いじめられっ子にとりついたのは、異世界帰りの経済ヤクザ。理想の未来はヒラ公務員だったのに、裏社会での成り上がりが止まらない―蝉原勇吾は怖すぎる― 作:閃幽零
17話 招待状。
その招待状が届いたのは、一週間前のことだった。
厚手の紙に、金の箔押し。
差出人は、聞いたこともない、クラシック音楽の財団。
封を開けた瞬間、蝉原が、心の中で、
(ああ、これこれ)
と、どこか懐かしむような声を出した。
(なにこれ? 蝉原が何かしたの?)
(新進奏者発掘コンクール、というのがあってね。今年で三回目になる、まだ若い大会だよ。ちょっとした支援をさせてもらった)
(支援って……お金ってこと? いくら?)
蝉原は、色々なところに、山ほど金をばらまいている。
その辺のアレコレに関して、僕はまったく把握できていない。
蝉原が暗躍している時は、基本、寝ているぐらいだからね。
(さて、いくらだったかな)
はぐらかされた。
いつものことだ。
(ちなみに、この支援のことは、内緒にしてある)
(え、なんで?)
(さあ、なんでだろうねぇ……くく)
邪悪な笑みを浮かべる蝉原。
多分、またイカれたことを考えているのだろう。
★
当日、僕と、クラスSガールズの面々、合計6人で、都心にある大きなコンサートホールに向かった。
このクラスSガールズって名称……正直、なんか恥ずかしいけど、すっかり定着してしまったので、いまさらどうしようもなかった。
愛羅が用意した黒塗りの車の後部座席は、いつになく、静かだった。
みんな、ドレスアップしているせいか、どこか、そわそわした空気が漂っている。
愛羅は、艶やかな黒のロングドレス。
肩を出したデザインで、いつもの武闘派の雰囲気とはまるで違う、大人びた色気があった。
滝本は、目の覚めるような赤のミニドレス。
撮影で鍛えられたポージングのおかげか、座っているだけでも様になっている。
凪は、動きやすさを優先したのか、パンツスタイルのフォーマルスーツ。
夜間は、スリッドが激しい蒼のドレス姿だった。
彼女はタキシードを着たがったが、蝉原の悪ノリで、もっともセクシーなドレスになった。
そして、セフィアさん。
放っておいてもついてきそうだったけど、一応、正式に招待した。
流石に、ここまでくると、彼女にも『情』みたいなものが湧いてきてしまった。
僕の隣に、当然のように座っている彼女は、純白のドレスに身を包んでいる。
ドレスはもっていないということなので、蝉原が用意した。
えげつないスタイルと、佇まいの雰囲気がハンパじゃないので、見た目だけは、まるで、どこかの国の王女様のようだった。
表情は、いつも通り、変わらない。
微動だにしない目で、じっと僕を見ている。
この状況で、微動だにせずガン見してくる女の子がいる、というのが、もう、日常の一部になってしまっていることに、僕は、若干の恐怖を覚えた。
★
コンサートホールに到着すると、そこは、僕が今まで見たこともないような、格式高い空間だった。
高い天井、豪奢なシャンデリア。
招待客たちは、みんな、上品なスーツやドレスに身を包んでいる。
どこからか漂ってくる、香水の匂い。
完全に、場違いだった。
ロビーを歩くたび、周囲の視線が、こちらに集まってくるのが分かる。
僕たちが場違いだから――というよりも、明らかに、女性陣5人の美しさが、原因だった。
「総長、緊張しますね……こういう、上品な場所」
凪が、珍しく、そわそわしながら、僕の袖を軽く引いた。
「緊張する必要はないんじゃないかな。お金さえ払えば、誰でも入れる場所だし……」
僕が、テキトーに答える。
すると、
「これはこれは、蝉原様。ようこそおいでくださいました」
声がした方を見ると、恰幅のいい、初老の男が、笑みを浮かべて近づいてきた。
この大会の創設者、片倉さん。
「どうも、こんにちは」
「蝉原様、このたびは、多額の御支援を、本当にありがとうございます」
片倉は、深々と頭を下げてきた。
その仕草には、単なる社交辞令ではない、確かな感謝の色があった。
「いえいえ」
僕は、テキトーに受け流してから、
「ところで、片倉さん、寄付のこと、ちゃんと秘密にしてくれていますか?」
「……もちろん。しかし、なぜ? あれほどの支援を内緒で……」
「いやぁ……よくわかんないんですけど、なんか色々と都合があるらしくて」
「都合があるらしい?」
「あ、すいません。気にしないでください。こっちの話です」
片倉は、一瞬だけ、不思議そうな顔をしたけれど、すぐに、いつもの愛想笑いに戻った。
★
そこで、僕たちの近くに、一組の男女が歩み寄ってきた。
初老のやせ細った男。
白髪をきっちりと撫でつけ、いかにも、権威を纏っている。
仕立てのいいタキシードに、胸には、何かの勲章のようなバッジ。
その隣に、若い女性。
線が細く、育ちの良さそうな顔立ち。
どこか、神経質そうな目をしていた。
初老の男を見て、片倉が、
「小田切理事……」
急に、緊張した声を出した。
小田切と呼ばれた初老は、片倉の言葉を無視して、
僕に、
「君が……ギャングの王様ですか」
僕を、上から下まで、舐めるように見てから、
心の底から見下した声で、
「なんという下卑(げび)た目でしょうか……実に汚らわしい」
「すごいこと言いますね……普通にショックなんですけど」