吾輩は魔王である。名前はまだない。   作:逆ギレ伯爵

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えっほえっほ('ω')ノ


とある街の話

走る、走る。脇目も振らず、森の中を疾走する。

 

「畜生ッ、すまないローナ・・・!シェイン・・・!」

 

こんな筈ではなかった。クレアの持つ魔法は相手の魔力量を測り、それを元に大体の強さがわかる。唯の中級魔族の筈だった。角の形状からバフォメット系統、直接戦闘型では無く、呪いや精神操作で暗躍するタイプ。ホブゴブリンを幾匹か連れてはいたが、俺たち四人なら者の数ではない、筈だったんだ。

 

「・・・あ、れ?アス、タ?」

「っ!大丈夫だクレア、直ぐに森を抜ける!そうすればあの魔族も追ってこれない筈だ!」

「・・・あ、だめ!ローナとシェインさんが!!」

「我儘言うな!!今シェインが命懸けで俺たちの逃げる時間を稼いでくれてるんだ!あいつを無駄死にさせる気か!?」

 

八つ当たりだ。そもそもギルドでは魔族を発見した時はまず撤退が推奨されている。

魔物と違い、見た目での強さの違いが分かりにくい上に知力が高い為、一度撤退し情報を共有することがセオリーだ。

それでも俺は戦いを選んだ。中級魔族なら二度討伐経験があったし、後方支援ではあったが上位竜種の討伐にも参加した事がある。

要は慢心していたんだ。他の冒険者たちとは違うと、僕達なら勝てるって、その結果がこれだ。

 

「ごめんッ、ごめんッ・・・・!」

「アスタ・・・」

 

強化魔法で軋む体に鞭を打ち、五分ほど走り続けた所で漸く森を出ることができた。

ここまで来れば砦の上に常駐している見張りの兵士に助けを求めることができる。

 

「二時の方向!!何か出たぞ!」

「あれは・・・、人だ!大丈夫、冒険者だ!」

 

極限の緊張感の中走り続けたせいか、それとも強化魔法を重ね掛けした副作用か、俺の記憶はそこまでだ。

 

 

 

ツンッと鼻を付く薬草の香りで目を覚ます。

真っ白なベッドに横たわりながら、周りを見回す。白い天井に白い壁、窓から入る光に照らされる白いドレスを纏った美しい女性の肖像画。どうやら、ここは教会らしい。

 

いくら信心深いこの国でも、流石に砦の中に教会はないだろう。という事は俺は気を失った後、カラインの街まで運ばれたらしい。

魔族から逃げ切れたという事実にホッとする反面、ローナの頭が潰された瞬間を思い出し絶望に押しつぶされそうになる。それにシェインも、あの魔族相手じゃぁ・・・。

 

「畜生ッ・・・、畜生ッ!!!」

 

ベッド脇に置いてあったサイドテーブルを、力任せに投げつける。上に乗っていた花瓶は床に落ちて割れ、木製のテーブルは壁に当たって砕け散る。

 

「何が・・・、何がリーダーだ・・・」

「良かった、お目覚めになったのですね。」

 

いつからそこにいたのか、真っ白な修道服に身を包んだシスターが、開け放たれた扉の前に立っていた。

 

「このまま起きないのではないかと、皆心配していたのですよ。お仲間の方を呼んできますね。」

 

仲間、そうだ。

 

「クレア!クレアは無事なんですか!?」

「えぇ、もちろん。ずーっと貴方の看病をしてらしたのですよ?流石に体力の限界だった様で今は別の部屋でお休みになっています。」

 

良かった・・・!クレアまで失っていたら俺は・・・!

 

「うふふ、でもその前にお食事にしましょう。ポリッジを用意しますね。食欲は無いかもしれないですけどしっかり食べて下さいね。丸二日間何も食べてないのですから。」

「二日、そんなに・・・」

「えぇ、体を動かすのも億劫な筈、何ですけれどね・・・。」

 

シスターが割れた花瓶と砕けたサイドテーブルに視線を向けながら言う。

 

「あっ、すみません!弁償させて下さい!」

「いえ大丈夫ですよ。これでも仲間を失う苦しみは分かっているつもりなので。で・す・が、本調子で無いのは事実なので絶対安静!分かりましたね?」

「はい、申し訳ないです・・・」

 

