩達が五匹、二号側が四匹で良いとして、一号と二号を組ませるべきか、吾輩が一号と組み二号にはマステマ達四匹の面倒を見させるか。
ブルーブラッドアイデクスを貪る一号と二号に目を向ける。
一号は肉に飽きたのか、少し遠くでアイデクスの腹に頭を突っ込み、血に塗れながら生の内臓を貪っている。流石知力二十、行動に知性を感じぬ。
反対に二号は吾輩達の直ぐ側で、頭に被っている鹿の頭蓋を少しずらし、汚れが付かぬ様、火を通したアイデクスの肉を少しずつ食べている。
これが知力二百超えの力よ。そろそろ吾輩も抜かされそうでビビっておる。
などと、下らぬ事を考えていると、突然二号が杖槍を手に取り立ち上がる。
吾輩の下らぬ思考を読み取られたのかと、焦りながら素知らぬ顔をしていると、二号が口を開く。
「・・・キサマ、見テイルナ・・・!」
「む?どうした、二号。新手の病気であ「【ホーリー・バインド】へあぁあ!?!?」
二号の頭を心配していると、木々の間から光り輝く鎖が完全に気を抜いていた吾輩に向かって飛んでくる。魔物を縛り上げる事に特化した魔法だ。例え吾輩でも数秒は動きを阻害される。
しかし、魔法が吾輩に届く前にモヒカンが近くに居たアフロを魔法の軌道上に蹴り飛ばした。吾輩の身代わりとなり魔法で縛り上げられたアフロを尻目に、魔法の出所へ目をやる。
「角、肌の色、身長、情報通りです。件の上位魔族かと」
「うーん、本当に会っちゃったかぁ」
「でも取り巻きってホブゴブリンだけじゃなかったかしら?オーガどころかあっちの骨の子、喋ってたわよ?」
「見た事無いタイプだけど、下位魔族かなぁ?魔族二匹は面倒くさいなぁ」
「どうする、グラム。逃げるなら今の内だぞ」
人間三人に獣人が一人。冒険者か。
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名前: グラム・ゲルム
種族: 人間
Lv: 52
HP: 1945
MP:1024/1119
STR: 738
DEF: 493
INT: 712
AGI: 1211
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強いな。
取り巻き共は前に遭遇した人間共とそう差は無い。一号達でも時間稼ぎくらいは出来よう。だが、奴が暴れれば吾輩以外は瞬きの間に皆殺しにされるであろう。
モヒカンがアフロを盾としてくれて助かった。もしも吾輩が【ホーリー・バインド】を食らっていれば、魔法を打ち破る迄のニ、三秒で皆殺しにされていたであろう。
だが、
「いや、殺しちゃお。最近金欠だったし丁度良ッ「ふん」ぐぁ!!」
「ッグラム!!!」
吾輩に姿を見せた時点で詰みである。
人間共の目には吾輩が瞬間移動した様に見えているだろう。それ程までに能力値に差がある。この者は人間共の中では、いや全生物の中でもかなりの強者なのであろうが相手が悪い。吾輩は魔王である、この世界の頂点。最強の個たる魔王なのだ。
だが、ふむ。
良い防具だ。古代竜の鱗が使われておるな。此奴等が古代竜を討伐出来るとは思えぬ故、恐らくは過去の勇者か、英雄の遺物であろうな。本気で殴ったわけでは無いが、命を絶てなんだ。
「【ダブルチェイン・ホーリー・バイン「【ヘル・ファイア】」キャァァァァア!!!!」
「ットネリ!!クリスタルを割れ!!『無双連打』ァアハブァッ!!」
上裸の男のスキルにカウンターを合わせる。
これで三人。
後は、獣人の娘のみであるな。身の捌き方からして斥候か。この状況では大した抵抗も出来なかろう。
配下の安全の為グラムは殺すが、他の三人は生かして連れ帰る。旅は中止になってしまうが仕方あるまい。
大魔王ルシフェルでさえ、ティノール連峰や周囲の街に関する情報は集めきれていなかった。ならば当事者たる人間共に聞くのが手っ取り早いであろう。
パリンッ
「?自棄にでもなったか娘。安心せよ、吾輩は獣人を殺すつもりはない。情報を喋りさえすれば故郷に送ってやる。少し時間は掛かるやも知れんがな」
何かを地面に叩きつけた獣人の娘に吾輩は声を掛ける。
我々魔王には創造主たるダシテム様により、生み出された瞬間から人間共に対する憎悪が刻まれている。
だが、獣人はその憎悪の対象に含まれぬ。自然と共に生き、自然と共に死ぬ。そんな獣人は寧ろ、魔王にとって守るべき循環の一つと言ってもかご「【ホーリー・バインド】ォ!!!」あっ。
「主ヨ!!!【マニュピレイト・エア】ァァァア!!!」
「ぐぅぅう!!」
魔を憎む光によって縛り上げられ、漸く気付いた。空間に歪みが生まれている。
獣人の娘が割ったのは魔封じのクリスタルであろう。それも恐らく空間転移の類か。
だが、空間転移にしても魔封じのクリスタルにしても。扱えるのは魔王の中でも一部だけだ。吾輩は出来ない。
・・・ふむ。
吾輩の拘束に合わせて、オーガやホブゴブリン共が武器を振り翳し駆け出す。が、無意味であろう。空間転移が始まった時点で人間共の実体は虚数空間にある。今見えている人間共の身体は、陽炎に過ぎない。こうなってしまえば吾輩でも手を出せぬ。
逃げられたな。
拘束を打ち破り、状況を確認する。
此方側に被害はない。
だが、重要な情報源に逃げられ、与えた被害も精々が古代竜の鎧を打ち砕いた程度。本来なら魔王としては敗北に近い結果である。
だがしかし、吾輩はそれ等を凌駕する一つの情報を得た。今回はそれで十分であろう。
我々魔王の中に裏切り者がいる。