いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
5話 物騒なお客さん1。
その日、僕は滝本に連れられて、駅裏のラーメン屋に来ていた。
こってり系の豚骨で有名な店で、昼時をすぎても行列が絶えない。
僕たちは運よく並ばずに入れて、カウンターの端に案内された。
「ここのラーメン、SNSでバズってるんだよ。私が紹介したら、さらに伸びると思わない?」
滝本は、丼が運ばれてくる前から、スマホを構えて湯気の立つ位置を確認している。
最近の彼女は、なにを食べるにも、まず写真から入る。
「あんまり店に迷惑かけないようにね」
「わかってるって。ちゃんと許可とってるし」
そんな会話をしながら、僕は、替え玉を一つ頼む。
滝本のフォロワーは、この数ヶ月で倍近くに膨れ上がっていた。
女の子は恋をするとキラキラし始める……
というのは漫画で見たことあるけど、
そういうことなのだろうか?
僕にはよくわからない領域。
――腹八分目まで食べたところで、僕は、
「ちょっと、トイレ」
と席を立った。
こういう時、蝉原はだいたい心の奥に引っ込んでいて、僕に主導権を預けている。
昼間は僕、夜は蝉原。
前は放課後になると僕の体を強奪していたけど、滝本と一緒に帰るようになって以降、総会が始まるまで、出てこないことが多い。
このルーティンが、もう、すっかり体に馴染んでいた。
――店の奥、通路のさらに奥まったところにある、狭いトイレ。
用を足して、手を洗って、さて席に戻ろうかと振り返った、その時だった。
背中に、硬いものが押し当てられた。
金属の、冷たい感触。
服の上からでも分かる、まぎれもない、銃口。
「……蝉原勇吾だな」
低い声が、耳のすぐ後ろで囁いた。
僕の心臓が跳ねる。
全身が一瞬で強張って――でも、その強張りは、次の瞬間、すっと引いていった。
僕の身体から、力が抜ける。
いつも通り、蝉原が、主導権を奪った。
「こんにちは」
僕の口が、そう言った。
まるで、近所の人にでも挨拶するみたいな、のんきな声で。
「……ふざけたガキだ。状況を理解していないのか?」
「俺の背中に銃をつきつけていますね。このマズルの感触から察するに、グロック……G17……いや、G19でしょうか」
背後の男が、一瞬、黙った。
「……17だ」
「おっと。これはお恥ずかしい。フィフティフィフティを外してしまった」
……いや、なんで、背中に当たってる銃の種類が当てられるんだよ。
僕は蝉原の中で、震え上がっていた。
(せ、蝉原、ヤバいって。銃だよ、銃)
(そうだね。物騒なお客さんだ)
心の中の声は、あくまで平然としている。
こんな時まで、この男は、いつも通りだった。
蝉原は、
「場所を変えたいんでしょう?」
静かに続ける。
「だから、わざわざ、こんなところで声をかけた。ここで撃てば、面倒なことになる。同意しますよ。どこにいきます?」
「……聞いていた通りのイカれたガキだ」
背後の男は、感想を一つ口にしてから、
「ついてこい。ちょっとでも変な動きを見せたら、その場で撃つ」
「承知しました。手は上げませんけど、それは不自然にならないようにという配慮ですので、よろしく」
蝉原は、素直に従う姿勢を見せた。
トイレを出て、通路を歩き、カウンターの滝本のもとを通りかかる。
「あれ、ユウゴ、おそ――」
滝本は、僕の後ろに立つ、見知らぬ男を見て固まった。
男の『明らかにカタギじゃない雰囲気』を見て、彼女も何かを察したよう。
蝉原はにこやかに、
「用事ができた。後ろの彼は古い知り合いでね。これから商談があるんだ。……悪いけど、先に帰ってくれるか?」
「ぁ、あの……けいさ――」
訳が分からないまま、けど、自分も何かをどうにかしようと、
パニクって、敵の目の前で『警察に電話する提案』をしようとする滝本に、
蝉原は、
「何もするな」
強い言葉で命令する。
「いいな。絶対に何もするな。命令だ。破ったら……そうだな……二度と、お前と一緒に帰ってやらない」
「……」
「返事は?」
「……は、はい……」
蝉原はニコリと微笑むと、
背後の男に、
「では、行きましょうか」
「……お前、本当に高校生か?」
その呆れ交じりの言葉に、
蝉原は、
「はは」
と、楽し気に笑った。
なにわろてんねん、と思いました、まる。