いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
2話 総長の伝説が火を吹き荒らす!
偽物のディアブロコミュニティを名乗っていた連中の顔から、一瞬で血の気が引いていく。
僕は、夜間に、
「悪いけど、処分しといてくれる? この子ら、だいぶ酷い事やらかしているっぽい。脅し方とか手慣れていたから、たぶん、初犯じゃないと思う。被害者を探して、こいつらに謝罪させて……慰謝料も払わせておいて」
「かしこまりました」
深々と頭を下げると、夜間は、配下と一緒に、バカヤンキーたちをどこかに連れていく。
逃げようとしたが、すでにこのゲーセンの周囲はディアブロコミュニティの配下が囲っていたので逃げられない。
残された僕は、アクビ交じりに、またジャックポットを狙う。
そこで、女子高生が、おずおずと、僕に近づいてきて、
「あ、あの……ありがとう……ございます……助けてくれて、あの……」
「いいよ、そういうの。それを言うべき相手は僕じゃないし」
「……え?」
不思議そうな顔をする彼女に、僕は、何も説明しなかった。
そのまま無視して、ひたすら脳死でメダルを落とす。
「ディアブロコミュニティは、この世で最も美しい組織でなくちゃいけない。……穢そうとするやつは許さない」
ボソっと、本音を口にすると、
その女子高生が、
「か……かっこいい……」
などと世迷言を口にしていた。
僕は殴られただけだよ。
今回の揉め事を処理したのは夜間だし、その土台をつくったのは蝉原。
……マジで僕、何もしてないな……
★
夕方、総会前の控え室。
テキトーにスマホゲーをしながら、ヒマを潰していると、
「総長が動けば、毎回、伝説が産まれますね!」
凪が、キラッキラの目でそう言ってきた。
「……はい?」
「今日、総長が助けた女性が、SNSに体験談を投稿しまして! これが、えらい勢いで拡散されているんです! どうぞ!」
差し出されたスマホの画面には、こうあった。
『ゲーセンでディアブロコミュニティを名乗る集団に絡まれた。マジで終わったと思った。そこに現れたのが《本物》のキング!! 《僕の顔、わかります?》の一言でニセモノたちガクブル、気づいたら偽物全員が連行されてた。勿論、お礼を言ったんだけど《感謝は必要ない。ディアブロコミュニティは、この世で最も美しい組織でなくちゃいけない。穢そうとするやつは許さない》とだけ言って、去っていった。かっこよすぎてキュン死した!』
だいぶねじまがっているな……
ところどころ事実がある分、たちがわるい……
この投稿主だけでも大問題だけど、
輪をかけて酷いのがリプ欄だった。
『俺もその場にいたけど、総長、小指で5人沈めてたわ』
『瞬きの間に終わってた。人間の動きじゃない』
『私も前に助けてもらったことある。神対応だった』
『どうやらウワサだと、集めた金を孤児院に送ってるとか』
……僕は殴られただけだよ。
この人ら、絶対あの場にいなかったよね?
こんな数の目撃者がいたら、ゲーセン、パンパンだよ。
ちなみに、《僕が殴られて情けなく吹っ飛ぶシーン》は、
どのバージョンのリプにも存在しなかった。
不必要な情報はカットするという、悪魔の編集。
「……尾ひれだけじゃなく、翼が生えて、火を吹いている……」
噂という生き物は、餌をやらなくても勝手に育つらしい。
僕は心の中で、蝉原に、
(これ、いいの? 好き勝手なこと描かれているけど。得意のハッキングで処理した方がいいんじゃない? ID特定して家凸するとかさぁ)
(リプが5000件ついているけど、全員にやるのかい? もちろん、俺は従順な召喚獣だから、ご主人様から命令されたら実行するけど……どうする?)
(……放っておこうか……)
(賢明だね。人のうわさなんか無視した方がいい。よほどのマイナスになる時なら対処するが、この程度はどうでもいいよ)