いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
12話 滝本視点
私の名前は滝本凛花(たきもとりんか)。
ギャルモデルをしている女子高生にして――『クラスSガールズ』の一人。
クラスSガールズというのは、蝉原勇吾(せみはらゆうご)に認められた女だけで結成された美少女グループのこと。
ユウゴがヘッドをしているチーム『ディアブロコミュニティ』の誰かがふざけて言い出したのがはじまりで、いつの間にか、界隈で普通に定着してしまった二つ名。
正直、ノリが軽すぎて恥ずかしいと思う日もあるけど、それを口にすると凪あたりが本気で怒るので黙っている。
★
スタジオの照明は、いつも異様に眩しい。
大きな傘型のライトが、白い光を惜しみなく浴びせてくる。
その熱と眩しさに慣れるまで、私は何ヶ月もかかった。
いつも通り、レフ板越しにカメラマンの指示を受けながらポーズを取っていると、モニターの脇から、恰幅のいい男が揉み手をしながら近づいてきた。
千堂(せんどう)。
この業界でそれなりに名の知れた、大手芸能事務所の重鎮。
「いやぁ、凛花さん、今日もお美しい」
媚びるような猫なで声。
愛想笑いの下に、絶対にこちらの機嫌を損ねまいとする緊張が透けて見える。
「やめてくださいよ、千堂さん。私なんて所詮、一介のモデルに過ぎないんですから。あなたのような大物にそういう態度を取られると、仕事がやりにくいというか……」
一応、謙遜してみせる。
こういうのは、業界の作法みたいなものだから。
「クラスSガールズである凛花さんに、偉そうな態度など取れませんよ」
千堂は、そう言いながら、深々と頭を下げた。
ちょっと前まで、この男は、私のことなど眼中になかった。
どこにでもいる派手なギャル……程度にしか見ていなかったのが、態度の端々からダダ漏れていた。
なのに、今は、まるで王族にでも接するみたいな腰の低さ。
「蝉原先生には、ぜひとも、よろしくお伝えください。不肖、この千堂! 偉大なる蝉原先生のためであれば、何でもさせていただきますので!」
ユウゴは、ヤンキーやヤクザや業界人や社長を従えているだけじゃない。
いまや、医者や弁護士や政治家も何人か懐に抱き込んでいる。
金も地位も名誉も、望めば全部手に入るところまで来ているというのに――当のユウゴ本人は、いつまでも『ちょっとした下地作りをしているところ』みたいな、涼しい顔をしている。
ユウゴは、ハンパな男じゃない。
間違いなく、この世界でナンバーワンの天才。
誰も逆らえない、本物のカリスマ。
私は、それを、誰よりも近くで見てきた自信がある。
千堂が去ったあと、入れ替わるように、一人の女性スタッフが近づいてきた。
メイク道具を入れたポーチを胸に抱えて、明らかにおどおどしている。
この前、私のユウゴに向かって随分とナメた口をきいてくれたバカ女。
「あ、あの……凛花ちゃん」
「はい、なんですか?」
「あの……その……蝉原さん……あの後、どう? お、怒ったりしてなかった?」
声が震えている。
あれ以降、ずっとこの調子で私の顔色を窺ってきていた。
「大丈夫ですよ。ユウゴはあなたのこと、眼中にないので」
これは、慰めでもなんでもなく、ただの事実だ。
スタッフの顔が、ぱっと明るくなる。
「……ぁ、あ、そう……それなら……よ、よかったわ……は、はは」
乾いた愛想笑いを浮かべながら、逃げるように離れていく。
その後ろ姿を見て、私は内心、ちょっとだけ笑ってしまった。
かなりビビっている。
正直、自業自得だと思う。
などと考えていると、
「やあ、凛花ちゃん」
声のトーンからして違う男が、こちらへ歩いてきた。
スタジオの空気が、ふわりと華やぐ。
人気モデルの彗星(すいせい)。
背が高く、整った顔立ちで、業界の女子から黄色い声を浴びせられ続けている男。
正直、こいつのこと嫌いだから、話しかけないでほしい。
「いや、凛花さんって呼んだ方がいいかな。あの伝説のヘッド、蝉原勇吾の彼女だもんね」
「彼女……んー……まぁ……」
微妙な言い方になってしまう。
彼女、と言い切っていいのか、私自身、正直、確信が持てていない。
「ん? どしたん? 話きこか?」
彗星は、意味ありげに距離を詰めてくる。
どこか含みのある笑み。
「え、マジ?」
「マジマジ。俺なら、いつでも――」
「いや、そうじゃなくて……え、マジで、私のこと狙ってる? 嘘でしょ? え、私、クラスSガールズだよ? ユウゴの彼女かどうかは微妙でも、一応、ユウゴに認められている女だよ? え、本気? ガチ? え、勇気、すごくない?」
思わず早口になってしまう。
このバカ、勇気だけはマジで表彰もの。
ユウゴが怖くないの?
……いや、そうじゃなくて、ユウゴの怖さが理解できないぐらいバカなのか……