うふふ。と微笑みながらシスターは部屋を出ていく。

絶対安静・・・か、本当なら今直ぐにでもノーブルの森に戻ってあの魔族を殺したい。それが叶わなくてもせめて、二人の遺体だけでも。

でも、今の俺が一人で向かっても何も出来ず死ぬだけだろう。森自体にはそこまで強力な魔物は居ないが、たまにティノール連峰から強大な魔物が迷い込んでくることがある。

そんな所にこんなコンディションで挑むわけにもいかない。

仇を討つにしても、諦めて別の街に拠点を移すにしても、まずは体調を戻してからだ。

 

落ち着け。焦るな。大丈夫だ。

俺はまだ・・・、戦える。

 

 

 

 

「あすだぁぁあ!!!!!」

「グバァッ!!」

「よがっだ!よがっだよぉぉお!!!!!じんじゃうかとおもったぁ!!!!だぃじょうぶ!?!!?いだいどころなぃ!?」

「・・・今なかなかの致命傷を受けたが、大丈夫だよ心配かけて悪かった」

 

シスターが持ってきてくれたポリッジを無理矢理腹に詰め込んでいたら、俺の目覚めを聞いたらしいクレアが扉を蹴破った勢いそのまま、ベッドに飛び込んできた。

あぁ、ほら。俺が壊した花瓶とサイドテーブルを掃除していたシスターさんが、吹き飛んだ扉とひっくり返ったポリッジを見てすごい顔になってる。スッゲェ怖い。滅茶苦茶笑顔なのにスッゲェ怖い。

 

「ほっほっほっ、・・・うぉッ!・・・あー、シスター。あとは儂がやっとくから、少し席を外してもらえるかね。少し彼等に話があるのでね」

 

扉の無くなったドア枠から、三人の男性が入って来た。一人目はいかにも好好爺といった風貌の老人、二人目は素人目にも高そうなのが伝わる豪華な服に身を包んだ厳格そうな壮年の男性、最後は知ってる人だ。ここカラインの冒険者ギルドにおける副長、ダッカルさんだ。

 

シスターは老人の言葉に静かに頭を下げ、何も言わずに部屋を出ていく。

あれ多分怒ってるよな・・・、後でもう一回謝っとこ・・・。

 

「さて、アスタくん。今回は災難だったね。気休めにもならないだろうけど、未確認の上位魔族との遭遇、及びその情報を持ち帰ったことによる褒賞は色をつけておくよ。」

「・・・ありがとうございます。ダッカルさん」

「それと、ギルドで預かっている遺書により、ローナくんは全財産を君に。シェインくんも財産の半分を君とクレアくんに譲る事になっている。動ける様になったらギルドに来てくれ。色々と手続きがあるのでね。」

 

俺達冒険者はいつ死ぬかわからない。だから、ギルドに遺書を預かってもらう事ができる。

俺とローナは同じ村の出身だ。その村も既にない、と言うか俺とローナ以外みんな死んでる。だからまぁ、俺もローナも死んだら相手に遺産を残すのは決めてた。

だが、シェインは顔の広い奴だ。いい雰囲気の受付嬢やら娼婦やらいっぱいいるだろうに、半分も俺たちに残すなんて・・・、いつまで兄貴分面してんだよ・・・。

 

「男が人前で涙を見せるものじゃない。ましてや戦う男が。」

「ロクスタイン殿、彼は仲間を失ったばかりですよ。それに貴方の部下では無いのですから、あまり厳しい事を言わないで頂きたい。」

「これは男としての心構えの話だよ、ダッカル殿。そこに騎士も冒険者も関係ないだろう。」

 

壮年の男性は、ロクスタインというらしい。話の内容から、おそらく騎士団のお偉いさんだろう。

俺も男だ、騎士に憧れはある。でも、直接関わるってなると苦手なんだよなぁ・・・。騎士って大半は貴族出身だし、冒険者に比べると決まりが多くて堅っ苦しい。

まぁ、冒険者よりも自由な職業なんて盗賊ぐらいだろうけど。

 

「まぁまぁ、おやめなさいって二人とも。大の大人が人前で喧嘩なんて。みっともないよ?」

「はっ、申し訳ありません。」

「喧嘩ではありませんよ、トロシフ大司教。唯の後人への助言です。」

 

トロシフ大司教。とんでもない大物が出て来たな。ロクスタインもおそらく貴族ではあるのだろうが、大司教は格が違う。

この辺で彼と対等に話せるのなんて、此処ら一帯を治める伯爵くらいの物だろう。

 

