いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
36話 蝉原勇吾は怖すぎる。
龍星会の事務所の地下には、誰も触れてはいけない部屋がある。
分厚い防音扉の向こう。
コンクリート打ちっぱなしの壁に、排水溝だけが妙に丁寧に作られている部屋。
その部屋の中央で、一人の男が椅子に縛りつけられていた。
何度も水を浴びせられたあとらしく、全身がぐっしょりと濡れている。
肩で息をしながら、虚ろな目で蝉原を見上げていた。
「頼む……殺して……お願いします……すいません……ユルシテ……」
かすれた声。
もう何度目かの懇願だった。
蝉原は、腕時計にちらりと目を落として、
「28分か……まあ、このぐらいかな」
タオルで手を拭いながら、淡々と言う。
「いいよ。君は必要な時間分苦しんだ。助けてあげる」
そう言って、ポケットから拳銃を取り出す。
迷いのない動作で、男の額に銃口を押し当てた。
乾いた音が、部屋に響く。
男の身体が、椅子ごと、ぐったりと崩れ落ちた。
蝉原は、拳銃をしまいながら、後ろに控えていた配下のヤクザに、
「あとよろしく」
「うっす」
短い返事だった。
その声には、驚きも嫌悪も浮かんでいなかった。
この部屋では、これがいつものことなのだろう。
★
地下を出ると、外はすでに夜だった。
ネオンの光が、湿った路面に滲んでいる。
蝉原は、夜の街を歩きながら、しばらく何も言わなかった。
無言の時間が続いたあと、僕は、心の中で、声をかけた。
(蝉原……僕は君が怖いよ)
「そうでなくちゃいけない。……たまに俺のことを善人だと勘違いする者がいるから、そこは都度都度(つどつど)、修正していきたいね」
(けど……君が正しいとも思うんだ)
「へぇ、イカれているね」
蝉原は、面白がるような声を出した。
(さっきのヤクザ……女子大生を薬漬けにして売春させていた元締めだよね)
「そうだね。それが?」
(君が殺す相手は、ああいうのばっかりだ。警察も対応できない、本当にゲスな悪人ばかり。……拷問して、凄惨に殺すけど……僕は、心の奥で、それが正しいことだと認識している。怖いけど……いつも、君に対して『やっちゃえ』って応援している……)
言葉にしてみると、自分でも驚くほど、はっきりとした実感があった。
ずっと、見て見ぬふりをしてきた感情。
「それが?」
(……僕はおかしいのかな? 僕も悪人なのかな?)
しばらく、返事はなかった。
信号待ちの赤信号が、蝉原の横顔を赤く照らしている。
「俺の哲学だと、悪人じゃない人間なんていないよ」
(……)
「ちなみに君の場合は、ワルなんじゃなく、脆弱なだけだね」
(……否定できないなぁ……)
苦笑するしかなかった。
他に言葉が見つからない。
「ちなみに俺もそうだよ」
(え?)
「弱すぎて話にならない。ただの臆病者」
(……それは嫌味? それともジョーク? 君は最強だよ……誰も君には勝てない)
「……ふふ」
蝉原は、それ以上は何も答えなかった。
ただ、信号が青に変わって、また歩き出す。
その横顔を見ながら、僕は思う。
この男のことを、僕はまだ何も知らない。
【自己鑑定結果】
名前:蝉原勇吾
種族:人間(ヤクザ)
レベル:3
HP:52/52
MP:18/18
筋力:12
耐久:16
敏捷:18
魔力:15
知性:D(A)
悪意:D(S)
根性:C(SS)
IT:F(A)
商才:F(A)
戦力:E(極SS)
心理:E(A)
話術:D(A)
人望:C(B)
謀略:F(極SS)
悪運:超SS(C)
称号:『元いじめられっ子』『宇宙一のヤクザ』
魔法:『自己鑑定』『カンファレンスコール』
『霊体回収』『拳気ランク2』
スペシャル:『皇気』
『威圧覇気』『火事場のバカ気迫』
『ピンチに鬼強い』『ド根性極道』