いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
9話 根性のある政治家。
(蝉原……山本なんとかって議員が犯人だって、どうして分かるの?)
廃ビルを出て、夜の街を歩きながら、僕は、心の中で尋ねた。
「色々と裏を探れば、点と点は、つながるものさ」
(……ふぅん。ちなみに、殺すの? その、山本って人)
「ありえないねぇ」
蝉原は、鼻で笑って、
「彼は、いい根性をしている。いざとなったら、暗部を使って暗殺者を仕向けることもいとわない。……政治家なら、そのぐらいの気概がないとね。それに、山本が死んだら、ロイヤルガーデンと交渉できないだろう」
(思うんだけど……ディアブロコミュニティの総力を挙げれば、暗殺者の集団ぐらい、なんとか……)
「ムリムリ。俺以外全員死ぬよ。下手したら俺も死ぬんじゃないかな」
蝉原は、即座に、否定して、
「せっかく育てた組織を、無意味な敵対で壊したくないよ」
(……いいの? 命を狙われたのに。命を狙ってきた相手と、組むなんて。……それは、ヤクザのケジメ的に、どうなの?)
「ケジメなんて強い言葉を使っちゃダメだよ。弱く見えるからね」
(……)
蝉原は、男から奪ったスマートフォンでそのまま電話をかける。
コール音が、数回。
やがて、回線が繋がった。
『……GX』
女の声だった。
低く、抑揚に乏しい。
言葉の端々に、隠しきれない、刃物のような硬さがある。
「こんにちは、レディ・ストライク。申し訳ないのですが、あなた方が電話で用いている暗号までは存じ上げないので省略していただく方向で」
蝉原は、朗らかに、そう呼びかけた。
「先に一つだけ、忠告を。……あなたのコードネーム、どうかと思いますよ。俺が言うのもなんですが、センスがない」
『……蝉原勇吾か』
女は、名乗ってもいないのに、あっさりと、蝉原の名前を口にした。
『……この番号を、どうやって』
「そんな些細なことは、どうでもいいでしょう」
蝉原は、軽く受け流す。
『……そうだな』
女は、一拍おいて、
『それで、何の用だ。命乞いか? 残念だが――』
「これから、あなた方の依頼主と、相談してきますので。いったん、俺と敵対するの、凍結しません?」
『……依頼主が、誰か、分かるのか』
「山本先生でしょう?」
蝉原は、あっさりと、そう言い切った。
電話の向こうで、女が、息を止めたのが、なんとなく分かった。
『……』
その深い沈黙を受けて、依頼主が山本でビンゴだと確信した蝉原は、
「どうにか、説得してみせますので。……いったん、敵対するの、やめましょう。俺は、あなた方の敵ではない。むしろ、闇の住人という意味では、同朋だと、思っておりますよ」
『………………いいだろう』
女は、しばらく、考えているような間を置いてから、
『少しだけ、待つ。GXはその場に残せ。絶対に殺すな』
そこで、通話が、切れた。
蝉原は、スマホを、ゆっくりと下ろす。
そして、男を見て、
「GXってあなたのコードネームだったんですね」
そう言いながら、GXの口からハンカチをとりだす。
「うぇっ」
と一度えづいてから、蝉原を睨み、
「お前は本当に……どういうガキなんだ……」
「調べ物が得意なだけの、どこにでもいる普通の高校生ですよ。将来の夢はヒラ公務員です」
にっこりと微笑んでから、
「それでは忙しいので失礼。これから山本先生のホクロの数まで調べ上げたのち、アポをとらなければいけませんので」
★
その後、蝉原が調べたところ、
意外な事実が判明した。
なんと、山本が直々に暗殺の命令を出していたわけではなかった。
「秘書の責任にするケースは、政治家のお約束だけど、本当に、秘書が暴走しているパターンだったとは、珍しいね」
山本に心酔している秘書が、山本の意図を勝手に汲んで独断で動いていた。
「どうやら、その秘書は、山本を、心の底から尊敬しているらしい。ボスのために、勝手に、汚れ仕事を引き受けた……ってところか。いいねぇ」
蝉原は、どこか、楽しそうに、
「秘書に、そこまで心酔されるなんて。……美しい政治家じゃないか」
山本の周辺を、徹底的に調べ上げた蝉原は、それから、一本の電話をかけた。
もちろん、自分の番号からではない。
蝉原は、発信元の表示を、気室の父親の携帯番号に見せかける小細工をしてから、秘書のスマホを鳴らした。
(そんなことまでできるんだ……)
「電話番号の表示を誤魔化すぐらい、そう難しいことでもない」
数コールで、繋がった。
『気室先生、どうしました?』
人の良さそうな、しかし、どこか緊張を隠しきれない声。
電話の相手――秘書は、てっきり、気室の父からの連絡だと思い込んでいるのだろう。
「どうも」
蝉原は、あくまで、朗らかに、
「私は、蝉原勇吾といいます」
『……え』
一瞬の、沈黙。
電話の向こうで、相手が、明らかに、姿勢を正したのが分かった。
「やってくれましたね、藤堂さん。あなた、リアルクラブに金を払って、俺を暗殺しようとしたでしょう」