いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
1話 借り物の権力。
ディアブロコミュニティ。
その名前は、もう、裏社会だけのものではなくなっていた。
学校の昼休み。
誰かが見せてくるスマホの画面。
帰り道のコンビニの雑誌コーナー。
夜、リビングでつけっぱなしのテレビ。
どこを見ても、その名前が目に入ってくる。
『拡大する日本のスーパーギャングチーム』
『若き支配者、その正体は――』
ネットニュースの見出しが、日に日に過激になっていく。
恐怖と好奇心が、奇妙な形で混ざり合っていた。
みんな、怖がっている。
怖がっているはずなのに、なぜか、目が離せない様子だった。
★
放課後、僕は、近所のゲームセンターに寄った。
たまに、メダル落としでジャックポットを狙いたくなる。
数少ない趣味の一つ。
頭を使わずにぼおっとできる時間って素敵。
セフィアさん?
いるよ。
自販機の影からこっちを見ているよ。
――メダルゲームのコーナーには、見るからに育ちの良さそうな高校生たちが何人かいた。
制服のブレザーと、品のいい喋り方。
近くの進学校の生徒だろう。
最近はゲーセンの治安もいいので、ああいう子たちも普通に通っている。
と、思った矢先、
複数人の若いヤンキーが入ってきた。
大学生ぐらいの年齢。
ガラの悪い空気を、隠す気もなく振りまいている。
治安が良くなったのは事実だけど、バカの襲来がゼロになったわけじゃない。
「いっぱいメダルもってんじゃーん。ちょっと貸して」
いきなりの恐喝。
高校生たちが、顔を見合わせる。
「え、いや、あの……」
戸惑う声に、ヤンキーの一人が、にやりと笑う。
「ちなみに、俺ら、ディアブロコミュニティのメンバーな。これ以上は言わせるなよ」
「でぃあぶ……」
その名前を聞いた瞬間、高校生たちの顔が、目に見えて真っ青になった。
「メダルだけじゃなく、彼女も貸して。別に長時間はレンタルしねぇよ。トイレでさっとすませるからさ」
女子高生の腕を、無遠慮に掴む男。
「や、やめて――」
「あぁああ?!」
恫喝の声。
周囲の客たちは、見て見ぬふりを決め込んでいる。
僕もそうしたかったけど、
ディアブロコミュニティの名前を出されたので、
「あのぉ……」
恐る恐る声をかける。
「辞めておいた方がいいですよ。警察とか呼ばれたら大変だし……」
「あ? なんだ、ゴミモヤシ。イキんな」
返事の代わりに、拳が飛んできた。
吹っ飛んで、ゲーム機の筐体に背中をぶつける。
「……痛ぁ……」
「ディアブロコミュニティの幹部である俺に……よくもナメた口きけたなぁ、あぁ?」
僕は、地面に倒れたまま、
「幹部ですか……えっと、僕の顔、わかります?」
「しるか、ぼけ」
「……そうですか」
じゃあ、幹部じゃないだろ。
ってか、コミュニティの人間ですらないだろ。
僕……というか、蝉原の顔を知らないチンピラなんて、反社の中でもカス中のカスだ。
心の中でそう毒づいていると、
「おまえ、マジでムカつく顔してんな……」
胸倉を掴まれた。
そして、ぺっ、と、顔に唾を吐きかけられる。
……気室に色々やられた過去のおかげで、この手のイジメには慣れている。
懐かしいな、などと、変なところで感慨に浸っていると、
「てめぇ、総長に何してんだ?」
低い声が響いた。
振り返ると、夜間が立っていた。
僕は彼女に、
「タン吐かれちゃった……ハンカチかティッシュない?」
「こちらに」
夜間は、僕の前に膝をつき、丁寧にハンカチを差し出してきた。
まるで女性執事のような所作。
受け取ったハンカチで顔を拭いている間に、
夜間が、ヤンキーたちを睨みつける。
「お前ら、もちろん、覚悟はできているよな?」
「な、なにイキって……」
強がる男の隣で、別の一人が、顔色を変えて、
「お、お、おい、ケンちゃん、やばいって……この人、ハリケーンの夜間さんだよ……リュウさんのアニキ分のアネキ分だ……」
「……ぇ……」