吾輩は世界で一番幸運な魔王である。
龍脈。それはこの星が保有する魔力が地表付近へと溢れ出る場所。
この龍脈がある場所では、魔力を持つ者の成長が早まり、かつ強大な魔物が生まれやすい。有名どころで言うと竜種、そして魔王であるな。
魔王が龍脈の付近で誕生するのは、ダシテム様が魔王を生み出す時に龍脈を用いるという理由も有るのであろうが、何より重大なのは
「あぁそれと、新しいゴブリン達が九匹産まれました。」
「む?あぁそうか。めでたい、めでたい。それで、龍脈への接続の準備はすんでおるのか」
「いえ、それはまだ。ですが、魔力の回復速度が異常に早まっているので、かなり近づいているかと。」
魔王は強い。世界に存在するすべての生物の中で、単体で魔王を越える者は居ない。
最強である。だが無敵では無い。多勢に無勢、幾ら強かろうと数の暴力には勝てぬ。
約、三万年前に原初の魔王が百体、邪神ダシテム様によって生み出された。しかしその大魔王も現代では二体しか生き残っておらぬ。
歴史を紐解けば討伐された魔王の数は、千や二千では効かぬだろうよ。
故に、魔王は
傷付いた身体を癒す拠点として、強敵から身を守る要塞として。そして人類圏に侵攻する戦力を蓄える為に。
「なるほど、確かに魔力の回復が早い。これで有れば二日もあれば接続できるな」
洞穴の深さは百五十メートル程か、四日前よりかなり伸びている。壁や天井が半ば程から魔法による固定では無く木材による補強になっている為、少し強度に不安はあるが、吾輩と側近が協力すれば直ぐに魔法を施せるであろう。
「と言う訳で予定変更である、一号、二号。貴様等には明日、ホブゴブリン四匹を伴ったレベル上げと食料調達を命じる」
「ごぶぅ!!」
「・・・カシコマリマシタ」
「死ぬ事は許さん。場合によってはホブゴブリンを盾にしてでも生還せよ」
二匹は静かに一礼し、ホブゴブリン達の方へ合流する。どうやら進化した身体を自慢しているらしい。
兄弟を盾にする、と言うのは酷かも知れぬが、今この二匹を失う訳にはいかぬ。
早々殺される事はなかろうが、ブルーブラッドアイデクスや、平地でのレッサーワイバーン。無いとは思うが、中級以上の竜種との遭遇となれば逃げ切れるかも怪しい。
仮にその様な状況になれば、命に優劣をつける必要がある。ホブゴブリンよりもオーガ、オーガよりもウェンディゴ。
それは当事者達もよくわかってあるのだろう。故に、あの様に最後になるやも知れぬ会話を楽しんで・・、あ、殴った。
ゴブリン共に兄弟愛などないのやも知れぬな。
翌日、一号、二号がホブゴブリンを率いて探索に向かった。六匹には吾輩の【クリエイト・ウェポン】で作り出した武器を持してる故、ティノールベア程度ならホブゴブリンのみでもどうにかなるであろう。
見送りを終えた後、吾輩と側近は前日に産まれた九匹の子ゴブを連れて洞穴の拡張に向かう。
ゴブリンは成長が早い。産まれてから一日も経っていないのに、既に洞穴中を走り回っている。
これだけ動ければ木材の運搬位は任せられよう。
魔法による壁の補強は、吾輩と側近が交互に行う。片方が龍脈に向け掘り進め、もう片方が魔法で壁の補強を行う。魔力が尽きたら交代である。子ゴブ共は、魔法による補強で不要になった木材を解体し、掘り進められた壁の補強として組み直す役割を与えている。
そのお陰で、魔法による補強を待つ事なく掘り進める事ができる。
さらに、龍脈に近いお陰で、かなりの速度で魔力が回復する。流石に消費速度を上回る事はない故、休憩は必要であるが、このペースであれば二日と言わず、今日中に龍脈に辿り着けるやも知れん。
「ゴブブゥ!!!」
「ごびゃびゃびゃ!」
「ごっぶんごぶん」
「・・・只今帰還致シマシタ・・・ぶぅ・・・」
「あべし!!」
「ゴブゥウ!?」
騒がしいのが帰ってきた。どうやらもう日暮れの様であるな。
拠点の中は魔法を光源としてる故、時間の経過が分かりづらい。どおりで子ゴブ共の動きが鈍い訳だ。
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名前: 一号
種族: オーガ
Lv: 9
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名前: 二号
種族: ウェンディゴ
Lv: 11
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うむ、しっかりレベルが上がっておる。ホブゴブリン共も全員レベルが二十五を越え、目立った怪我も無い。順調であるな。
それに、吾輩達も遊んでいたわけでは無い。
洞穴の深さは既に三百メートルを優に超え、床や天井、壁までも全て魔法によって補強してある故、既に木材の補強は必要なくなっているのである。
