いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる―   作:閃幽零

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32話 極悪。

 

 32話 極悪。

 

 蝉原は無言のまま、スマホを取り出し、一本の映像を再生する。

 

「ん? ……これは……」

 

 画面に映っていたのは、鷹宮自身だった。

 料亭の個室。

 弁護士会の役員らしき男と、向かい合って酒を酌み交わしている。

 

「先生が、弁護士会の幹部と料亭で会談している映像です」

 

「……盗撮云々はあとで問題にするとして……一体、これがなんだという」

 

「録音もしておりまして……先生たちの会話を要約すると、『俺の要請を却下するように圧力をかけた』という感じですね」

 

「……ふん。バカが。圧力などかけてはいない。『バカがアホな請求をしてくるからよろしく』と、起こりうる未来を報告しただけだ。それで何かがどうにかなるとでも?」

 

「なっちゃうんですよ、先生」

 

 蝉原は、にっこりと微笑んだ。

 

「この時、先生が料亭の代金を払いましたね。『ここは奢りますので』と音声にはちゃんと残っております。これは贈賄(わいろ)にあたります」

 

「なるか、バカか。たかが夕飯を一度奢ったぐらいで。そもそもの話、弁護士会の幹部は――」

 

「弁護士会の幹部は公務員ではないので、刑法198条の贈賄罪が厳密に成立するかというと、かなり怪しいですね」

 

 蝉原は、先回りするように言葉を続ける。

 

「裁判所で争えばワイロではないという決断が下される可能性が高いでしょう。法律家は法律家を守りますからねぇ。……ただ、世間はどうでしょうか」

 

「……」

 

 鷹宮の顔から、初めて、余裕の色が消えた。

 

「私は先生のような強者とわざわざ、アウェイである裁判所で戦う気などさらさらありません。やるなら場外乱闘一択。そして、そこは私にとって実家のようなマイホーム」

 

「……」

 

「――『正義ヅラしながら弱い者いじめで稼いでいた悪徳弁護士が、証拠を掴まれても、弁護士会にワイロをばらまきもみ消す!』 キャッチーに脚色はしましたが、嘘はいっておりません。このシナリオをより綺麗に盛って整えた上で、映像と共にSNSで一斉に拡散させる。俺の配下総数は現状10万を超えておりますし、その中にはフォロワー数万を超える者もごろごろおります。愛人(滝本)もインフルエンサーですし、組の人間の中には、解説系ユーチューブをしのぎにしている者も大勢。……全員で一斉に拡散すれば、トレンドに乗せることも難しくないでしょう」

 

「……」

 

 鷹宮は、何も言い返せなかった。

 

「先生、俺がなぜ、前回、わざわざ、先生に、『懲戒請求するぞ』と言いにいったかわかります? 交渉するためだと思います? それとも――」

 

「私を……動かすため……か」

 

「さすが、お賢い」

 

 蝉原は、満足そうに頷いた。

 

「ハッタリをかけまくれば、多少はビビって動いてくれるだろうと思っておりました。事前の調査で、先生の大学時代の同期に弁護士会のお偉いさんがいるのも分かっていましたからね。先生が裁判でお強い理由も、お友達に法曹界の上役が大勢いるから。繋がりって大事ですよね」

 

「……」

 

「先生の敗因は、俺一人を相手にしていると思い込んだことです。先生は懇意にしている上級国民のお友達が30人以上いらっしゃるようですが……俺には10万をこえるゴロツキのコミュニティがある。俺は確かに大した人間ではない。けれど、人の絆というのは素晴らしいもので、一人では動かない山も、たくさんの仲間がいれば動かすことができる。素敵なことだと思いませんか?」

 

「……私が動かなかったらどうするつもりだった?」

 

「先生の紹介料スキームを支えていたコンサル会社に圧力でもかけていたんじゃないですかね。私の配下はもちろんのこと、龍星会の影響下にある企業や個人も大勢いますので、『うちと取引を続けるなら、向こうとの関係は考え直した方がいい』と、ごく自然な提案をさせていただき、先生への紹介ルートを潰して、それを交渉材料にしようかと」

 

「……」

 

「お金がないと出馬もできませんものね」

 

「……っ」

 

 鷹宮の顔色が、初めて変わった。

 

「なぜわかったのか、などという野暮な質問はやめましょう。わかりますよ。人権派気取りが考えそうなことぐらい。『ヤクザ相手にもひるまず正義を貫いた稀代の弁護士!』。ウケそうですよね。選挙、応援させていただきますよ。私のネットワークをどうぞご活用ください」

 

 蝉原はいつだってそう。

 人がもっとも嫌がるムチと、人がもっとも喜ぶアメを熟知している。

 

 そして、蝉原はサイコロを振らない。

 蝉原はいつだって、相手にサイコロを振らせるヤクザの神様。

 

「さて……まだ何かございます?」

 

「……私の……」

 

「はい、なんでしょう」

 

「ブレーンになる気はあるか?」

 

 その問いに、蝉原は、一拍を置いて、ニコリと微笑むと、

 

「喜んで。先生のような野心家のパートナーは何人いても困りませんので」

 

 

 

 

【自己鑑定結果】

 

 名前:蝉原勇吾

 種族:人間(ヤクザ)

 レベル:1

 

 HP:39/39

 MP:13/13

 

 筋力:10

 耐久:9

 敏捷:12

 魔力:9

 知性:D(A)

 悪意:D(S)

 根性:C(SS)

 IT:F(A)

 商才:F(A)

 戦力:E(極SS)

 心理:E(A)

 話術:D(A)

 人望:D(B)

 謀略:G(極SS)

 悪運:超SS(C)

 

 称号:『元いじめられっ子』『宇宙一のヤクザ』

 魔法:『自己鑑定』『カンファレンスコール』

    『霊体回収』『拳気ランク1』

 スペシャル:『威圧覇気』『火事場のバカ気迫』

       『ピンチに鬼強い』

 

 

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