「見苦しいところを見せて申し訳ないね、アスタ君。儂はこの地区を担当している大司教、トロシフという。気軽におじいちゃんって呼んで?」

「やめて下さい大司教。ウチの冒険者を困らさないで下さい。」

「あー、アスタと言ったな。私はロクスタイン。この街の副騎士団長を務めている。仲間を失う辛さは私もよく分かる。だが、泣いているだけでは何も解決しない。先に逝った仲間の為にも自分にできる事をやりなさい。」

 

良い人・・・なんだろうな、不器用なだけで。

少し刺々しく感じなくも無いが、俺を見る目にはこちらを気遣っているのが見える。

多分、彼なりに励ましてくれてるのだろう。

 

「あー、はい。ありがとうございます。それとすみません。皆様は立っているのに俺はこんな格好で・・・」

「気にしなくて良い。今は公式の場でも人目があるわけでも無い。それに、怪我人に無理矢理礼を尽くさせるのは騎士道に反する。」

 

でもやっぱり苦手だなぁ。騎士様、と言うかお貴族様のこの堅っ苦しい感じ。

 

「うむ、自己紹介が済んだところで本題に入ろうか!クレア君にはもう話を聞いたんだがね、アスタ君の口からも聞いておきたいんだ、君達が遭遇したって言う上級魔族の事をね」

 

 

 

 

貴族街に向かう馬車中、二人の男が向き合っていた。

 

「アスタ、か。なかなか礼儀正しい子じゃ無いか、ダッカル。冒険者にもまともな奴は居るんだな」

「失礼な奴だな・・・、そりゃ冒険者も人間だ、まともな奴もいれば、いかれてる奴もいる。騎士団にだって変なのはいるだろう?お宅の団長とか」

「団長はなぁ・・・、悪い人じゃ無いんだがな・・・」

「その反応が全てを物語ってるぞ。ロクスタイン」

 

方や男爵家出身の副騎士団長、方や農村生まれのギルド副長。生まれも立場も全く違う二人だが、二十年前に起こった、魔王単騎による帝都襲撃以来の古い戦友である。

 

公式の場では啀み合う事も多いが、人目が無ければ立場を超えた軽口を叩く程度にはお互いを信頼している。

 

「それにしても、ティノール連峰に魔族か、それも上位の」

「やはりギルドの方にも記録はないのか?」

「騎士団が把握してない魔族の情報をギルドが持ってるわけないだろう?トロシフ大司教の反応からして、教会にも碌な情報はないだろうし」

「完全に未確認の上位魔族か・・・、やはり魔王か・・・?」

「可能性はある。あるが・・・、上位魔族を従えるほど成長した魔王の痕跡が見つかってないのが気になる。それも、敵対する竜種の領域で」

「ダシテム様の天啓でもあれば楽なんだがなぁ」

「聖神様の?・・・あぁ、聖女様だけが聞けるってあれか」

 

この世界に宗教戦争は存在しない。

その理由が聖神ダシテム、この世界における最高神。

数ある神話、数ある宗教。一神教に多神教。はては民間伝承まで。どんなお伽話であろうとも、神が登場する噺であれば必ず最高神として崇められている存在。

何故なのか、それはダシテムが世界で唯一実在が確認されている神だからである。

 

聖女、巫女、尼僧、聖娼。

国や文化によって呼び方の違いはあれど、ダシテムの声を聞き民を導く存在が世界中に存在する。

だからこそこの世界の人間は、考え方の違う他者をダシテムの名の下に受け入れる事が出来る。

 

「と言うことは、トロシフ大司教程度に向かったのは聖女様に天啓の有無を尋ねる為か」

「まぁ、それもあるだろうがな。だが、この時期にティノール連峰に新しい魔王が居る可能性が出て来たのなら別の目的も考えられる」

「・・・含みのある言い方だな、騎士様方は何か特別な情報でもお持ちなので?」

「・・・まぁ、そのうち冒険者ギルドにも通達は行くか。八年前、竜魔王ゴラムが討伐されたのは覚えてるだろ?」

「勿論、数十年振りの名持ちの魔王の討伐だ。帝国中、いや世界中がお祭り騒ぎだったよ」

「あぁ、実はその時ゴラムの迷宮(ダンジョン)から竜を制御する魔道具が見つかっていたらしい」

「・・・まさか、数年前に帝国がティノール連峰の開拓に舵を切ったのって・・・」

「研究がどこまで進んでいるのかは知らないが、その魔道具を使ってやりたい事位は分かる」

 

 

 

「帝国は欲しいんだろうよ、単騎で魔王とやり合える唯一の存在」

 

古代龍(エンシェント・ドラゴン)が」




がおおお('ω')ノ
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