吾輩は魔王である。だが魔法は不得手だ。
あの後、残った魔力でもう一匹ゴブリンを生み出した。
これからはあのニゴブを元に【クリエイト・モンスター】の影響を受けないゴブリンを量産し労働力を確保する為である。
しかし、いくらゴブリンの繁殖力が高いといっても次代が産まれるまでは10日程かかる故、ティノール連峰の地理の把握序でに、野生の魔物を支配下に置こうと哨戒に出たは良いのだが、
「【ヘル・ファイア】」
「があァァァアああ!!!!」
吾輩の放てる最高火力の魔法を3発受け、三メートル程あるトカゲ型の魔物はようやく倒れた。
「流石は竜種の支配権。魔王たる吾輩にすらそう易々とは靡かぬか」
「その様ですね。竜種の眷属に近い爬虫類型はともかく、獣型や鬼種の類まで歯向かってくるとは・・・。」
「ふん、奴らの遺伝子には竜種に対する絶対の恐怖が刻み込まれてるのであろう。それこそ、数百、数千年にわたる恐怖がな」
やはり、魔法によって労働力を賄う、という考えは正しかった。洞穴を出て6日目、未だ配下に加わった魔物は居ない。どの魔物も最初は恐怖に顔を歪ませるも、吾輩が魔王、つまり竜種と敵対している事を知ると死に物狂いで襲いかかって来おる。
竜種が君臨している間は、このティノール連峰での配下集めは困難であろうな。
それよりも気がかりなのは
「思っていたより人間共の砦が近い。これは思っていたより時間を掛けられぬ」
山々の麓に僅かに広がるノーブルの森。そこから数キロも離れない距離に見るからに頑強な砦が等間隔に幾つも並んでおる。
おそらく、吾輩の【ヘル・ファイア】でも碌な傷を付けられぬであろう。
さらにその向こうの平野に目を向ければ、かなり遠いがそこそこな規模の街が見える。
「人間と竜種、片方と争えばもう片方が横槍を入れて来るかと。」
「であるか。やはり、どちらを叩くにしても上位の鬼種の量産は必須であるな」
吾輩は身を翻し拠点である洞穴に向かい歩み始める。
予定より大分早いがニゴブが心配だ。愚かなゴブリンと言えど、今は戦力増強の唯一の生命線である。
「おや陛下、もうご帰宅なさるので?」
「うむ、人間共の拠点も確認できた上、魔物の支配が困難な事も判明した。これ以上外でできる事もあるまい」
次代のゴブリンが産まれるまでは自らの手で迷宮を拡大すればよい。そう暇になる事もなかろう。
さて、拠点はどっちだったか。
結局、拠点である洞穴に戻るのにさらに7日かかった。迷子ではない。
見逃している強大な魔物がいないかと警戒していたのだ。断じて迷子などではない。
洞穴を出てから十三日、終わってみれば当初の予定通りである。渓谷にある洞穴を見つけた我々は、何故か半泣きになりながら偽装のため、洞穴の入り口を覆っていた土を崩す。
洞穴の中には地獄が広がっていた。
迷子など児戯にも等しいのだと。
人類など、竜種など、障害たり得ないのだと。
吾輩は本当の絶望を知った。
床一面に糞尿が撒き散らされ、その中で二匹のゴブリンが糞尿に塗れながらイビキをかいている。
壁には謎の白濁とした液体が塗りたくられ虫が這い回る。
洞穴の奥には洞穴を出る前に放り込んだ魔獣の死骸に八匹の子ゴブリンが群がりその腐肉を貪っている。
まざまざと見せつけられる。
吾輩と側近が丸一日かけて作った聖域はもうこの世には存在しないのだと。
この世界に救いはない。
明日も読んでね('ω')ノ