いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
4話 共食い。
その夜のうちに、実行犯は全員捕らえられた。
コミュニティの配下もヤクザも総動員。
本気を出した時の蝉原はすべてが早い。
若い実行犯たちは、軽い拷問をするまでもなく、すぐに口を割った。
彼らは、闇バイトの募集サイトで集められた、ただの使い捨ての駒。
『孤児院に金があるから奪ってこい』という情報を流したのは、闇の中にいる人間らしい。
蝉原は、彼らが使っていた闇サイトを、辿っていく。
「……海外勢力の犯行か。コードネームは『ピンフ』……」
蝉原は、画面をスクロールしながら、
「フォーラムの評判だと、わりと名の知れた仲介屋らしいね。コードも手口も中華系のテンプレに似せてあるけど……このログの残し方、妙に丁寧すぎる。ガチモンにしては隙がなさすぎる……ってことは……これ、もっとエグい連中の偽装かもね」
(えっと……どういうこと?)
「犯罪にも、お国柄ってやつがあってね。手口の癖、経由するサーバーの並べ方、決済のタイミング……そういうのを見れば、だいたいどこの系統か分かる。けど、これはわざと中華系の真似をしている感じがする。それもただの完コピじゃなく、変に上位互換」
(その辺、何言っているかわからないけど……つまり、どこかの凄い組織が中国マフィアのフリをして正体を隠そうとしているってこと?)
「うますぎて隠しきれていない……って感じかな。三ツ星シェフに、焼き飯を作らせるみたいなもの」
パソコンの画面を見つめながら、蝉原は、
「おっと」
(どうしたの?)
「エスクロー履歴、辿れたよ。今回の依頼……ピンフに発注したのは、また別のハンドルだ……コードは『ジャッカル』。こっちのコードも安易すぎて捨て垢くさいな。……ご丁寧に、中継サーバーを何個も挟んでる。よっぽど本命を隠したいみたいだねぇ……バックにいるのは、だいぶ大きな組織だな……もしかして、『300人委員会』様かなぁ?」
(300……?)
「都市伝説ぐらい聞いたことない? 世界を裏から操っている秘密結社、闇の世界政府」
(フリーメイソン的な?)
「まあ、そんな感じ」
(その300なんとかが、今回の黒幕?)
「ああ……いや、違うな。その下部組織だね。名称は……『リアルクラブ』。300人委員会が抱えている組織の中流ってところだね」
いつも思うけど、パソコンをカタカタするだけで、なんで、そんなことが分かるんだろう。
不思議だ。
「リアルクラブがジャッカルを経由して、ピンフに依頼して、ピンフが闇サイトで実行を集めた……って絵図だろうね」
(なんで、わざわざそんな回りくどいことを)
「もちろん捜査の手がリアルクラブに届かないようにするためさ。遠回りするほどに足がつきにくくなる。素人なら逆もしかりだけれど、プロなら中間業者を挟んだ数だけ闇に混ざって綺麗に溶ける」
(で、どうするの?)
「まだジャッカルからピンフへの成功報酬は支払われていない……」
蝉原は、画面を覗き込みながら、にやりと笑う。
「ここに、俺たちが割り込ませてもらおう」
(割り込む?)
「ピンフになりすまして、ジャッカルに一本連絡を入れる。『先方の口座が反社条項に引っかかって凍結されたため、振込先を変更してほしい』とね」
(……それだけ?)
「狩人気取りのバカがもっとも狩りやすい。BEC詐欺って言葉、聞いたことあるかい? 取引先になりすまして振込先を変えさせる、企業相手の定番の手口だよ。……向こうも最低限の警戒はしているだろうけど……」
「けど?」
「300人委員会が使用しているであろう符牒、指令暗号、認証カギをパターン別で何個かストックしてあってね……多分、いけると思うよ。ミスったらミスったで、また別の方法を考えるさ」
(よくわかんないけど、お金を奪い取れるってことだよね。……あれ? でも、ジャッカルはお金を払ったのに、ピンフは受け取れない……これ、その二つがケンカになるんじゃない?)
「もちろん、それも狙いだよ。金は返してもらうし、血みどろの抗争もしてもらう。俺に上等かましておいて、逃げられるなんて思わないでほしいね」
(これをやったのが蝉原だってバレたらやばいんじゃない?)
「ブチギレて暗殺者を送ってくるかもね」
(えぇ……)