いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
15話 セフィアさんはかく語りき。
放課後。
久しぶりに、一人だった。
滝本はまた撮影。
最近、さらに忙しそうにしている。
蝉原からフォロワーを300万人に増やせと特命を受けたので張り切っているのだろうか。
僕は特に理由もなく、テキトーにハンバーガーの店に入る。
なんとなく、ボォっとしたくなった。
最近、色々と物騒なことが起こりすぎて頭がパンクしそうだったからね。
店内は、下校中の学生と、スマホを覗き込むサラリーマンでほどよく賑わっていた。
揚げ物の匂いと、コーラのシロップの匂いが混ざり合っている。
いつもは、そんな匂いすら気にする余裕がなかったけど、今日は、なんとなく、それが心地よかった。
チーズバーガー二つとコーラだけ頼んで、窓際の席に座る。
改めて振り返ると、マジで、ここ最近、色々なことがありすぎた。
命を狙われたり、政治家と会談したり、蝉原が高熱を出したり。
普通に、疲れた。
窓の外では、部活帰りの生徒たちが、だらだらと歩いていく。
平和だ。
僕には、もう、縁遠くなってしまった平和。
ふと店の中を見渡すと、いつも通り、セフィアさんがいた。
窓際、離れた席。
微動だにせず、こっちを見ている。
トレーの上のポテトには、一本も手をつけていない。
ただ、そこに座って、僕だけを見ている。
んー……
なんだろうな……
彼女のあの執念深さには、もはや敬意のようなものまで感じ始めてしまっている。
僕は、数秒悩んだのち……
何を血迷ったのか、彼女の元まで歩いていって、
「一緒に食べようか」
そう言いながら、チーズバーガーを一つ渡した。
セフィアさんは、僕が話しかけたことに対し、なんのリアクションも示さない。
ただただコクっとうなずいて、そのまま、もそもそと食べ始める。
驕ってもらった時は『ありがとう』というのが基本だと、拳を交えて教えてあげるべきだろうか。
……なんか、最近の僕、ちょっと暴力的になってきているな……
ぜんぶ蝉原の影響だな。
悪い奴だ、蝉原は。
なんてことを思っている間も、セフィアさんは、もそもそと食べ続けている。
食べるの遅ぇ……
おいしかったのか、ほんの少しだけ彼女の口角が上がった。
僕じゃなきゃ見逃しちゃうレベルの小さな変化だったけど、確かに。
「コーラ、飲む? 飲みかけだけど」
「はい」
簡素な返事のあと、彼女は躊躇なくストローに口をつけた。
氷が、カランと軽い音を立てる。
キャーっ!
エッチィっ!
……はぁ……
「あのさ……一個、きいていい?」
「はい」
「僕のことをストーカーしている……ってわけではないよね? 違うよね?」
「はい」
「んー……そうだよねー、こんな聞かれ方したら、そう言うしかないよねぇ」
僕は頭をぼりぼりかいてから、
「なにか用があるとか……なの? 何か、僕にしてほしいことがあるんだったら聞くけど? 『誰かを殺してくれ』みたいなのは、条件次第なところがあって、ちょっと色々アレだけど……たとえば、親が暴力をふるってくるから助けて、とかいうアレだったら、どうにかなるけど」
「親は……いない」
その一言だけ、少しだけ、間が空いた気がした。
でも、彼女の顔は、いつも通り、何の感情も浮かんでいない。
「そうっすか……なんか、すんません」
「はい」
「はいって返事は……どうかと思うけど……まあ、いいや」
チーズバーガーを食べ終わったので、僕は立ち上がる。
トレーを返却口に持っていくと、セフィアさんも、当然のようについてきた。
「どうせだから送るよ。家、どの辺?」
★
夕方の空気は、少し湿っていた。
排気ガスと、どこかの家の夕飯の匂いが、風に乗って流れてくる。
バイクの後ろから、セフィアさんがしがみついてくる。
彼女の胸元は、滝本よりもだいぶ主張が激しいので、なんだか変な気持ちになってしまう。
いかんな……
僕は蝉原勇吾なんだから……こんなあからさまお色気トラップに引っかかるわけにはいかないんだ。
走っている途中、
「アレ」
と、セフィアさんが指をさした。
見ると、くそでかいタワーマンションだった。
エントランスだけで、うちの家より広そうな造り。
言われるがまま、駐車場にバイクを停める。
「……上がっていって」
「ぇ?」
「……部屋に上がっていってほしい……お茶を出すので……」
「あ、はい……」
★
エレベーターを降りて、廊下を進んだ先の部屋。
鍵を開けて中に入ると、驚くほど、何もない部屋だった。
家具は最小限。
壁には、絵も、写真も、カレンダーすら貼られていない。
まるで、ホテルの一室のような、生活感の薄さ。
部屋に入って早々、セフィアさんは当然のように上着を脱ぎだした。
最初は『部屋着に着替えるのかな』ぐらいに思って見過ごしていた。
『いまさら、下着姿ぐらいで動揺すると思わないでくれよ』と、僕はどこか強気に構えていた。
だが、彼女の脱衣は止まらない。
余裕で下着を脱ぎだした。