吾輩は魔王である。竜種の弱さに涙を禁じ得ない。
最初は恐る恐る攻撃していたニゴブも、レッサーワイバーンのトロさに気が付いたのか、今では動きを読み切った様に一方的に切り付けている。
レッサーワイバーンの全長は五メートル近い。今いるティノール連峰の中腹は、ノーブルの森程ではないが木々が疎に生えている。本来の竜種であれば木々を盾にしようと、それ諸共叩き潰されるがレッサーワイバーンにはそれ程の膂力はない。
平地であれば結果は変わったであろうが、森の中で戦いを挑んできた時点で結果は見えている。
だが腐っても竜か、思いの外時間がかかる。
その理由があれだ、何度目かになる二号の短槍がレッサーワイバーンの首に深い裂傷を刻む。
即死する程の深さでは無いが、そこらの魔物であれば数分で失血死するであろう傷だ。
だが数秒もしない内に、内側から肉が盛り上がり傷が無かったことになる。竜種が持つ再生力である。
竜種は魔力を消費することで身体を再生させることができる。人間共の使う回復魔法の様に傷を塞ぐのでは無く、文字通り
とは言え、現状で幾ら再生しようとも時間稼ぎにしかならぬ。
木々に阻まれその巨体を活かすことは出来ず、自慢の鱗も吾輩の作り出した武器によって容易に切り裂かれる。
かと言って、飛んで逃げようにも助走する平地はなく、地上ではホブゴブリンの方が早い。完全な手詰まりである。
「ガァァアア!!!」
ふむ、どうやら今になって自身の間違いに気付いた様だ。
恐慌状態に陥ったレッサーワイバーンが背を向け脇目も振らずに逃げて行く。滑稽であるな。竜種は賢く誇り高い魔物の筈なのだが。
逃げるレッサーワイバーンの脚を二号が串刺しにする。とは言え竜種、速度は落ちるが止まりはしない。だが、ここまでである。
攻撃も防御も考えず、此方を見ずに逃げる鈍足な獲物。これだけ条件が揃えば、ホブゴブリンであっても首を落とす事が出来る。
ズシンッ、という音と共に首の無いレッサーワイバーンの身体が他に伏せる。
幾ら再生できるとは言っても、即死させれば関係ない。上位竜種なら話は別であろうが、所詮はレッサーワイバーン。息の根は止まっているであろう。その証拠に、一号と二号の体を魔力が覆って行く。
進化が始まったのだ。
ニゴブの身体を完全に魔力が覆い、ホブゴブリン型の魔力の塊となる。すると次第に魔力が膨れ上がり、三メートル程の完全な球体になった。
この中で今身体を作り替えてあるのだろう。虫で言う蛹の様なものか。
だがそれも数秒、球形の魔力が少しずつ縮まり、人型に戻って行く。
「・・・?オーガではないのか」
一号の魔力は二メートル程の人型に収まって行く。恐らく、吾輩の予想通りオーガへと進化するのだろう。
だが問題は二号である。
身長は一号とさして変わらぬが、角が大き過ぎる。それもゴブリンやオーガの様な一本角ではなく、頭頂部辺りから2本、鹿の様に枝分かれした角だ。
「変異種・・・、にしても姿が違い過ぎる。完全な別種への進化とは珍しい。使える魔物で有れば良いが・・・」
魔物の進化は基本決まっている。ゴブリンがホブゴブリンに、そしてホブゴブリンがオーガに、と言った様に。
しかし、時折全く別の種に進化する個体がいる。それは、個体の才能であったり、趣味趣向であったり、理由は様々である。
しかし、二号は産まれてから一週間程、それも他のゴブリンとほぼ同じ行動しか取っていない筈。
何が二号を別種へと導いたのか・・・。
ニゴブ、いや、二匹の体を覆っていた魔力が色を失い、溶ける様に消えて行く。
先に姿を現したのは一号。
予想通りオーガである。筋肉に覆われた浅黒い身体、二メートル程の体躯に額から天を突く一本の角。口元には収まりきらなかった牙が光を反射し、眉間に刻まれた皺は見る者に恐怖を抱かせるのであろう。
まさに鬼の形相、といった風貌である。
「ごぶ!」
「もうゴブリンではなかろうが」
良いのか、その鳴き声で。
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名前: 一号
種族: オーガ
Lv: 1
HP: 194
MP: 26
STR: 91
DEF: 82
INT: 18
AGI: 76
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種族的にはティノールベアよりも少し強い程度か。
レベルを上げ二号と組ませれば、食料調達や子ゴブ共の子守りも任せられるであろう
そして問題は二号である。
顔には鹿の様な頭蓋骨を被り、表情は窺えない。その頭頂部からは枝分かれした角が2本此方を威嚇する様に聳え立つ。
身長は此方も二メートル程。オーガとは異なり、痩せ細った体に不釣り合いに長い手足。背中には灰色の毛がマントの様に生え揃い、腹や胸の一部まで覆っている。
と言うか雌だったのか貴様。
「随分、雰囲気が変わりおったな、二号。いめちぇん、というやつか?」
「・・・主ヨ私ニハソノ言葉の意味ハワカリマセン・・・」
しゃべった・・・・・、いや、別種とは言え変わりすぎであろう貴様。一号を見てみよ、驚き過ぎて面白い顔なっているではないか。
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名前: 二号
種族: ウェンディゴ
Lv: 1
HP: 67
MP: 183
STR: 20
DEF: 28
INT: 188
AGI: 49
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ウェンディゴ、人肉を好む森の精霊。
なるほど、前に食らった冒険者の肉が大層気に入っていた様だ。
更にこの偏った性能。元々ゴブリンの中では知力が高かったが、ここまで偏るとは。
進化した結果魔力と知力以外全て下がっている。
しかし、悪い事ではない。
二号を育てれば、吾輩と側近にしか出来ぬ壁の補強を手伝わせる事ができる上、一号との相性も良い。この二匹で有ればティノール連峰でも安定して狩りが出来るであろう。
うむ、思った以上の収穫だ。将来的にはこう言うこともあり得るとは思っていたが、まさか二匹目が別種の、それも今最も求めている魔法特化に進化するとは、幸運であった。
だが、今日はもう帰るべきであるな。帰り道でも少しはレベルも上がるであろうし、一号も、二号も進化したばかりで少し動きがぎこちない。
幸運とは続かぬ物。ここで思い上がり、二匹に無理をさせるわけにもいかぬ。
「帰るぞ、一号、二号。今日は体を馴染ませ、明日以降に備えよ」
「ごぶ!」
「・・・・・・ゴォブゥ」
一号に合わせる必要は無いのだぞ、二号。
明日は二匹のレベル上げを行い、それ以降は吾輩は同行せず一号と二号だけで探索に向かわせてみるか。近く産まれる子ゴブの面倒を見させる為にも二匹で戦う術を学んでもらわねばな。
拠点に戻ったら側近と相談をせねばな。二号を参考にすれば、今後生まれてくるゴブリンをウェンディゴに進化させる事も可能かもしれぬ。ウェンディゴの量産が出来れば
たのえ、ウェンディゴにならなくとも、色々ゴブリンで実験して見るのも良いだろう。上手くいけば、サイクロプスやトロルよりも優秀な魔物を生み出せるやも知れぬ。
やる事が目白押しである。嬉しい悲鳴、と言うやつであるな。
拠点に戻り、出迎えを受ける。
側近が恭しく一礼し、口を開く。
「おかえりなさいませ、陛下。」
「龍脈が発見されました。」
どうやら、吾輩の幸運はまだ続くらしい。
You are らっきー('ω')ノ