これも、龍脈が近い証拠であろう。
龍脈に近づけば近づくほど魔力の回復が早くなり、心なしか魔法の出力も上がっておる。
これならば、今晩中には龍脈に辿り着けよう。しかし、一度休憩を挟むべきであるか、子ゴブ共も働かせ過ぎた。明日以降は子ゴブ共もレベル上げに同行させる。その為にも疲労を残す訳にはいくまい。
思考をまとめ、ゴブリン共を見遣る。
今日の作業は終了とし、川で汚れを落とした後、食事の準備をする様に。そう指示を出そうと口を開いた。
その瞬間、背後から莫大な魔力を感知した。
自慢ではないが吾輩は魔力感知が苦手である。下手と言っても良い。どれ位かと言うと、吾輩よりホブゴブリン時代の二号の方が感知するのが早いくらいである。
そのゴブリン以下の吾輩ですら身震いする程の絶大な魔力の奔流が洞穴を駆け抜け、そのまま空へと登ってゆく。
恐る恐る振り返ると、壁に大きな穴が空いており、そこからこの世の物とは思えぬ程純粋な魔力が溢れ出ている。
そしてその直ぐ側で、穴を開けたのだろう側近が口を開く。
「陛下、開通致しました。」
どうやら、食事はお預けの様であるな。
壁に開いた穴をこじ開け、奥へと進む。
中は直径二十メートル程の空間になっており、草木が生い茂り、漂う魔力そのものが灯りとなって空洞全体を照らしている。とても日の届かぬ地下とは思えぬ光景である。
その中央に泉がある。だがそこから湧き出すのは唯の水ではなく、液状化した魔力そのものである。
意志を持つものでは決して生み出せない、無色透明で純粋な魔力。それを圧縮する事で液体に作り替える事ができる。人間共の言う
飲めば不治の病が完治し、寿命が数百年伸びる。それどころか、ダシテム様の呪いすら解呪しうる神薬である。
「取り敢えず封じるか」
龍脈から溢れた魔力は、今も洞穴を通じて外に流れている。
このままではティノール連峰にどんな影響があるか分からぬ故、一度魔法で龍脈を封じる。
但し、完全には封じない。
龍脈を完全に封じてしまえば、今まで様子見に徹していた竜種共が、龍脈を取り返そうと死に物狂いで襲いかかってくるであろう。いずれは竜種共と争う事もあるだろうが、今はまだ、その時ではない。
龍脈の泉に吾輩の魔力を流す。無色透明で純粋な魔力というのは逆に言えば他の色に染めやすいという事。他者の操る魔力と違い、一切の抵抗なく龍脈が吾輩の魔力で染まって行く。と、同時に龍脈の魔力が吾輩に流れ込み、全能感が身体を支配する。
これで龍脈から溢れる魔力の三割ほどは吾輩の魔力として扱える。
「【ボーダーズ・マジカル】」
洞穴全体を、魔力を遮る結界で覆う。
外からの魔法を防ぐ事もできるが、どちらかと言うと龍脈の魔力を洞穴内に溜め込む為である。勿論これも完全には遮らぬ。
全く、なぜ吾輩が竜種共に気を遣わねばならんのか・・・。
「【クローズド・サークル】」
龍脈の泉、その直ぐ手前に魔法陣が浮かび上がる。
【クローズド・サークル】は魔物を生み出す設置型の魔法である。【クリエイト・モンスター】と同じく、生み出された魔物はレベルが上がらず、進化もしない。
だが、違う所もある。
一つは吾輩の魔力を消費しない。
一度発動してしまえば魔法陣の維持も、召喚に使用する魔力も、時間は掛かるが全て周囲に漂う魔力によって補う事ができるのである。
故に、召喚される魔物も吾輩の知力に左右されず、龍脈の莫大な魔力を用いて強力な魔物を生み出せる。
二つ目、召喚された魔物は、魔力が途絶えれば死ぬ。
【クローズド・サークル】によって生み出された魔物は、食事を必要としない。その代わり、自らを構成する魔力と同質の魔力を周囲から吸収する事で生き存える。
故に、龍脈の魔力に満ちた
だが、それを踏まえても破格の魔法である。この魔法無くして、迷宮は迷宮たりえぬ。
「龍脈の掌握、魔力領域の確保、サークルの設置。ふむ、こんなところか」
「おめでとうございます、陛下。これで我等の拠点は名実共に
「で、あるな。さすれば最後の一仕事と行こう」
龍脈の泉に手を付け、魔力を流す。
先程と違い、染め上げるのでは無く龍脈の流れに纏わせる。
龍脈とは星の魔力である。液体の様であり、気体のようでもある。そして同時に一つの塊でもある。其処へ魔力を送り続ける。龍脈の流れに任せながら、しかし龍脈の魔力と交わらぬ様に。
数分程魔力を送り続けていると、無色透明である筈の龍脈の中に、多種多様な色を持つ魔力の塊を感じる。
躊躇う事なく、塊へ魔力を送り接続する。
「吾輩は魔王である、名前はまだない。偉大なる先達へ、接続の許可を」
《初めまして、名も無き魔王。私は、魔王ルシフェル。我々は君を歓迎しよう。》
さて、漸くスタート地点で有るな。